「おねーたま、今日誕生日なんですよね?おめでとうございます」

ささやかなプレゼントですが、、と久我さんの手の中には綺麗にラッピングされた紙袋。まさか、後輩にプレゼントを貰えるとは思わなくて驚いた。

「ありがと」
「いえいえ、あ。此処で開けてもらっても構いませんよ」

受け取って早々、本人を目の前に開けるなんてと思ったけど久我さんは何時にもましてウキウキしているようにも見えて触発されてしまったらしい。紙袋を丁寧に開けてみれば白いフワフワした生地が出てきた。

「いやー、なんかおねーたまって白ってイメージがあったんですよー。しかもそれ、肌触り良くて…あっ!ちなみに順ちゃん的ポイントはフードについた猫耳です」

ーーまぢ、萌えっ!おねーたまったらそんな嬉しいからって見つめなくても誰も取りませんって。

後輩に貰った始めてのプレゼントを広げてみて固まる。ん?っと首を傾げて観察してみれば言葉通りフードの先端には猫耳がぴょこって生えていた。それだけぢゃなくて、お尻には長い尻尾。サワサワと撫でればやっぱり言葉通り肌触りは最高。うん。可愛いわ。とてもとても、可愛い。ただ、どうしよう…。嬉しいには嬉しいのだけど…。

「久我さん、ありがと。着るかは分からないけど、着せることはできるから嬉しい」
「へ?おねーたまが着るんですよ?え?着ないんですか?せっかく、選んだのに…」
「待って!着るわ!当たり前ぢゃない!」
「ぢゃぁ、今度おねーたまのお部屋遊びに行くんで、着てくださいね」
「う、うん!」

そうだね。着ないとね。って言い聞かせてそのプレゼントはまた紙袋の中へ。その時、わたしを大きな雄叫びで叫び散らす人?が上級生の廊下を物凄い勢いで走ってくるのが見えた。うん、人ね。怪しいけど。でもなんで、またビニール袋?というより、後ろで引きづられてる無道さん大丈夫かしら?

「ファミマリ仮面参上!!」
「ロ、ローリ、ン……ロー、ン」

ハァミマリ仮面ーーいや、黒鉄さんは息を荒くして急停止。引きづられていたローリン仮面ーー無道さんの頭にスッポリ被ってるビニール袋はとこどころ穴が空いて真っ黒な髪の毛が出ていた。

「いのりんが誕生日だと聞いて駆け付けました!さ、二号。ローリン仮面、早く立って!さぁーー」
「いやーん、綾那。今日のパンツピンクなのぉー?おねーたまの誕生日だからって奮発しすぎ」
「お前等まとめてトレイの便器にダンクシュートしてやろうか?あぁ?」
「「ぶはっ!!ーーー…その前に廊下にダンクシュートされてます」」

めり込む二人の顔面に廊下は血で染まった。大丈夫かしら、と笑っていれば鬱陶しそうにビニール袋を取った無道さんがわたしに向き直した。

「本当すいません。こんなどうしようもない脳内スクランブルエッグみたいなバカ共が…」
「だ、大丈夫よ」

脳内スクランブルエッグって脳がゼリー状ってことでいいのかしら。なんてボケてみて、やっぱり汚染されてるのかな。

「い、いのりん。これ、あたしの形見だと思って大切…に、」
「はやてちゃぁーーーん」
「三流芝居がぁっ!!!どんな渡し方だっ!!」

這いつくばる黒鉄さんの震える手からビニール袋を貰って中身を見れば剥き出し。黒鉄さんらしいなぁーなんて思って、中身を漁った。

「うーん、チョコ。とスポーツドリンク…と縄?これはあれよね、ネクタイ。えーっと、後はーー、」

ゴソゴソと拝借して、お菓子やら飲み物やら可愛いなぁなんて思ってたら、どんどんよくわからないものまで出てきて、最後に手に持った小瓶に目が止まった。そして目の前の無道さんがそれを見るなりピタッと止まる気配もした。
ーーこれ、媚薬…よね?


「じゅんじゅんがねー、いのりんへのプレゼント何がいいのかわからないって言ったらいいお店知ってるって連れてってもらった。チョコプレー萌えるんだって。やっぱり夜の運動は喉乾くからスポーツドリンクでー、ネクタイは目隠しにも縛るのにも使えるハイテクな代物だって言ってたから。うん…色々お勉強になりますなぁ〜」
「よし、順。目を潰されるのと耳削がれるのとどっちがいいか選べ。今日は祈さんに免じて手っ取り早い処罰で許してやる」
「待って!綾那っ!それ、綾那が手っ取り早いだけだよね!?しかも、段々露骨になってるからっ!待って、その釘バット何処から持ってきたの!!?それだと顔面全部潰れちゃうからっ!!」

ぎゃー、ぎゃー、わー、わー、そこに色々物騒な音や鈍い音も響いて、ーーしかも廊下のど真ん中。黒鉄さんはハッピーバースデートューユー、なんて大声で歌い出すから恥ずかしくて堪らなかった。

「ハッピーバースデーって何語?」
「英語だよっ!!」
「いい?はやてちゃん、ハッピーバースデーっていうのはね、日本語でわたしをあなたの物にしてっていう意味なんだよ?」
「わー、じゅんじゅんって頭いいんだね」
「お前らの細胞をこの世から抹殺してやるよ!!」
「綾那ハッピーバースデーーー!!」
「バッ、寄るな!抱きつくなっ!」

わたし置いてけぼり?なんていう疎外感を持つのもなんとなく可笑しい話だけど…
取り敢えず結構私達は注目の的で、どうしたもんかと思うけど久我さんから貰ったプレゼントも黒鉄さんのプレゼントは頂いておこう。

そうして暫く、何度目かの血を吹き出す久我さんと黒鉄さんは虫の息。ピクピクと微動して動かなくなった。でも大丈夫。二人は肉体的にも精神的にも強いって事が今日改めて確認できたから。そんな二人を見下す無道さんは流石と言えよう。今なら頂上戦に出れるぐらい。そんな荒ぶる闘志と荒い鼻息を落ち着かせた無道さんはやっと落ち着いたとこっちを見た。

「あ、祈さん。」
「ん?」
「誕生日…おめでとうございます」
「ありがと」

無道さんは普通でよかった。

「これ、ささいなものなんですが…」

そう言って紙袋の中身を見れば恋愛シミュレーションゲームのソフトが三つ。表紙にはメキメキメモリアル3から5…。

「暇は最大の敵だと思うんで…」

そうね、ここってこれが普通の人ですもんね…。
わたしは無道さんの照れ顔を見ながらそう思った。




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