親父が失踪したらい。らしいとはまた曖昧だと思うが致し方ない。兄貴からの言付けだ。

確か、ブラジル人になってて乱闘騒ぎになったから長く続かなくて日本人に戻ったんだったよなぁ〜。あ?なら日本人の親父が、疾走したってことでいいのか?

一人携帯をパタパタと折り畳んだり、開いたりを繰り返して、何処か興味のない内容を淡々と考えて気づく。

「ってか、日本人の親父の顔見たことねーぢゃん」

とりあえず、他人。面識もなし。別段、どーでもいい内容を兄貴もワザワザ連絡してくれたのか、ご苦労様。

「ハハ、笑っちまうな」
「笑えないでしょ」

独り言のつもりが会話が成立してしまった。突然の声に少なからず心臓が1センチぐらい跳ねたが、問題もなく振り返れば祈が立っていた。

「盗み聴きとは悪趣味なこって」
「人聞きの悪い。運悪く通り掛かったのよ」

運悪く、を強調した祈は至ってにんまり笑っている。きっと何かしらそこで思う事や感じる事があった筈だ。しかし、何も浮かばない。まっさらな感情は日常の一コマに過ぎないということだ。ただ電話が鳴った。出て内容がどうでもよかった。ま、少し笑える話しぐらい。あぁ、でも兄貴と久しぶりに話せたのはなんとなく嬉しかったかも。そして後ろに祈が本当にたまたまそこに居て会話を聞かれていた。ただそれだけだし校舎の一階、玄関前は人通りは多いから強ち運が悪いというのも間違いではないという事。

「家帰れば?」

だというのに、祈はそんな事言うもんだからまた笑いそうにはった。

「なンで?」
「失踪したお父さんの写真でも拝みに」

他人を詮索するまではいかないが、祈りらしくは…まぁ、ない。けど、心配みたいな余計な感情はないようで、嫌味ったらしく言った一言についに堪えていた笑いが漏れた。ってか前の独り言も聞いてなんすか。

「笑いすぎ」
「いや、笑うなってのがムリでしょ」

まず、写真なんてありっこない。しかも拝みにって遺影かよ、なんてツッコめば不謹慎ね、なんてわざとらしく憐みの目を向けるからたまったもんぢゃない。

「あー、今日ヤベー。祈がおもしれー」
「いつもつまんないみたいぢゃない」
「ン?あれ、愛犬のがおもしれーよ。からかうのはな。祈は別の面白さ」

駆け引きだとか、攻防戦だったりとか、結構なスリルくれんだよな。これが。

「祈の親父って血縁者?」
「その質問結構ギリギリセーフなラインね」

セーフなんすか。ま、聞く方も聞く方か。
なんとなくもう少し話していたくて運悪く通り掛かった祈さんを憐れに思い、玄関前の自動販売機に金を突っ込んで、缶ジュースを二つ。一つを祈に渡せば、無駄に礼が返ってきて、そんなんぢゃねーのにって思うけど。まぁ、悪くない。そんで、またさっきの話の続きに戻って、ベンチに腰を掛けた。

「正真正銘、お父さんです」
「どんな人?」
「んー、厳しい人かなぁ〜。お母さんが結構天然でね」
「あぁ〜、祈半分って感じだ」
「なにが?」
「祈もたまに天然入ってるっつてンの」

缶の蓋を摘まんで引く。炭酸が抜けて、プシューと爽快な音がした。祈は多分わたしが缶ジュースを開けるのを待ってたようで、隣で同じ音が鳴る。謙虚にも、頂きますという声が聞こえてそこら辺の律儀さってお父さん似?なんて聞いたら、両親共々常識は備わってます。なんて言うもんだから、さすが祈御令嬢。無駄な知識も、無駄なやり取りも、無駄な笑い方も習っちまってんだよ。アンタ。

「斗南さんのお母さんは?」
「ンー、そーね。。。一言で言えば破天荒。そんでカイチョーさんが前言ってたように不条理ってとこかね。」
「不条理は斗南さんのおうち自体だと思うけど」
「言ってくれンね。そのとーり」
「ま、人のこと言える家庭でもないかもね」


ちょっと寂しげに、諦めたように笑った祈をただぼーっと見た。

祈には祈の、色々な事情がある。どうしょうもない時だってある。そんなの不可抗力だ。結局、あたしも祈もそこで過ごして生きていくしかないけど、、さぁ。全部が全部ぢゃねーのなんて祈も理解してるんだろ。だからそんな顔すんだよ。


「アタシは結構自由かもな。逆に自由すぎてこえーよ?もしかしたら、兄貴達とも半分しか血繋がってないぢゃねーのって思うし、まず親父が変わり過ぎて誰がどれで、どれが親父で、アタシの親父ってダレよって感じだし。母親も自由奔放だから、しかたないって言えばしかねーんだけどさ」

親父って言葉になんの重みもないのは事実。親父っていう言葉が存在するだけで全く意味は持たない。

そして自由に対して多分祈は真逆。自由なんてこれっぽちもない。あったとしても限られた自由で、箱庭の中の自由だ。家庭柄、そうかもしれない。でもさ、それって本当にアンタが決めた事か?アンタ次第で少しは変わるんぢゃねーの?しらねーけどさ。

祈はアタシの長ったらしい言葉の後ゆっくり口を開いた。

「自由、かぁ。いいぢゃない。羨ましい。」
「ンー、どーだろ。そんないいもんぢゃねーよ。ま、祈に羨ましいなんて思わねーけど」
「いってくれるわね」
「お互い様っしょ」

にひひっと笑えば、祈が可笑しそうに笑った。そーいう顔でいいんだと思う。

「なにがいいのかしらね」
「オイオイ、それ聞いちゃう?わかってンぢゃねーの」
「ま、他人は他人だし。わたしはわたしだし?ってこと?」
「そーいう感じだだけど…」
「ん?」
「一度っきりの人生っしょ?やるだけやっちゃいましょーよ」

どうしょうもない事もある。どうにも出来ない事もある。そんなのキャンキャン吠えてどーすんのよ。まだあるって、絶対。アタシには兄貴も御袋もいる。今がある。アンタだって刃友だって居て、この最高な舞台もある。祈だってあンだろ。零せない大切もん。

「適度に、本気でがモットー」
「いいモットーね」

だろ?なんて笑って、一緒にジュース飲んで怠い勉強に謹んで、楽しい星奪り。ってな。


「なら、手始めにわたしと斗南さんが適度に付き合って、本気で結婚するってのはどお?」
「ハッ、アタシをマジにさせてからその言葉吐くんだな」






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