斗南さん、と見知った声に振り向くと案の定、頭上にお花を散りばめたようにニコニコ笑う槙が教科書を持って歩いて来た。おぅ、と手を上げてヒラヒラさせて軽く挨拶。その直後、目線は槙を通り抜けその後ろーー堂々と上級生のフロアーを歩く傷の女は槙の刃友。そいつはわたしと目が合うと会釈をしたからわたしは、逸らさず目で挨拶。
ーーーそれ、やめさない。
と脳内で言うおジョー様の注意はしかと。(これが案外伝わらないらしく、誤解と恐怖を生むらしいけれど)

「斗南さん、移動?」
「んー、移動って言ったら移動」
「意味ありげね」

気になるわ!!っと目を輝かせるもんだから困った。

「なんでそこ隠す必要があるの?」
「いや、隠してねーケド」
「ぢゃぁ、どこに移動なの?」
「屋上」

ちょっと沈黙。ちらっと槙の背後を一瞥すればそいつは呆れたような顔つきをした。
(ケンカ売ってんのかよ)

「屋上で授業なの?」

天然キャラもいいとこだ。
槙のその言葉にーーはぁ、と凝り固まった溜息を吐いたの二人。わたしとそいつ。終始だんまりを決め込んでいたそいつをこじ開けたのもやっぱり槙で、そんな槙はブツブツなにやら一人で呟いている。

「先輩…」
「なに?ゆかり、ちょっと待って!今考えてるの」
「いや、考えなくてもいいですから」
「なぜ?屋上での授業なんて滅多にないのよ」
「だから、それは授業ではないんですって」
「授業ではないの?もっと謎が増えたわ」

やめてくれ。わたしが悪かった。だからそんなくだらない事で討論しないでください。本当に…。

「任せたわ」
「え?ちょ、、」
「斗南さぁーん!待ってー!!」

スンマセン。平謝りは心の中で、ってことは悪いと思ってないんだケド。あまり、というか一回も会話したことないそいつには可哀想な事をした。スンマセン。もう一度平謝り。勿論、心の中で。





***



「なんか用でショーカ?」
本日は晴天。屋上は自分一人。暖かい陽気が絶好の昼寝日和だと訴えている。のんびり出来ると、想像を絶する騒音と無駄な雑用に精を出す生徒会も、鬱陶しい授業も抜け出したというのに、寝っ転がって暫く…わたし以外の無人の屋上に気配が一つ。近付く僅かな足音に目を開けば、見下ろしているのは先程巻いた槙の刃友。

「斗南先輩、その質問は愚問ですよ」

ジリジリと焦がすような目線に、ふぅと一息付いて上半身を持ち上げフェンスに凭れかかった。ガシャンと音が鳴る。そいつは今も無言の圧力をかけていた。

「悪かったって。刃友っしょ?荷物は持ってやれよ」
「悪いと思ってないですよね。。今日のは槙先輩の荷物ではなくて斗南先輩や荷物を持ったんです。それにわたしからしたら槙先輩を一つとして荷物とは思いませんので」
「熱血なラブ発言だこと」

で、何しにきたん?その言葉は飲み込んで隣のアスファルトを二回叩けば、怪訝に眉を潜ませた。何ですか?という問いに今度はわたしから無言の圧力。すれば負けたかのように黙り込みおずおずとちょっとばかし距離を空けて隣に腰を下ろす。

「優等生もサボりとはね〜」
「優等生って誰が決めたんですか」
「顔的に」

お気の毒に、とでも言いたそうに哀れな目を向けられた。確信した。さっきも思ったが、わたしにケンカ売ってる。

「なんだその顔」
「残念ですが、生まれつきなんですよ」
「あー、そーかい、そーかい」

ひねくれてんなぁ〜、わたし以上だ。面白い。そう言えば初めて名前を呼ばれて初めて会話したなぁ、そんなくだらないことを思いながら空を仰げば隣のそいつが動く気配がした。見ればズルズルと身体を横たえて溜息を吐いていた。

「疲れてンな」
「しょうもない人達がいるとこちらも難しいんですよ」

私情なんて知らないから、大変なこって、と冗談めかしに言ってこちらからは触れず。そこから黙り込んだそいつは静かに息をする。流れる雲がゆっくり過ぎてそれさえも見失う程に。

「止まってらンねーよ」

ボソッと呟けば、視線が横から突き刺さる感覚があった。なにいってんの?って感じだろうか?それでも何も言わないそいつが聞くも聞かないも何もかも関係なくわたしは思う事を口にする。

「時間も、雲も、今だって、ほら。な?」

柄ぢゃねーのは十分承知。きっとこいつが情けない顔をしてたのが悪ぃーんだ。

「何も与えてもらえない。ならコッチからってコトっしょ?」

立ち止まった奴に興味はねーけど、

「斗南先輩ってそういうキャラでしたっけ?」
「キャラぢゃねーわ!!もっかい槙と試合てぇーんだよ。コッチは」

そう、それだけだ。お前のことなんて知るか。

「槙にはお前がいねーとダメなンだよ。お前もそうだろ?槙がいねーと欲しいもんも手にはいらねーだろ?」
「先輩はモノではありません」
「あー、そーかい、そーかい」

都合が良いことにチャイムが鳴り授業が終わる。つんめくようなその音が、星どりの鐘ならもっと都合が良いんだけど。そう言えばあちらも同意したように「そうですね」と俯いて立ち上がる。パタパタとスカートをはたいてドアがある方に向かった。

「斗南先輩」

ドアの前で立ち止まる。わたしはただ背中を見ていた。

「サボりは程々にしてください」
「あ?お前もしたろ」
「わたしは若気の至りですから」
「わたしも若いわ」

本当に可愛くねーな。と欠伸を一つ。すれば、「あと」とつぶやいたそいつの空気が変わる。

「ありがとうございました」
「…おう」
「あと、」
「まだあんのかよ!」
「お前ではなくて染谷ゆかりです」
「あ?」
「お前は失礼に値するので染谷でいいです」


そう残してドアを開けた。その背中が消える前にわたしは、「また来ていいぞ」と声をかけたけれど多分そいつーー染谷はもうここにくる事はないと思った。

そう落ちる事が後退ではない。進むことがココでは全て。どんな形でもいい。進んだ結果がそれなんだ。

一ヶ月後、染谷は白服になりわたしは黒服に戻った。その立場で会ったとき、清々しくイメチェンなんてしやがって、柵も重みも受け入れ克服したようだ。

「斗南先輩おはようございます」
「んあ?あぁ、はよ」

うざってぇーぐらいに綺麗に笑やがる。




ーーーー
勝手に捏造w
ゆかりと柊ちゃんってなかったなぁーって思って、なんか続きも書きたい気分。
柊ちゃんはみんなの女房。素敵姉御肌のおねーさん。案外世話焼きで面倒見良し。多くは語らず、って感じで。大木に小鳥が集まるような、ね?笑
そんな柊ちゃんはいのりんの嫁!ww




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