「なぁ、」と声を掛けられて振り返るまでに相当時間を消費した。その声の主が自分に対して声を掛けるなど今までなかったからだ。

「な、なによ」
「なんでそこで警戒心強くなるわけ?」

今回も人手不足を棚に上げて、ひつぎにこき使われる元生徒会という名の元に、文句を零しながらも椅子を片付けている時だった。

「なんで此処にいんのよ」
「いちゃだめなんでしょーか?」

訝しげに見れど彼女は怯まずに、かも当然とその場に立っていた。確か、彼女の割り振られた仕事は此処ではないはず。そんな割り振り一々覚えてはいないが少なからず此処は自分だけだ。この広大な体育館の椅子をたかが一人のか弱い女性に全て片付けさせるひつぎの神経を疑ったぐらいなのだから。

「仕事はどうしたのよ?」
「終わった」

嫌味か、其れとも手伝ってくれるのか?どちらともつかない表情は無表情で何もわからなかった、けれどその手に持つペットボトルを放り投げられて咄嗟に手に取った。

「ちょ、いきなり投げないでよっ!」
「ま、そんな怒んなよ。

ーーーちょぃ、休憩」

そう言えば折り畳んだパイプ椅子をあろうことか再度開き堂々と座る。ほらっと、もう一つ余計にパイプ椅子を開いてその隣へと持ってくる始末。
(邪魔しにきたのかしら…)

自分が今し方、必死に折り畳んだパイプ椅子を開く彼女を見て殺意が芽生えたが、少なからず疲労が蓄積してたらしい。あたしは素直に隣の椅子に腰を掛けた。





「で、なんの餞別?」
「生徒会でもないのにこき使われるどっかの誰かさんに哀れみを…ちょっと、な」
「それ、そっくりそのままお返しするわ」
「あたしより元歴、なげーぢゃん?」
「性格悪いのか良いのかハッキリさせなさいよ」
「あー、悪いよ」

あたしは、、とケラケラと笑ってそう言った。長い足が組み替えられ、膝にペットボトルを掴む手が置かれる。リラックスし過ぎな彼女に当てられて深く腰を落として汗をかくペットボトルの蓋を取れば、自然な動作だと思う。そのまま口に当てればカラカラな喉に潤いを上げるべく冷たいものが流れ込んできた。

「玲と紗枝は?」
「あれだ、新入生誕生に向けてせっせと打ち合わせと新しい仕組みについてなんやらかんやら」
「あなたよく適当って言われるでしょ?」
「褒め言葉、有難く受け取りますよ」

嫌味とも言える言葉をサラッと流してニヒルに笑う。こんなに笑う人だっけ?と横顔を眺めればまた新たなる発見。睫毛長いだとか、並んで立っても高い身長だけれど肩を並べて座っても肩一つ違う座高だったりだとか、つらつら、そんなことばかり。そうしてまた一口、飲む。

「どうせあたし達は脇役よ」
「なんであたしが入ってんよ?」
「同じようなもんでしょ」
「ちがいねー」

新しい白服も決まった事ですし、とまた小言。彼女は黙って聞いている。

「で、どういった風の吹き回しよ」
「そんなにあたしが気に食わないんでしょーかね?」
「こんな事される筋合いがないだけよ」

素直に、ありがとう、が言えない。だって彼女は邪魔しにきたんだから。咄嗟に出るのは嫌味か可愛くもない言葉。だってどうしたらいいかわからない。

「そっか、あたしがしたかっただけだ。別にあんたが気にする事ぢゃない」

さてと、といつの間に空になったペットボトルを床に置いて立ち上がる。あたしを見ることなく当然とばかりに折りたためられたパイプ椅子を両腕に計八つ持ち始めて、まだ立とうとしないあたしに気付いてやっと目があった。

「次の休憩はこいつら片付けてからにしよーや」

多分彼女は邪魔をしにきたわけではない。そんなこと始めから分かっていたけれど。時間を見れば、十分も時間は立っていなかった。二人で片付ければ終わる時間も二倍になるから夕方までに終わるかもしれない。

そしたらあと十分ぐらい休憩してもいいとさえ思って、ペットボトルを置く。
あたしが好む紅茶の入ったペットボトルを。






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