「オイ。なんか逆におかしくなってねー?」
「いいじゃない。あれぐらい許すわよ?わたしは、」
「いや、あたしも許すけどさ…」
「なんであんたらの許可がいるのよ」

こしょっと小さく言葉を交わす二人を横目に呆れたように紅愛は言った。
二人、ーー祈と斗南の目線の先には隣同士、仲良く仕事をする静久と玲だった。見えてないつもりかたまに手が重なる。また離れて気付けばまた重なる。それの繰り返し。

「見えてるっしょ?」
「見えてるわ」
「見えてないつもりよ、気づかないフリしなさい」
「空気は読めるほーなンで」
「わたしはぶち壊すほーなんで」
「やめなさい」

ーーうそーん、きゃはっと笑う祈に斗南は気持ちわりーと一言。祈の顔が真顔になった。(今度はこっちですか…)
紅愛は溜息を零した。
(ま、この二人のこのやり取りは日常茶飯事だからほっとくのが得策…)


紅愛は再度目線を二人に向けた。静久が消しゴムを落として拾おうとしゃがむ。同じく拾おうとしゃがんだ玲の顔と静久の顔の距離は数センチ。二人は共に顔を赤らめた。

「初心だな」
「初心よね」
「初々しいったらありゃしない」

こんぐらいがいいのだと三人は黙って見守った。








暖かい陽射しも冷たさが交ざり外は赤く染まっていた。玲は腕を上げ、うーん、と一つ背伸びをした。先程まで隣に居た静久はひつぎとの別件で席を外していた。

「お疲れ様」
「おう、お疲れ」

トントンっと肩を叩き言葉を返す。祈は散らかる机の上を片付けていた。

「仲直りしたんでしょ?良かったわね」
「ん、ありがとな」
「あら、素直ね」
「誰かさんが言わないと伝わらない事もあるって言うもんで」

玲は目の前のペットボトルを手に取り口に運んでいく。

祈にはそれが誰かなんて愚問でしかなかった。そっとクスッと笑う。
(似た者同士ってこのことね…)
ならば玲も静久も似た者同士ではないかと思う。そこに相違があるのは当たり前。人間無い物ねだりでもあるから。祈は照らし合わせていく。自分たちと玲達に。
(今度四人でタブルデートでも行きましょうか)
魅力的な案で面白そうだ。


「で、ヤったの?」
「ぶっーーーーーー!!!」

口の中に入っていた飲料水を噴射。飛び散るそれと、咳き込む玲に祈は眉頭を寄せた。

「ちょ、汚いぢゃない!ちゃんと机拭いてよね」
「誰のせいだーーーっ!!」

この反応では手を出していないだろう、祈はやっぱり二人は初心で可愛いと思った。

「男ぢゃないわね」
「あたしは女だ!!」
「あら、そうだったの?」
「わざとらしいわっ!!」

昨夜の事を思い出した。始めて抱き締めた静久は案外細く、しおらしかった。実際危なかったのは事実。玲は歯止めが効かなくなる前にそそくさと部屋を出ていたのだ。折角仲直りをしたのにまた問題を起こすのは避けたいと思ったのと、何より大切にしたいという気持ちが大きかった。それに加え臆病風に吹かれた事も否めない。
(自信もねぇ…)

「ま、いいんじゃない?玲と静久には玲と静久の恋愛があるんだから。焦る必要はないしね。でも捕まえとかないと逃げちゃうよ?」
「わ、わかってるわ!そんなの…」

静久はモテる。ただあのひつぎと同等の位置に居座る所為なのか寄ってくる自殺願望者は少ない。それが救いであるけれど…

「静久も大変ね…」
「なんだよ、それ。どういうことだよ」
「あー、鈍感…」

自分で考えなさい。と祈は一言。何かを察したようにドアに目線を送って荷物を持った。
玲はそれに納得いかないようにギャーギャーと喚き散らしているが祈は軽く流しドアノブに手をかけた。

(不安なのは静久も一緒よ、それがわからないと逃げちゃうわよ?)

