ーーちょ、あなたなんなんですかっ!!
ーーおい!捕まえろ!
ーーそっちはパーティー会場だぞっ!
ーー警備隊、警備隊!不法侵入だ!会場の方に向かってる
ーーうわっ!突破されましたっ!!



「ンだ、案外たいしたことねーのな…紗枝のがつえーンぢゃねーの?」

ちまちまと廊下の人を掻き分け壁に貼ってある案内プレートを一瞥。(ビンゴっ!!)身なりは上級。黒光りするお高いスーツを身に纏う男共と逃避劇を始めて二十分弱。会場疎か、あいつが居る場所さえ把握してないあたしはただただ走って、騒がしさと人の流れである方、方向を脳内指定した結果ーーーこの先10メートル先、こんな日を邪魔する厄介なパーティーが開かれる会場がある。
(今年最後にイッパツかましますか…)

あたしは豪華な、それはそれは大きい両開きドアを蹴り破った。


***



お偉い方と挨拶するなんてことは容易だった。丁寧なお辞儀、丁寧な挨拶と丁寧な言葉遣い。どれも小さい頃から装い得た教訓と知恵だったからだ。一人の男の対応が終わる。たんたんと交わし、終わりを持っていくのも容易だから、直ぐに会話は終了。男の背が見えなくなるのを確認して一つ小さく溜息を吐いた。(あー、つまらないな…)毎年恒例のこのイベントにわたしにとっては全く意味がない。だというのに、毎年必ず出席は求められる。ご迷惑にも、拒否権など皆無で鬱陶しい。今年はなお、それが一層増す。そうだ。今年は彼女と過ごしたかったのだ。大切は日に大切な人と。脳裏浮かぶ顔は今日の事を告げた時のぶっきら棒な顔。散漫しては浮かべるその表情は多分不機嫌なそれ。(あー、会いたい会いたい会いたい会いたい)

「つまらない」

今度こそ吐き出す息と共に零れてしまった。
そんな事を空のグラスを手で揺らす。無機質なグラスは今の状況のようだった。ふと目の前に立つ影が揺れて顔を上げれば本日何度目かの作り笑いと決まった挨拶をした。その時、ーーードカンッ!!
その華やかな会場に似つかない音がわたしの鼓膜を震わせる。あたりは騒然。わたしは瞬間そちらに目を奪われた。考えるより先に身体が動いたのは言うまでもない。紛れもなく突如華やかさを奪い取ったその人物はキョロキョロとと何かを探すように辺りを見渡し、後ろを振り返り慌てる。追うガードマンを華麗に交わし、少しの余裕を孕んだ不敵な笑みの人物にわたしは思いっきり飛びついた。

「うおっ」
「しゅーちゃん!!」
「あー、いたいた!ったく探したンだけど」

柊ちゃんは突然の衝撃でも強く抱き止めてくれた。会いたかったよ、会いたかったよ。脳裏に浮かんでた人物がここにいる。
なんで?とか、どうやって?とか、そんなの後回しで良かった。ただガードマンが続々と集まってきてしまうのだから、一つだけだった。

「連れてって」
「そのつもりーーってことでオサワガセしました。でわ、ここらへンで」

ーーおジョー様はいただいていきますンで

柊ちゃんはわたしの手を取って走り出した。
「あ、そっち遠回り」
「はやく言えよ!!」
あっち、と指をさせば方向転換。忘れなることなく机をひっくり返し眼前に迫るガードマンが一気にこける。(あらららら…)笑ってしまう。この後どうなるんだろう?お説教だけじゃ済まされないだろうに。

「紗枝!!」
呼ばれる声に振り返る。見れば呆れた表情を浮かべる玲が親指を立てていた。
(ごめん!玲、あと任せた)
後先を考えるより今目の前にある背中を見ていたかった。




***





「神社いこー」
「わたしよりあなたのほうが肝が据わってるわよね」

息も絶え絶え。逃げた先は何の変哲もない道路。一言目にそれを聞いて内心驚きと面白さ。は?と片方の眉尻を上げるけど、気づいたように謝った。

「あー、わるい。ぶっ壊して…」
「この後大変だなぁ〜」

ニコニコと笑う。否、ニヤニヤの方があっている。もー、隠せない程嬉しい。そうやって考え込んでしまう柊ちゃんも可愛くて尚、ニヤニヤ度が増してしまう。
虐めるのもやめようと、ーー嘘よ、と抱き付こうと動く前に柊ちゃんが強く抱きついてきて、へ?っとへんてこりんな声を漏らしてしまった。

「一緒に、年越ししたかったンだよ…だから許してくれませんかね?」

もー、バカバカバカ!アホ!たらし!大好き!大好き!
今頃、玲は大変なんだろうなぁ。ごめんね?今年最後の我儘。この人といさせてください。そんな事を口に出したら、抱き締めている彼女は言うだろう。
ーーー来年の我儘も、某ご期待、と…

「来てくれてありがと」

嬉しさにわたしは柊ちゃんの胸元に顔をギュッと押し付けた。




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