「うーん、物騒ね」
祈は慌ただしいナース達を眺め、渋るように呟く。が、至ってその表情は極普通で淡々としていた。祈の隣では同じように観戦していた玲が難しい顔をして顎に手を当てている。五戦全てが惨敗。それもたった一人に…。見れば一戦交えた生徒は重さは様々でもボロボロ。

「一筋縄ではいかない事は分かっていたが……」
「うん、かなりってところね」

まだ特別ルールが形式化されて最初の段階だった。だ、というのに。そう、不安要素は多々あるという事で、相手がたの実力が計り知れないのも事実。しかし、

「ま、こちらの実力も逆に然り」
「あら、玲よくそんな難しい言葉知ってるわね?授業で習ったの?玲の習った事をすぐに使いたがる癖、直した方がいいわよ」
「そんな癖はねぇーっ!!!」
「やだーっ!ヒステリックな男の子はモテないわよ」
「性別を改竄するなぁーっ!!」

不穏な空気も一掃され、ざわつく観客の中玲は溜息を吐き手すりに肘をかけて背中を預けた。そして、そっと一点を見遣る。驚愕と困惑、そして友人を心配する面々を。
祈は玲の視線の先を見て呟く。

「あの子達には強烈だったかもね」
「あの忍者はまた他の事考えてるようにも見えるが」
「あぁ、ある意味似てるものね。ベロちゅーの公開プレイ、、みたいな?」
「お前も少し疑惑気味だけどな」

ーーいやーん。玲ーー!ひ・わ・いー!
テンションが高くなるにつれ壊れていく祈にただげんなりと肩を落とす。一つ溜息。疲労に満ちた表情を浮かべ撫で声を無視した玲を祈は無視し、ーーすればさっきのそれとは一変。祈は何かに気付いたように玲の後方を見た。玲も近付く足跡と気さくな声に顔を向けてみれば斗南が「よお」と手をヒラヒラと掲げていた。

「お二人さん、相変わらずで」
「斗南さん、朝ぶりね。偵察?」
「祈、朝はもっと優しく起こしてくんね?偵察なんて大それたモンぢゃねぇよ。楽しそう、ただそれだけ」
「サラッと惚気てンなよ…」

玲はこの場を立ち去りたい気持ちに駆られて、ぐっと押しとどまった。ふと、斗南一人な事に違和感を覚えて玲は問う。が、

「あのアホは?」
「ありゃ、バカだ」
「どっちでもいいわ!!」

話が進まないのは何時ものことで、余計な体力と気力を玲から奪い取って行く。

「あいつはーー、今のクレイジーな試合を見て余計にクレイジーに吹っ飛ばしにイッタ」
「よくわかんねぇーよ」
「思う事は人それぞれってこと」

斗南は乱暴に髪を掻き上げ、吐き捨てるように言った。どう見ても斗南は苛立っているように見えて、玲は黙り込む。そんな斗南に反応したのは祈だった。

「嫌悪感?」
「いや、逆」

斗南は手すりに肘をつき、今尚ざわつくナース達を呆然と眺めた。幾つもの試合に緊張と高揚する気持ちを今迄持っていた。楽しさや嬉しさやワクワクやドキドキや。そんなプラス面の感情とは程遠い、違った緊張感と、これはプレッシャー。斗南はそれに懐かしさとこの上ない快感を得ていた。

「似てると思って」
「似てる?」
「米軍基地」

祈も玲も斗南が言いたい事に納得した。似てると言っても命がどうとかそんな重いモノではない。ただこの、温い感じを一掃していた人物ーー達は、斗南にとって隠れた部分を鷲掴みし引き摺り出そうとしていた。

「弱ければ負ける。あいつらはそれにプラス怪我すんぞって警告してやがる」
「まぁ、同感ではあるけど」
「ソコだよ、ソコ」

必死だの、どうなの。理由がどうなの。人それぞれワケあって目的があって、ここに席を置き剣を交えている。士道に付き合って此処を訪れていた斗南に一つ一つ、此処にいる理由が増えていったのは事実だった。
此処にいる祈も、上条も、会長も…

「ケンカ…かぁ〜」

祈が呟いた。ゆっくり息を吐き出すように。

「怪我人とか出てて不謹慎だと思うんっすけどね……ひじょーに、ワクワクしちゃってんの」

斗南の苛立ちは相反する思いからであった。こんな試合は此処のモノではないとする思いと、こんな試合に懐かしさと高揚感を湧き出してしまう思いと。

「なぁ、お前なんで大地行ったんだ?」
玲の問いは愚問だと斗南は口角上げた。

「んなの、おもしれーからぢゃん。祈とも上条とも試合えるチャンスがある。神門は?」
「そりゃぁ、あのハゲ共が気に食わん!叩きのめしてやる」

ケンカが始まる。どんな形であれ、きっとそれは簡単な理由で、引き出すのも簡単な気持ちから。玲は自然と面白いと、根っこの部分を引き摺り出されていた。

「二人って微妙に似てるわね」
「「は?」」

祈の言葉に二人の声が重なる。

「こんな口悪くない!」
「こんな凶悪面ぢゃねぇー!!」

また二人の声が重なる。
祈は堪える事もなく笑った。それは二人にとって熱の拍車をかけていく。

「お前ともヤッてやンよっ!!」
「上等だ!!いつでも来いやっ!!」


ケンカだ、ケンカ。
これは祭りだ。温さなんていらない。弱い奴が負ける。弱い奴が怪我をする。たったそれだけの真剣勝負。偶然だろうが故意だろうがそんなのどうでもいいのだ。

ーーさてさて、あの子達も覚悟決めないとね

祈はもう一度、反対側の観客席を見てそっと思った。

「あ、祈〜。これ終わるまでヤるのやめとくか?」
「嫌よ。プライベートとこれは区別して」
「リョーカイ」
「よしっ!お前ら二人共掛かってこいやーっ!!!!」

ただ勝てばいいんだと、教えてくれたのは此処。刺激をくれたのは黒服。本能に忠実に、ただそれだけで、根本的なモノなど変わってないってことだ。




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