夕歩がなんの迷いも感じる事なく駆け込む先が此処であると自惚れするも直ぐにどす黒い渦が渇いた胸に集まってきてしまう。
あー、なんてことだ。と項垂れそうになるのを耐えてただ泣きそうな程歪められた顔を見ていた。悲痛だと思う。きっと今の彼女にピッタリで、それでいてあざとい。それはあたしが浮かべた言葉で、葛藤しながらも彼女を迎え入れる。

「紅茶でいい?」
「…うん」

熱い紅茶に砂糖を通常より少し多く。ミルクを入れてかき回せば夕歩だけの愛用のミルクティーが出来上がった。彼女の前にそれを置いて、あたしは飲みかけの珈琲を一口飲む。若干ぬるくなってしまった。幾分か玄関で長居しすぎたのかもしれない。いただきます、と小さな声が聞こえた。あたしは何も言わない。夕歩のミルクティーをゆっくり飲む音、気配だけが部屋を満たす。
どうしたの?そんな言葉がどれほど無意味が知っている。わかっているからこそ、あたしは何も言わない。夕歩は言いたい時に言うだけ。此処は彼女の逃げ場所で、逃げてきた矛先など等に知っているから咎めもしない。

やめてしまえばいいのに…
あのおちゃらけ御庭番は夕歩は夕歩でしか見てない。それ以下でもそれ以上でもない。
ーーー夕歩、大事な大事な守るべき人。

「…ゆかり、おかわり」
やっと話したと思えばミルクティーの催促。少なくても場には似合っていないだろ、と小さく笑って夕歩に甘いあたしはハイハイとカップを攫う。

「もっと、甘めがいい」
「今日はワガママさんね」
「いつもだもん」

そうだ、彼女は何も言わない。何かあることなんてわかっているのに。何も言わずただ此処を、あたしを逃げ場所として逃げてくる。それも知っているからあたしは何も聞けない。聞かない。言わないし、言えない。
これでミルクティーを彼女に与えるのは何度目だろう?数えられない程だった。それの数だけあたしは怖いのだ。あぁ、はやく諦めればいいのに。そうして奪えていたらこの時間程いらない時間はないのに。あなたとわたしが共有できる事なんて薄っぺらいティータイムぐらいだ、とまたどす黒い渦あたしを虐めた。





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