特に玲にはファンクラブという団体をお持ちになっているわけで、不安は静久の方が大きいかもしれない。と後ろにいる玲を見て思った。

「さて、あたしは斗南さんの所行ってくるから、お楽しみくださいな」
「はぁ?なに言ってんだよ」

言葉はそこまで、祈はドア開け出て行った。次いで少しばかり時間を空けて部屋に入ってきたのは静久だった。それに玲は少しの動揺。そしてさっきの祈の言葉を思い出して面白くないとさえ思った。
(斗南といい、紗枝といいーーー本当なんでもお見通しかよ…)
玲の顔は段々険しいものに変わっていった。

「あのー、神門さん?なんかあったんですか?」
「んぁ?別になんもねーよ」
「そうですか」

静久は無邪気に笑った。それに神門はゆるゆると力を抜く。先程の顔付きは既になかった。

「今夜、食堂で晩御飯一緒に食べませんか?」
「え?いいのかよ?ひつぎは?」
「ひつぎさん今日はお父様とお食事に行かれるようなので」

ふと、静久の顔に影が落ちる。それに玲は心配そうに顔を覗かせた。

「いや、神門さんがひつぎさんの代わりとかぢゃありせんよ!本当です!御一緒したことないからしたいなぁーとか思ってないですけど…」
「わかってるって」

本当慌てる静久は可愛いと思う。玲の機嫌はすっかり良くなっていた。

「七時頃でいいか?迎えに行くから部屋で待ってろ」
「はい!」





「この時間やっぱり混んでるな」
「そうですね」

剣待生には門限がある。それに加えランクが上位に上がらなければ金銭面的にもきつい。あとはめんどくさい。加え此処のご飯はお世辞抜けで美味しいのだ。この理由であまり外食を好む生徒はいないのが事実だった。
(祈と斗南は違うけど…)
玲は変わり者も居たと思い返した。そんな斗南と祈も外食は一週間に一度や二度。あとはこの食堂で共有している。玲はぐるっと一周見渡すと一角だけ周囲を凌駕する煩さを放つ集団に目が止まった。見れば眼鏡の虎とチビに淫魔な忍者と牙を向くと怖いお姫様とおちゃらけ四人組。
(ん?)
とその集団に珍しい人物がいることに気付いた。今はその身を白服で纏っている。

「染谷さんですね」
「珍しいな」

静久が見ていた一点が同じだった事は気づいていたからそんなに驚きはしなかった。玲が驚いた事はそのことではなく静久の次の言葉だった。

「そうですか?無道さんと元刃友なので仲はよろしいと思いますよ?それに最近は良く見かけます」
「へぇ〜」

玲はちらっと静久を見た。静久はなぜだかとても穏やかで嬉しそうだ。こんなに煩いのに良くそんな顔をしていられる、と玲は思うけれどなんだかんだ可愛い後輩だ。あの一件以来、一段楽と見た。

「なに食べますか?」
「パフェ」
「主食を聞いてるんですけど」
「え?パフェ」

静久の目が信じられないと言うように見開かれ、目線を外しそして何かを唱え始めた。玲は怪訝に思い顔を寄せて耳を澄ます。
(人の趣向はそれぞれで、主食がパフェの人も多いのでは、、バランス的にはーー)
静久はどこまでも真面目だった。

「わたしハンバーグで、ご飯は大盛りでお願いします」
「あいよ!神門のボーズはパフェと何食べる?」
「あたしもハンバーグで、パフェは大盛りで」
「あいよ!」

茶碗いっぱい、否、てんこ盛り。昔の巨人漫画を思い出させるような白いご飯粒のタワーが玲と静久のトレイに置かれる。それに隣の生徒は一回ギョッとそれを見るが何も言わなかった。トレイを受け取りまた一周、ぐるっと周りを見渡した。鉄板に乗せられたハンバーグ。熱々のうちに食べたい。それは静久も同じだったのか玲と同じように空いている席を探した。


