沈殿していた意識が浮上して暫く、何が起こったのかわからなかった。足、腕、指先一本さえ動かず、なにかに縛られているようで焦りが募る。唇は動いているのかもわからず、必死に出そうと試みるが多分何も起こらない。力を入れてみるけれど、上から押さえつけられているようで、強張る身体は脳の伝達に反して全く微動もしてくれそうにもなかった。だというのに、視界はクリア。目、開いてるのかな?そう思っても自分ではそれを確認する術などなかった。
少しの間悪戦苦闘するが、次に襲ったのは腹部への重み。うっと唸る声は外には出なかった。本格的に怖くなって一生懸命に力を入れ、歯を食い縛る…動作をしているとは思う。本格的になっていく見えないモノに、ーー普通ではあり得ない現象の過程に、恐怖心がジワジワと内に滲み出る。
怖い、怖い、誰か…。
ーー『誰か』
その咄嗟に出た表現は一人の人物へと確かに変えていった。助けて、動かない。怖いっ!怖い…ねぇっーーー

「順ッ!!!」

やっと動いた手が握ったのは驚いた順の腕だった。順の顔からゆるゆる、と下に視線を向けて胸元に手を当てた。物凄い速さで脈が打っている。は、はっ、と短い息を吐くと冷たい空気に触れて真っ暗闇の中でもなんとなく息が白くなっているように見えた。順の腕を掴む手の力を強めれば「ど、どーしたの?夕歩」とジトっと嫌な汗で張り付いた前髪を払ってくれて、落ち着かせるように頭を撫でてくれた。

「金縛り…」
「大丈夫?」
「なんで気付いてくれなかったの…」
「夕歩の事はなんでも知ってるつもりだったんだけど、頭のてっぺんから小振りだけど形のいい胸、柔らかいお尻を経ての爪先ーーーでっ!…ん?」
軽い口調で丁寧に何かを語りそ始めそうな順の頭をパシッとはたいてみたけれど普段よりも弱々しい音が響く。それを感じ取った順は覇気と何時もの軽快な平手が来ない事に怪訝に思いながらも、あたしの顔を見た瞬間わかったかのように笑って抱き締めた。
「ごめーん、、わかってなかったね」
「バカ」
「金縛りもわからなかったよ」
また、ーーごめん。と言葉を零す。間違いなく金縛りを見分けるなど無理で無茶な話である。そんな事を注文しているあたりただのわたしの当てつけでしかないけれど、怖さ故にそう言ってしまった。多分、順は半分本気、半分冗談。でも本気というより願望。順はあたしを閉じ込めるほど狂ってはいないけれど、なるったけ私の事を理解したいだとか、気付いてあげたいだとか、そういった願望はある。行動が証明しているわけで、だから私の不安な顔を見て今も優しく抱き締めて背中をさすってくれている。
「落ち着いた?」
「…まだ。ーーあと、少し…」
早くなっていた脈が正常に達するまでに数分。落ち着いてキスをするまでにプラス三十秒。そのあと我に返って、なぜ寝床に順が忍び込んでいるのかに気付くまでもう三十秒。そして、三時ジャストに順を待っているのは何時も通り豪快で軽快な平手打ち。




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