ガリっと身体に悪そうな音が鳴った。見ればほぼ氷で出来たアイスを柊ちゃんが噛み砕いている。その音は、わたしにとって不協和音でしかなくて顔を歪めた。
「よく噛めるわね」
「ナンデ?アイスって食うもンぢゃん」
いや、うん。そうなんだけど…と歯切れ悪く返せば可笑しい奴と笑い飛ばされた。ま、それが悪いとは言わないけれど…。しかも、クーラーガンガンで半袖、半パン。真夏といっても流石に寒いのではないのか。
ーージャリ、
また一つ音が鳴る。それにやっぱり身震いしそうになって腕を見れば鳥肌が立っていた。
「あちぃ」
「流石に寒ささえ感じるわよ、この真夏日に…」
「ンだよ、なら部屋戻ればいいじゃん」
「嫌よ、暇だもん」
柊ちゃんは特に興味もないようにーーあっそ。と短く返して冷蔵庫を開けて冷えたペットボトルを取り出した。まさか、まさか。と思うけれど、やっぱりそうで、あろうことか片手にアイス、逆手にペットボトルを持ちまたベッドに座った。
「ンー、このアイスにコレあわねーな。やっぱこのアイスには炭酸がいいわ」
ジャリと、一口。口の中の物が無くなったと思えば今度はペットボトルに口を付ける。それの反復で、等々わたしは限界を感じた。そっと、柊ちゃんの隣に座って半ば強制的にアイスを取り上げ、一口。避難の声が聞こえたけど知らんぷり。流石に柊ちゃんみたいにガリガリ噛めないから一口噛んで後は口内でコロコロ塊を転がした。
「食いたいなら食いたいって言えばいいっしょ!!もう一個あ…ってオイ!それも冷蔵庫に入ってーー」
「やーだ」
逆手に持たれたペットボトルも奪い取れば柊ちゃんの眉間にどんどん皺が寄って行く。手が伸びて、交わし。手が伸びては、交わし。柊ちゃんは諦めたようで、もう手は伸びてこなかった。けれど、不服そうに盛大に舌打ちをした。
「アタシのなンだけど」
「知ってる」
「飲んでねぇーぢゃん」
「うん!邪魔だから机に置いておく」
「なら、返せっ!」
「やーだ」
「…なんでアタシのばっかなンすかねー」
「柊ちゃんのがいいから」
瞬間、溜め息。ついつい可愛くて眉間の皺を人差し指でグリグリ押し付ければその手を取られた。
「アイス食いたい」
「冷蔵庫に入ってるわよ」
「冷蔵庫までがメンドィ。それにどーせ、またアタシのがいいとかなんとか言って奪うっしょ」
「うん!さすが柊ちゃん」
満面の笑みを浮かべてまた一口。舌で舐め回した氷の塊は甘かった。それを見計らったかのように取られた手を引っ張られ、押し当てる行為を吹っ飛ばしそのまま舌を捻じ込まれた。
熱いヌルッとした舌と舌が絡んでは冷たい氷が冷ます。時折漏れる吐息に拍車が掛かって夢中になるその行為が終わったのは氷が完全になくなったときだった。
離れた瞬間、どちらともつかない熱い息だけが残り、ずり落ちそうな溶けた氷を見た。
「寒い」
「クーラーガンガンでアイス食えばな」
「…ねぇ、寒い」
柊ちゃんはずり落ちる寸前の氷を全て口の中に入れた。さっきとは真逆。次は重なる唇から熱い舌と冷たい氷がわたしの中に入っていく。寒い、寒いと身を柊ちゃんに近付けて柊ちゃんはそれに応えるように抱き締めて、、
溶け出した真夏の熱はそっと瞼を閉じて見る夢。心地よさを覚えては、また離れられない残像のように。