タイミングが悪い時はとことん悪い。裏庭のひと気が少ない陽気に当てられたベンチは格好のサボり場であった。それも知っていたからこそ、たまにはと思い、サボりに身を置いた事を直ぐに綾那は後悔した。


**


「す、好きです!!」
一世一代の告白。そんな意気込みさえ感じられた女には剣待生である目印はなかった。そう、確実に一般生徒。そんな甘い告白に動じない白服を纏う彼女ーーー祈は何もなかったかのように何時もの笑みを浮かべている。

(タイミングわるっ)

この場に足を運んでしまった自分を、綾那は呪いたくなった。隠れように大木を盾にして若干半身でその光景を見遣る。

ってか、なんで盗み見てんだ!?わたしは…
祈が動いた、気がした。多分、動いた。だからこそ、目の前の女は綺麗に顔が歪んでいったのだろう、(あ、泣かした)ポロポロと涙を流す女は俯いて地面を濡らしていく。少しの間、立ち尽くし、また祈が動いた。強情にも動くことない女に祈は痺れを切らした模様。その口から出た一言は凛として迷いなく女を突き放した。



「ーーーわたし、好きな人がいるの」


**



ーー好きな人いるんだ、
そう思った綾那がその瞬間思い描いた人物は神門玲だった。別段そこまで白服と接点などない綾那でも十分簡単に想像できた人物。然程、色恋沙汰には興味が湧かない、まして其処ら辺には結構疎い。そんな綾那でも容易に分かった。

へー、居るんだ。
可笑しい話ではない。好きな人の一人や二人。人間なら誰でもいるだろう。けれど綾那は少なからず面白くない気分だった。何故?そんな事は知り得ない、そんな自分にも気付いていて本当に良くわからなかった。

「おい」
「んあっ」
突然の第三者の加入。大木に身を預けてしゃがみ込んでいた綾那は突然の声に顔を上げた。

「盗み見とは趣味が悪いぞ、お前」

先程思い浮かべた人物ーー、神門玲が立っていた。

「生徒会でもサボるんすね」
「あ?」

だって、ほら…と綾那は親指で後ろを一回さした。そこにはベンチに座る祈。

「サボりじゃねーー、体育の時間だ」

あぁ、だから体操着なのかと納得して思う。ならば祈さんはサボりだと。

「ぢゃぁ、何してるんですか?こんなところで」
「いや、別に…」

歯切れの悪い玲は一瞬目を泳がせた。そして、チラッと向こう側ーー綾那がいるもっと先を見て意味ありげに顰め面になった。その態度に綾那は納得し、そして余計に苦虫を噛んだような気分にさせた。

「授業なら早く戻った方がいいですよ。まして生徒会は生徒の見本ですし…」
「見本としての生徒会ぢゃねーだろ」

玲は動かなかった。本当はサボりなんではないかと思う程に、悠長で平然としている。時間的には。最も気になる点が時間ではない事など綾那は知っているけれど。

「お前こそ何してんだ…」
「サボりっす」

嘘ではなかった。事実、本当にサボりで彷徨っていたらこの現状に出くわしてしまったのだから。多分、否。確実に玲がそんな事を聞きたいわけではない。玲の視線は先程から鋭いままで、引かない綾那にじと目で見る始末だ。

気になってきたならそう言えばいいのに…
綾那はこのやり取りも、対立も無駄だと思った。

「祈さん、断ってましたよ」

だから確信に触れた。僅かに玲の肩が揺れる。眉間の皺は余計に深くなっていった。

「好きな人がいるらしいです」
「…やっぱり覗き見ぢゃねーか」
「たまたまですよ。だって此処、サボり場で有名な場所ですよ?」

逆にこの陽気で自分たち以外誰もいないのが不思議な程だった。祈達を抜かしたら、玲もいなかったのだから綾那一人、優雅にこの陽気の元、良い時間を過ごしていた事だろう。

「好きな人は誰なんですかね…」

無粋な質問だ。ただこの純粋までに己を突き進む彼女に意地悪をしてみたくなった。それだけで生まれた言葉。やはり、揺れる。瞳が、肩が、心が。こうも呆気なく人の心情が分かってしまうと楽しくもなる。

性格悪すぎだろ。

綾那は自分を貶めてそっと笑った。

「しらねぇ、あいつの好きな奴なんて知らねーよ」

知りたいんでしょ?

「そうですよね」

わたしも知りたいですから。



この日綾那は敵と標的を一気に見つけた。





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