画面の簡潔な文書を眺めて斜め上にある時刻を確認して携帯を二つパタリ、と閉じた。一人でに寂しく浸透していく音は沈黙に溶けていった。

それでももう直ぐだ、まだ…大丈夫。文面ではわかりきれないけど彼女もまた焦ってるに違いない。

ーーゴメン、祈!!!実家帰らなきゃいけなくなった。

そう言われたのが昨日。柊ちゃんの部屋で何時も通り寛いでいた時だった。いきなりの実家からの連絡に柊ちゃんは凄く慌てて、そしてゆっくり不機嫌になっていく様は何故か滑稽だった。でもだ、慌てていたのはちょっとしたパニック。すぐに不機嫌になったのはーーなんでよりによって、明日なんだよ…。って小言を零していたから…多分そういうことだと思った。

「必ず間に合わせる」

そう言って財布と携帯しか持たない柊ちゃんらしさで日付けが変わる前に天地を出て行ってしまった。

「あと一時間…」

電話もくれた。メールもくれた。それでも彼女からくれたものだから嬉しい。でも欲が出ちゃうから…会いたいだとか、一緒に過ごしたかっただとかーー今日はとても忙しかった。そして何時も以上に騒がしくて計り知れない嬉しさと感謝の日で埋め尽くされていた。ーーけど、足りない。ほんの1ピースがわたしの寂しさを埋めてくれない。大変遺憾ながら、こんか自分に泣けてくるぐらい。



「オイオイ…祈。なんっーつう顔してンのよ」

ふと声がした方向は窓だった。見れば窓に手を掛ける柊ちゃんがぶら下がって、一生懸命に残りの窓を開けていた。

「いつから久我さんに弟子入りしたのよ」
「バカかっ、こんなクソ広い天地を順調に通って来たら間に合わねぇーだろ。最短距離ってきもちーな」

その言葉に時計を見ればもう、三十分もなかった。ーーギリギリセーフだろ?そう言って安堵の笑みに柊ちゃんの八重歯が光った。そうね、柊ちゃん。約束破った事ないからそんな心配してなかったよ。少し強がった言葉がわたしの小ささを隠し、誤魔化すようにヘラッと笑った。


「その調子だと会長のとこにも行ってないでしょ?」
「ア?ンなのあと、あと」
「怒られるわよ…罰ゲームかも」
「オウオウ、上等だ!受けて立つ」


部屋に入る前に口を脱いでトンっと一っ飛び。部屋の片隅にそれを置いて、ぐるっと目を配らせ一言。

「アンタの部屋こンなに狭かったか?」

部屋の一角、てんこもりの紙袋やビニール袋。はたまた剥き出しの品も、多数保管してある場所を柊ちゃんは呆れながら見ていた。
ーー凄いでしょ?
今日一日で貰ったプレゼントを運ぶのはとても大変だったけど。

「これね、久我さんからもらったの。柊ちゃんに着させようと思って」
「使い道間違ってるから。それアンタが着んだよ」
「で、黒鉄さんからは…ほらこんなにいっぱい!!」
「如何わしい想像しか浮かばねーアタシって今ンとこ正常?」
「無道さんの娯楽グッツ」
「しかとか!マニアックすぎんだろ…」


ーーナニナニ?エロいおジョー様ですこと。
ーーあら、猛獣は誰かしら
ーーお互い様っしょ
ーーま、否定できないわ

なんてお決まりのギャグトーク。多分、いや…絶対柊ちゃんはあるものは使うから、興奮するんぢゃないかしら。わたしも興奮するし、なんて脳内ピンク。すれば無道さんの脳内スクランブルエッグの言葉が反芻して思い出し笑い。

「きもちわりー」
「お褒めにあずかり光栄です」

ーー褒めてないわ
そんな柊ちゃんは放ったらかしで、片隅に置いたあるプレゼントを次々に柊ちゃんに見せていく。

それに、これは紅愛が焼いたクッキーで。この黒にピンクラインのジャージは静久。この美容品は氷室さんで、、、みのりはこんなにお菓子くれたわ。紗希は可愛い髪留め送ってくれて……しかも会長も玲もね…とまくし立てるように今日の出来事を話していく。柊ちゃんは黙って聞いてくれてて…何処か嬉しそうに、何処か拗ねたように、そんないろいろな感情が混ざっているようで後味が悪い表情をしていた。そして、またわたしも。いろんな感情が混ざってよくわからないから

「でも、やっぱ…なんか足りなくて」
「…」
「柊ちゃん、に…」
「…紗枝」
「ーーー会いたかった…」

やっと呼んでくれた名前。やっと会えた恋人。やっと大切な日を大切な恋人と…。そう思えたら口はどんどん素直に動いていった。そしてポロっと少しの涙。

「紗枝…ごめん。。。アー…ちげーな。。クソっ、なンか紗枝が素直過ぎて狂うわ…」
「アハハ…ぐっす」

大きな掌がわたしの頭をくしゃっと撫でた。そのまま頬に滑らせて、顔が近い。照れたように笑った柊ちゃんは一つ頬にキスを落とす。今度は額に、次は、鼻。その後は唇に。おでこをコツンっと合わせて二人して笑う。目元の涙の後を舌がなぞって擽ったい。そうしてどちらともなくまた唇が合わさって、ギュッと抱きしめられたら…もうお腹いっぱい。

「紗枝、誕生日おめでと」
「ありがと、柊ちゃん」

そのまま抱き合ったままベッドに倒れ込んで暫く、あーっと思い出したように柊ちゃんが飛び起きてびっくり。そのまま天地を出て行くときになかった荷物を隅から取り出し…やるっと。ぶっきら棒に一言。

見れば鮮やかなピンク色のマフラー。まだ寒いから、な。って柊ちゃんは袋から取り出した。

「ありがと」
「ココ…」
「ん?」
「隠さないと、な」

バッと手を首筋に当てて隠す。目の前の意地悪い笑みにを見た瞬間、カーッと赤くなっていくのが自分でもわかった。

「二重の首輪とかってどうですか?おジョー様」
「〜〜っ…。よくそんな恥ずかしい事言えますわね、おーじ様…。でも痕なんてすぐなくなるわよ」
「無くなる前にまたつける」
「威張るなぁー!」

ふわっと欠伸。時計を見ればわたしの誕生日は終わっていた。今日は此処止まる、って言い出した柊ちゃんも疲れて眠そう。わたしも今日は疲れた。

ベッドにまた寝そべる私は柊ちゃんの腕枕で胸の中。そんな柊ちゃんはゴソゴソとポケットを漁って一枚の紙っぺらをわたしに向け渡した。

「はい!あと、これヤるよ」
「なにこれ」

小さく折りたたまれた紙を開けば、真っ白などこでもあるような紙に柊ちゃんの字。

ーー、一生分の米たき妻券
(使わなきゃぶっとばす)

少々物騒な言葉が入ってるけど

「ばーか」

なんか子供じみて笑っちゃったけど…


「バカぢゃねー」
「バカよ」

ーー、だってわたしが柊ちゃんの米たき妻ですから

なんて真顔に言えば林檎のように真っ赤に熟した柊ちゃんが見れて思わず抱き付いた。




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