大きな行事ごとには決まって生徒会役員が総出で仕事に励む。名ばかりのそれは、別段生徒の見本ではなくーー強い者たちの集い。そしてひつぎの雑用が係り。わたしは長い延長コードを巻きながらぼんやりと辺りを見渡した。

「おい、星河。危ないっしょ?ちいせーんだからコッチ運べって」
「小さいは余計よっ!!」
柊ちゃんは紅愛の腕から大きな段ボール箱片手でヒョイっと奪い取り代わりに書類を手渡した。不服そうに顔を歪めたのは一瞬、それを呆れて見遣る柊ちゃんはポンっと何センチも低い頭を軽く叩いた。黒い延長コードが軋む。目線はいつだって彼女を追って、それでも器用に手は動いてくれるから有難い限りだ。そうしていじらしく見せ付ける柊ちゃん(いつだって天然だけど)は通り際に玲が、「ぬぬぬ、」と呻き声を上げてパソコンと睨めっこしているのを見てまたやれやれと溜息を零した。とりあえず玲の手は固まり進んでいない。
「神門、そんなコンピューター処理なんて帯刀にやらせろ。体力だけが取り柄だろ。コッチ手伝ってくださいませー」
「…遠回しにバカって言ってんのか?」
「ちげーよ。ソッチ系より、コッチ系っしょ?」
肩で担ぐ段ボールを逆手で指を指してニッと笑えば仕方ないにと玲は重い腰を上げる。そうして大きな段ボールを隣の廊下まで運ぶのに二人は行ったり来たりを繰り返している。

柊ちゃんは足癖が悪いし口も悪い。怖い顔だし、滅多に笑わない。だから一般生徒は絶対に近付かないし、剣待生でも好き好んで近づく人はあまりいないと思っている。ま、極たまに。例えばわたし。例えば槙さん。例えば生徒会。(生徒会においては接してわかる柊ちゃんの良さに惹かれてるんだけど…)
玲も紅愛も案外、柊ちゃんの言うことは聞いている。脅しだったり、後ほど降りかかる悪意や悪戯、弱みだったりとは別に。柊ちゃんの言うことを文句を言いながらも聞いている。多分、そこがいいところ。姉御肌でぶっきら棒だけど優しい。説得力があって、たまに悪戯したりと子供らしい一面もあったり。(あ、ダメだダメだ…)
我慢出来なくなるほど、自分が彼女に首ったけなんだと再確認して、げんなり。

そーいえば、中身の良さを知ったのはいつだっけ?そう考えていれば背後に気配。瞬間に肩をやんわり掴まれて背が勝手に後ろに傾いた。当たる柔らかみと香る良い匂いは柊ちゃんのもの。「どうした?」とハスキーな声がすんなり耳に落とされ、真っ暗な心にじんわり浸みる。そこでやっと、わたしの手が止まっていたのだとわかり、ゆっくり斜め後ろを見上げれば頭半分高い柊ちゃんが仏教面で立っていた。多分わからない人にはそう感じるはず。(でも、ちがう…心配、してる?)

「ナニよ?ボーッと突っ立ってンなよ。ーーー気分でも悪いのか?」

最初は照れ隠しの言葉。ちょっと突き刺さるようなそんな言葉だけれど中身はそうでない。次の言葉がそれを示し、そして柔らかくなる口調に意地悪く返せないでいるわたしが淋しくて、ちょっとの妬きもちを孕んでいたことに気づいた。(本当は気づいたいたけど)

「柊ちゃん」
「ン?」
「しゅーちゃん」
「だからナニよ?」
「ねぇ…」
「…」

柊ちゃんは一瞬時が止まったかのようにアホ面をした。可愛いと思った。わたしは舌なめずりを遠慮がちにして笑う。すれば柊ちゃんは口角を上げて意地悪っぽいにひるな笑みを浮かべてわたしの手を取る。
「ちょっと、席外すわ」と言い放てば背後から溜息。(多分玲で)
「どこいくんだよ?」
あ、やっぱり玲で。本当に野暮ね。玲は。
「あ?トイレ」
「…ごゆっくり」

むかし、むかし、そんなむかしぢゃないけれど。いつだってかっさらってくれそうな彼女はいつだってわたしの我儘を聞いて足踏みしてしまうんだと思った。むかし、むかし、彼女はあんただったらいい、と笑ってくれてわたしの心をかっさらってくれた。むかしだって、今だって、いつだって。

だから、みんなにはあげない。
今だって、いつだって。

繋ぐ手がいつだって熱い。






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