寝苦しい。そう思い玲は自由に動かない身体で身じろぐ。
(ーーぅん?)
やはりおかしい。寝心地が悪い、というより外部からの圧力に制圧されているような、そんな感覚。眠さと苦しさとの葛藤だった。
(あぁーーーっ)
安眠妨害の火種を探してやろうと、眠い意識に逆らい重い瞼をゆるゆると開く。
(なんか…重い…)
寝ぼけ半分で気付くのが遅れた玲は右肩に感じる重みに一瞥。
(へ?)
黒いサラサラの髪。シャツを掴む白い手。
(待て待て待て待て待て待てっ!!!)
覚醒する意識。共に焦燥と驚嘆。

「ん…」
「ーーーっ!」

動いた事が気に入らないのか寝息とは程遠いなんとも可愛らしい声。それだけならまだしも、その瞬間首筋に原因の人物の顔が擦り寄り、下では玲の足を挟んだ。吐息が首を這う。柔らかい太股が短パンの下からでもわかった。この状態は玲にとって地獄にも勝る、耐え難い状態だ。逃げることも出来ないというなんとも苦しい状態とくらっとする吐息と柔らかさに玲の心臓は一気にピッチを上げて暴れ狂う。
(な、なんでっ!?し、しずく?ってかどうなってんだよ!?これっ!え、生殺し…っぢゃなくて、部屋全然ちげーぢゃん!)

付き合って一ヶ月。忘れるはずもなく昨日が記念日。その間、照れ屋の玲と天然な静久はそういった行為おろか一緒に寝ることもキスさえもまだしていない。ゆったりでスローペースな可愛らしい恋愛そのものであった。

照れ屋な玲にとってどうそれをぶち壊し進展させていくかが最近の悩み。だというのに…

(願っても無いチャンスっ)

しかし、こんな無防備に寝る静久に手を出すほど玲は図太くもなく酷くもない。寝込みを襲う勇気も度胸もない。所謂ヘタレ。
そんな玲を知らずにすやすや眠る静久は体温を求めるように余計に擦り寄る。シャツを握る静久の手が強まり生唾を飲み込んだ。

ーーード、ド、ド、
(あぁぁぁーーーーーっ)
無理、駄目、ヤバイ、
とてもではないが耐えられない。
玲は咄嗟に擦り寄る静久から無理矢理身を剥がし半ば強引に突き飛ばした。
(やべっ)
やっちまったと思うのも遅く、外部からの突然の衝撃に飛び起きた静久は慌てるように顔を左右に動かし、目の前の人物を見て暫く固まった。

「神門、さん…?ーーなんで、、」
意味不明と言わんばかりに玲を見た。
(なんで、ってこっちの台詞だわっ)
玲の格好はパジャマ、そして静久の格好もパジャマ。無理矢理起こされた現状と真っ暗な部屋。天然だろうが流石に今の状況をゆっくり把握していったに違いない。静久の顔はポッと赤く染まっていった。

「わ、わ、わたしっーーー!す、すいませんでしたーーーっっ」
「お、おい!」

勢い良く飛び出した静久に玲は立ち上がるが流石剣待生。
(はやすぎるだろ…)
立ち上がった頃にはもう静久の姿は無くただ開けっ放しの扉と外の暗闇の一点を見るばかりだった。





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