テレビに映し出された映像をぼんやりと眺めていた。糞面白くもないバラエティーにお世辞でも笑ってやれわしない。そんな雑音を垂れ流しにしたまま台所の隅にある冷蔵庫を開けて、そこからミネラルウォーターを取り出そうとした。すれば隣にある別のペットボトルが目に入りーーそれは、わたしが絶対に飲まないような、甘ったるい、後味が残るような物で、ーーふと、順の事を思い出した。

昨日、順は帰ってこなかった。その前の日も、その前の日も。その前は確か帰ってきてた気がするけれど、逆にわたしがいなかった。時計を見遣ればもう十一時を過ぎているけれど、そんなの関係ないとさえ思って自嘲する。

そもそも、帰るもなにもない。順にとってここは帰る場所ではないからだ。そしてそれはわたしにも言えることで、お互い様だった。

冷蔵庫を閉めた。思考を終えたと同時に。そのまま垂れ流し中の部屋へ向かってソファーに腰を沈めては、またつまらないバラエティー番組を観る。

「このまま帰ってこなきゃいい」

ぽろっと出た言葉は本音で、それにホッとするけれど、そう顕著に感情を出している時こそ招かれざる客(もてなす気は全くないけれど)は訪れる。玄関からカチャット鳴った音に敏感に反応を示す耳もまた厄介だと思った。

「あっやなーー!!ひさしぶりー!ご飯たべた?買ってきたんだけど一緒に食べない?」
「あぁっ?」
「なになに、その目?怖いんですけどー」
「うるさい、寒いから早く閉めて」

相変わらずだった。そのままで、そのままの順だった。それがまた怖いくらいで、それを極普通に返すわたしも怖いぐらいだ。

わたしの目の前でガシャガシャとビニール袋からあれやこれやと取り出したものはオカズやご飯。いい匂いがした。しかし、それを鼻腔で感じても視界を向けることはなく、ただ流れている映像をぼんやり見ていた。

「邪魔、見えない」
「よく言う。見てない癖に」

タッパを外しながら呟く。そこでやっとわたしの視線は机の上に向いた。そこで、また戸惑い、眉間に皺が寄るのが自分でもわかった。

ーーなんだというのだ、嫌がらせか…

逃れるように机に置いたペットボトルを掴み、荒々しく液体を飲み込む。準備し終わった順はその間に台所へ消え、戻ってきたと思えばあの甘ったるい液体が入るペットボトルを掴んでいた。

「よく食事にそんなもん飲めるな」
「それ、前にも言ってたね。これ案外ご飯に合うんだよー」

あっそ、と短く返して、隣に座る順は割り箸を割る。
ーーこれ、案外ご飯に合う
お前もそれ、前に言ってたよ。
そうは言ってやれない。だから口を噤んで箸を持った。

「いただきます」
「いただきまーす」

オカズをつつく割り箸。前は赤い箸だった。今自分は青い箸を使っている。前と変わらない箸を。わたしはオカズつつく。そのオカズはわたしが順と同居して始めての晩御飯に食べたものだ。あまり拘りもなく、食に興味もないわたしが美味しいと素直に零したもの。

ーー嫌がらせか…

素直に口に入れるそれに美味しいと、零す事はないのに、隣でやっぱココのオカズ美味しいね、と話しかけてくる順に鬱陶しさを覚えてしまうのに、、、

「なに泣いてんの」
「うるさっ」
「…」

二週間前に、もう無理だね。と言った順はそのままの順。二週間ぶりに食事を共にする順はそのままの順。隣に座る癖も、いつだったか綾那の隣がいいと言い出したその時から変わらない。

「綾那…ごめん」

なんのごめんだ!と叫んでやれない口は嗚咽を呑み込む。すれ違い始めた生活も、想いも、修復が出来ずにズルズルと続けてしまった自分の間違いは今も後悔と懺悔の塊になった心にしこりを残していた。口下手だから、素直になれないから、そんな言い訳も淡々と流れ混んでいるのに、それさえ出ない。

「順、じゅ、ん」

謝らなきゃならないのはわたしの方だ…

「ねぇ、綾那…」
「ヤダっ、」
「綾那っ!聞いてよ!」

箸が落ちる。眼鏡をかっさらい無理矢理顎を持たれーー順の大きな瞳がわたしを見ている。
口を噤んで、耳を塞いで、心を閉ざして、
順の声も想いも行動も無にした自分に何を言うというのだ。
ーー今更何を泣いてるんだ、わたしは…

「最初からこうしとけば良かったっ」

そう言った順の声は悲痛に震え、痛いぐらいに耳に届く。歪められた表情に、目を大きくさえ呆気に戸惑う中、強く強く抱きしめられた。

「綾那が素直ぢゃないのも、言葉をあまり出さないのも、全部知ってて、、それさえも好きだったのに…っ」
「じゅ、ん?」
「それに満足出来なくてっ、欲がいっぱい溢れてきて…ダメにしたのはあたしだけど…」

身体を締め付ける腕が震えていた。おずおずと、ゆっくり腕が上がって今にもしゃくり上げそうな背中に腕を回す。

「仲直りしたい、、!今更、そんなの都合がいいと思うけど。でも、あたしは綾那と一緒に居たいっ」

何を言ってんだ。順、お前は何も悪くない。震えたのは身体か、瞼か、心か、
ーーやっぱり、枷を外してくれるのも順だ…

「順、ごめんっ。本当に……ごめんっ」

もう嗚咽さえ、しゃくり上げる身体さえ我慢することない。否、出来ずに心が叫んでいる。

「順と居たい。順は何も悪くない、、、」

ごめん、ごめん、と譫言のように涙と一緒に流れた言葉に応えるように回る腕に力が篭った。
ーー帰ってこなければいい、
それも本音だった。愛想つかれ、嫌われたと思ったから会いたくなかった。でもそれは逃げてたのと一緒だった。

「順、好き」
「あたしも、好き…」

コツンと合わさる額。涙でぐちゃぐちゃとか笑えると思ったら、順がくつくつと笑い始めて、つられて笑ってしまった。そのあと訪れた沈黙は何時もより恥ずかしくて歯痒い。やっぱり垂れ流しにしてよかった。無音は流石に耐えられない状況で、ちょっとの雑音にこんなに助けられた事はない。
多分、順もそれに耐えられなくなったのか動き出したのは順で、距離を埋めたのも順だった。それにやっぱりどこまで順なのだと、安心して、そこも改善しなければ二の舞になるとも思った。

「しょっぱい」
「そりゃね」

だから、次はわたしから距離を埋めようと思う。









その後



「ねぇ、綾那。知ってる?喧嘩後のエッチってめっちゃ感じるらしいよ」
「なっ!お前はまたそういうことを言う!!このド変態!離れろっ」
「また素直ぢゃないんだから〜」
「う、うるさいっ」




オチが微妙…ww
ただなんかこーいうのって日常茶飯事そこらへんで行われてそうかと思い…ww
書いてて困ったw
結構ボツネタだけども、アップww







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