《一回落ち着きましょう》
白いスライドが降ろされ映し出されたのは別の部屋。モニター越しには静久が立っていた。
《ーーーぶっ、ハハハハハっ》
その後ろでお腹を抱えてひつぎが爆笑する姿を見て皆思う。
元凶はこいつだと…







一番が二番を抱き締め耳元で殺し文句(抱き締める時間は二十秒)


「まだやんの?これ…」
「そーね、会長が満足いくまでやるんぢゃないかしら」

暴れ狂う虎を落ち着かせるために皆、お疲れらしい。かく言う、あたしもその一人。だというのに追い打ちをかけてきたのは命令。白い紙には数字の【1】。あたしはついに自分の番が来てしまったのだと分かり気分は消沈していく。(二番誰だよ…。まぢ勘弁してくれ。なんだよ殺し文句って!!意味わかんねーよ)
あたしはキョロキョロと見渡し二番を探す。みんなキョトンして首を降っていた。ある人物を除いて。

「わたし、です…」
先程久我の脳天をかち割ろうとした染谷が何食わぬ顔で手を挙げた。(おいっ!もっと動揺しろよっ!嫌な顔しろよっ!ーーいや…嫌な顔されたら傷付くけど…なんでそんな涼しい顔してんだよっ!!)

隣では虎が今にも襲い掛かりそうなオーラを出している。あたしは気にせずに顔を顰めて立ち上がった。すれば染谷も同じように立ち上がる。足取りは重い。取り敢えず、と。対面するようにあたしと染谷は立った。

「神門さん、今から抱きしめてくれるのにそんな顔は失礼ですよ」
「あたしはいつもこんな顔なんだよ」
「あら、そうですか!とりあえずさっさと終わらせましょうか」

不敵に笑う染谷に何故だか悔しくなった。こっちだってやれば出来るんだよ。抱き締める事なんて一つや二つ。まして恋愛感情なんて更々ないのだから余裕な、はず。
あたしは意気込んで手を伸ばした。掴んだ腕が細くて驚く。つい、引っ込めてしまった。

「玲はヘタレなの」
「あぁ、ヘタレだ。だから宮本にも指一本触れ「斗南っ!こらぁーーっ!」

ーーーヘタレ、ヘタレ。
面白がる後輩共はヘタレコールで一気に盛り上がる。(このやろーっ!!)
ぎりっと奥歯が鳴った。目の前の染谷は若干あたしより低い。自然と上目遣いになっていた。生唾を飲み込みいざ前へ。(あきらーっ、いけー、あきらーっ!舐められっぱなしでいいのかぁーっ)

「神門さん」
そう呟く染谷は完璧に装っている。誘うような挑戦の眼差し。イラっとする!どこか妖艶な染谷に緊張しているのだから甚だしい限りだ。

一つ深呼吸。思い出せ。これは試練。頂上決戦だ。目を閉じて暫くゆっくり瞼を上げて染谷を見れば少し驚いた顔をした。
指先を握って軽く引き寄せる。重なる体温。胸元に寄る軽い重み。右腕を腰に回して左腕は首の後ろに持って行った。ギュッと腕にやんわりとした力を入れれば「あ」と一瞬染谷の声が漏れた。そして沈黙。次の瞬間
ーーーきゃぁぁーーーっ!!
とけたたましい奇声はエロ忍者のモノだと把握した。(うるせー)

「やべっ、神門のやつやりやがった」
「ちょっと、あんた!!ついに玲がやりました。晩御飯はお赤飯にしましょう」
「ん、奮発するぜ」

馬鹿げた漫才をこれまた馬鹿な夫婦が繰り広げているが、こっちはそんなところではない。華奢な身体に髪の毛から香る甘い匂いに完璧、我にかえったあたしの心臓ははち切れそうなぐらい音を立てている。
(ぬわぁーっ!今何秒っ!?二十秒たった!?)

「神門さーん。殺し文句、殺し文句」
不機嫌な声が聞こえた。多分久我と静馬が押さえ込んでるに違いない。

(あー、そーだった!!

って、考えてねぇーーっ)

脳がパンク寸前。パンクやろーが出てきた。(ってちげーよっ!うわ、自分今なにしてんの?)ただ困惑と焦燥、そして錯乱。全身が熱くて茹で蛸のようだ。ふと、固まってしまったわたしの腕で染谷が身じろぐ。あたしの胸元に隠れていた顔が上がりぷっくらした唇が綺麗に弧を描いた。
ーーーえ、
呆気に取られたあたしの首に縋るように回された両腕。いつの間にかあたしの両腕は染谷を支える形で腰に移動されていた。
ーーー少し、かっこいいと思ってしまったんで助け舟です。
あたしにしか聞こえない声でそっと呟かれて息が止まる。耳元で聞こえた声にぞわっと鳥肌が立った。

染谷の顔が耳元から離されまじまじとあたしを見つめている。細めらた目。時が止まったようだった。


「わたしだけを見て。ーーーーもっと強く抱き締めて」


(ーーーーーーーーっっ!!)
カンカンカンカーーーン!!ゴングが鳴る。右ストレートにてダウン。
脳内に反芻する言葉。ズドーンと頭に何かが貫いたような感覚。

「ゆかりぃーーーーっっ!!!」
無道も我慢の限界だったようで白く灰になるあたしの腕から染谷を奪え返す。力も何もあったもんぢゃない。

「ちょっと刺激が強すぎたかしら?」
「ゆかりっ!あたしにもしたことないでしょ!?なにしてんのあんたわっ!」

もー、無理だ。立ってられない。へにゃっと地べたに両膝をついた。


「やっぱ神門だわ」
「そーね」
「染谷もやりやがる。見ろ、静馬なんて顔真っ赤だぞ」
「斗南さんが愛の告白した時もあんなんだったけど」
「根に持つんぢゃねーよ」


あたしはヘタレだ…

「ま、少しは頑張ったんぢゃないかしら?」
「神門にしてわな。これを気に宮本と進展ありゃいいけど…」


反撃する力もないほど参ってしまっていた。






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