夢中になる事ーー星奪り。無理矢理夢中になる事なんてものはハマるとほぼ遠い言葉だと思った。しっくりくるのはやっぱり星奪りで強い奴らがゴロゴロいるこの場所は退屈をさせてくれない。楽しくて楽しくて笑っちまう。こーいうことでしか夢中になれなかったあたしにあり得ない事が起きて一気に粉々。ほつれ止めってあんの?修正の仕方は?チョット、わかんねーわ。と一人ごちる。

「ちょ、まぢ近付くな」
「柊ちゃん、それは流石のあたしも傷付くなぁ」

迫る事は余裕。寧ろ得意。迫られることは苦手。ってか嫌い。やめて頂きたい。ここまで直に迫られた試しなどこのかた脳内を探してみてもないんだよ。

「柊ちゃんのいけずー。夜這いに来といてそれはないわ」
「チョットヨクワカリマセンケド」
「あら、本当にドSね。そーやってわたしを虐めて楽しい?ま、そういう所もわたし好みですけど」
「チョットぢゃなかった。全然わかんねーけど!!?」

柔らかい布団は自分の物。ってことで此処は自分の部屋。ただ押し倒されてるのはあたし。ってことは危険反応常備、現在進行形。

「ってか鍵掛かってたろ!?」
「柊ちゃんのあたしの間を裂こうなんて野暮な鍵はいりません」
「…答えになってねーんだけど?」

言葉はスルー。祈は容赦なくあたしの胸に頬を寄せて気持ち良さそうに目を細めた。それが擽ったくて歯痒い。上目遣いにあたしを見てニコニコしてやがるこいつを引っぺがすなんて容易なはずが逆に両腕があたしの上に乗っかる祈をギュッと抱きしめている。

「素直になった」
「うるせー」
「ねぇ、バクバクいってる」

ーーそりゃ、あたし?それとも祈?
猫みたいに擦り寄る祈は皮膚、肉、脂肪を越えて心臓の鼓動を聞いている。自身の腹部部分に触れる胸からも同じだけ、ーートクン、トクン、と心地良い音が聞こえてくるもんだから「お前か、」と呟くけれどわたしもだったらしい。

「攻めたい」
「はい?」
「だから攻めたい」

心地良さに目を閉じていたわたしは下からの不服そうな声に目を開く。見ればそんな声に似つかわしくない無邪気な笑顔を向けていた。そうこうしている内に祈の手は動き始めていて服の上から腰の曲線を辿るように撫で上げた。

「ちょ、っ、まて!」
「なんで?」
「わたしの特権だろ」
「いつから斗南さんの特権になったのよ」

いつからとか、そんなの分かったら苦労しない。祈を抱いた事は数えられないほどで、抱かれたことなど一回もなかったから。それでも良かった。それでも気持ちよかった。まるでこちらも抱かれているようなーー優しくて情熱的でグチャグチャに蕩けていくあの感覚は自分だけの特権で通っていたから。

「抱かせて」
「…」
「抱きたいの」

上から見る祈と下から見上げる祈とでは何処か表情も、雰囲気も違った。何時もの祈はいつだって恥ずかしそうに赤らめて、今から起こるだろう快楽に身を震わしている。今は、違う。愛しいモノを見るかのように、壊れものを扱うように、それでいて瞳の奥底には燻る熱がフツフツ見えては隠れ、見えては隠れ。そんな祈に見とれていたのか、閉じ込められたいたのかはわからなかった。
けれどもその願いを奪う程、幼稚でもなく、上から降る唇を遮る程、出来た人間でもない。

熱いこの感情は、剣を振る時のそれと似ている。脳がそれしか映さず、頭から徐々に身体に侵食していく。ビビっとした電流が甘く、尊い。修正させてくれ。こんな気持ち知らなかった。もうひとつのアンタを知ってしまったらどうにかなっちまいそうだ。

「ねぇ、いい?」

濡れた唇を当て難い、見える天井は白く、見慣れた沁みさえ視界に入らない。細い首に腕を絡めて、髪を握ればサラサラと指の間から抜けていく。もう、抜け出せないトコロまで来ているんだと瞼を閉じて暗闇を見た。





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