「あ。神門さん、あそこ」

指を指した先に玲はギョッとした。その周辺一帯ファンクラブの団体が占領していた。玲は冗談ではないと慌てながらも違う席を見つけようと辺りを見渡せば端っこでみのりとご飯を食べる紅愛と目が合った。紅愛の指が座る空間を指差し、目で訴えるように玲を見た。玲は「あぁ、」と、小さく納得したように声を漏らして隣の静久の肩をポンと叩く。

「あそこにしよ」
「え、でも星河さん達が、」
「大丈夫!もうどくってさ」

静久は玲の言葉を聞き黙ってついて行く。なんとか回避出来たと玲は安堵の溜息を静久にバレないように零した。紅愛とみなりは玲と静久が近づいてくるのを確認してトレイを持ち直して立ち上がる。すれ違い様に紅愛のぷっくらした唇が弧を描き動いた。

ーーーごゆっくり


玲はお前もかと呆れて肩を落とす。静久には聞こえていなかったのだろう、玲の後ろにいる静久は何食わぬ顔で紅愛にお礼を言った。
(ったく、なんであたしばっかり…)
静久をからかうのも楽しいけれど、それより断然玲をからかう方が楽しいと皆思っていた。それにこれは日常化された現状で標的は自然と玲にむくのだ。
まぁ、いい。と玲はトレイを置き紅愛が座っていた場所に座り、同じくその前に静久が座った。




「なぁ、宮本…」

喧騒の中二人は黙々と目の前のご馳走を頬張り鉄板の上には後少量といった時だった。ポツリと玲は目の前の人物に向けてフォークを向けた。

「なんですか?」
「いや、これ…」

静久はフォークに刺さっている物に目を落とす。

「にんじん、ですね」
「そーだ。にんじんだ」

玲は刺さった人参を静久が現場を把握をする前にの鉄板の上に乗っける。

「嫌いなんですか?」
「嫌いじゃないけど苦手だ」
「それ嫌いって言うんですよ」

にんじん美味しいぢゃないですか、と今しがた玲の持つフォークに刺さっていた人参を静久は自分のフォークで刺して口の中に放り込んだ。

「甘いにんじんがダメなんだよ。カレーとかに入ってるのはいいんだけどさ…」
「パフェ食べてるじゃないですか」
「比べるものがおかしいだろ」

静久はふと玲の鉄板を見た。まだ一つ赤い角ばった人参が置かれている。静久はーーえいっとその人参を刺して玲の口元に持って行った。

「な、なんだよ…」
「わたしが食べさせてあげれば食べると思いまして」

玲は狼狽した。二人きりという空間でも静久がこんな行動をするなんて考えられなかった。まして此処は公共の場である。静久は固まる玲を尻目にフォークを突き出し続ける。

(俗に言う、あーんだろ?これっ!!)

うっと息が詰まる。否、もう詰まっている。
目線をオロオロとしていれば玲の視界の片隅には周りからの視線。恥ずかしい上に痛すぎる。

「み、みやもと。お前わかっててやってんのか?」
「へ?」
「この状況だよっ!」

静久は玲の言葉にキョトンと無防備な顔を向ける。視線で促せば静久はゆっくり周りを見渡し、そこでやっとーーうわっ!と間抜けな声を上げてフォークに刺さった人参を勢い良く口に入れて俯いてしまった。
周りの視線に気付き、何食わぬ顔でやってしまった行動に意識が傾けば耳まで真っ赤。

「み、みかどさーん…」

しおらしく肩を落とす静久は恥ずかしさのあまり顔を両手で隠す。そこからちらついた潤む瞳に玲はまたーーーうっと詰まった。

(やめろ、そんな目を向けるな。かわいすぎる……残念だとか思ってねーぞ。あーん、とか実はやられたいだなんて思ってねーぞ…)

公衆の場に赤くなる二人が片隅で悶絶。



「なんだ、あれ?」
「綾那、その問いかけは無粋だよ」
それを見ていたのは食堂を荒らしまくり、涼しげに帰ろうとした綾那と順だった。






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