会議があると生徒会室に呼ばれた。なのにその部屋にはわたし以外の生徒会役員がいない。その代わりに、ドアを開けてすぐ…一目瞭然なほどの大きな白い垂れ幕にーー祈紗枝!生誕!おめでとう!なんて太字で書かれていたから、あの方にしてやられたらしい。

「あら、祈さん。待ってたわ!どうぞお掛けになって」

会長の特等席。椅子はフカフカでグルグル回るそこに何時もの如く、優雅に脚を組んだ会長が座っていた。

「えーと……どうしたんですか?」
「何をおっしゃってるのかしら!今日は祈さんの生誕十七周年ではないの」

何故だろう言い方が豪華だ。

「おめでとうございます。祈さん」
「ありがとうございます。まさか会長がわたしの誕生日覚えててくれるなんて」
「何を言ってるの!祈さんの大切な日はわたしの大切な日。わたしの大切な日ならば天地の大切な日でしょ?」
「んー、なんか物凄い大事になってますよ…」

はは、と乾いた声が漏れた。でもやっぱり覚えてて祝ってくれる事は嬉しいから、会長の隣の椅子に促されて座った。

「そこでです。わたしから祈さんへささやかな催し物を用意しました。」
「催し物?」

なんか、ちょっと怖い。。なんて思うのは多分この人だから。

「本当はもっと盛大に、優雅に、牛でも共に削ぐぐらいインパクトがあるものを考えていたのだけど、静久がダメって言うもんだから…涙をのんで耐えたわ」
「そ、そうですか」

ーーナイス。静久
此処にいない人物へ心の中でそっとお礼を一つ。しかし、その怖さや危なっかしさは先ほどの後輩達とは全く別物だけど、少なからず興味が湧いていたわたしは心を踊らせた。

「はい!まず星河さん」

ぱちっと、指が鳴る。すると巨大モニターに紅愛が映し出された。そこには一生懸命、クッキーを焼く姿があって、隣にはみのりがつまみ食い。

「これ…」
「そう、今日あなた星河さんからクッキー頂いたのではないかしら」

そうだ。今日紅愛からわたしの誕生日だからとクッキーを焼いてくれたのだ。ーーわたしのクッキーは本当に美味しいのよ。なんたってこのわたしが作るんだから。と自信満々に言われたのは覚えている。

《ちょ、みのり。食べないでよっ!あっ、まだ焼いてないって!》
《ならこっちはいいか?》
《だめっ!あぁっ!なんで食べちゃうのよっ》
《紅愛〜。これ焼いたあるけどべちゃべちゃ〜》
《う、うるさいわね!!こっからなのよ!それは肩慣らしっ》

本を片手に分量をちゃんと測ってる紅愛にきっと、いや。絶対だけど、クッキー作りそんな慣れてないんだってことは目に見てわかった。けど、わたしのために。みのりに食べられてまで、わたしがクッキー好きなの知ってて、こうして作ってくれている好意がやばい。粉まみれになった紅愛には笑ってしまったけど、何回も挑戦してくれている。

「くくくく、ぷはっ。可愛い顔が真っ白。どお?面白い上に嬉しいでしょ?」
「はい。とても…」

次に映し出されたのは静久。なにやら、トレーニングに使うジャージを選んでいるらしい。ブツブツと何やら呟きながら選んでいた。

《祈さんって何色好きなんだろう》
《そもそも、サイズってわたしと同じぐらいでいいのかな》
《祈さんはやっぱり長袖長ズボンがいいかと…》

見れば激安バーゲンと書かれたお買い得セール中の看板。熱血系で体育系の軍団にもみくしゃにされながら冷静に思案する静久はまさしく熟練者。もとより強者。寧ろ、身を流れに任せてる程に、抵抗もなくもみくしゃ。

「ぷくくっ…静久真面目なのよ、あなたの事しか頭の中にないのよ」

月次にモニターに映し出されていく人物。
そういえばシドさんは自作自演のDVDーー確か題目はアンサムに捧げるハイウェイ。を貰ったなとか、氷室さんから嫌味なのか、本気なのか、老けていくお肌に潤いをっというキャッチフレーズ付き美容品を貰ったなだとか、映し出されて行くうちに色々思い返して…

「祈さん。あなたはこんなに愛されてるわ。あなたのそのままを皆見てます。もっと自由に、そして我儘に、そして貪欲に…そのステージは此処です。あなたに用意できるものはこのステージですけどご不満があれば返品も可です」
「いえ、謹んでお受け取りしますわ」

会長はわかっている。目の前の枷は取り払えたけれどまだ、シコリ部分は残っている事に。だからもう一度わからせて、とことん破壊しようとするその優しさが会長のプレゼント。此処ではわたしは自由だと、そう根強く言ってくれるこの環境こそが本当に居心地良くて泣きそうに嬉しくてしかない。




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