祈の手には携帯が握られているというのにその細く白い指は動く事わなくて案の定ディスプレイにも変化は見られない。時折、画面は暗くなるからそれを拒もうと一回指が画面に触れるけど、また凝視。そして終始だんまりで彼女は食い入るように見て頬を緩めた。また画面から灯りが消えて、祈が指を動かした。しかし、指先が触れる前に手からもその小さな重みがなくなってしまい、祈はハッとそれを追うように振り返る。

「ちょっと、なにしてんすか」

不機嫌そうに祈が座る椅子に肘をついていたのは無道であった。その手には携帯。先程まで祈が持っていたそれが無道の指先で摘み上げるように持たれヒラヒラしている。

「なにって、無道さんの可愛らしい寝顔を見ていたんだけど」
「なっーーー!!」

つまらなそうな顔をした無道の表情は驚きと焦りに変わる。手に持っていた物を見ればいつ撮ったのかわからない自分自身の寝顔がディスプレイいっぱいに映し出されていた。
(い、いつのまに…っ)

「無道さんって、あれね。何時も警戒心剥き出しで気を許さないけれど、一度安心した相手には無防備なのね。お姉さんとても嬉しくてつい、てへ」
「てへ、ぢょないですよっ!!いつ?これいつ!?」
「ちょ、消さないでよっ!!!」

ピッ、ピッと音が聞こえた事に焦る祈は必死に手を伸ばすが掠めることさえ出来ない。なんたって祈の目の前には遮るようにベンチの背凭れがあり、それに加えてその向こうにいる夢道は立っている状態だ。一生懸命に奪おうとも彼女の手は空を切り、追いかけるように立って携帯を奪え返した時には既にディスプレイは初期の段階の画面に戻されていた。

「あーー、」
祈は残念そうに項垂れた。撫で肩な祈の肩が余計に下がる。(ざまぁ)無道は舌を出しにひるに笑った。

「これ気に入ってたのに…まぁ、いいわ!昨日撮ったのに変えるわよ」
「はいいいっ!?」
「でも、昨日の写メより先週の寝顔の方が可愛いかしら?抱き枕離さないし、わたしちょっと妬けたのよ?わたしが隣に寝てるっていうのに抱き枕だなんて、」

ま、そのおかげでこんな可愛い寝顔撮れたんだけどね。と祈は悪びれもなく携帯を打ち、固まる無道に祈はーーほらっ、と見せるように無道の前にディスプレイを翳し片目を一瞬閉じた。(あ、可愛い…ぢゃなくてっ!)

「ちょと待ってっ…」
無道の硬直が解かれる。祈の手に収まった携帯を「このっ」っと引ったくり普段でゲームで鍛えた指技で一瞬にして画像保存場所に目を通した。

「どお?可愛いでしょ?ここまで溜めるのに半年は掛かったのよ?」

ボタンを打つ無道の指は徐々に力を増し、ミシッとしなった音が出たことはこの際無視をした。わなわなと、肩が震える。そこには確かなる怒りと、露わになる失態に無道は頬を若干赤らめていた。

「ベッドじゃ、あんなに激しいのにね」

祈は無道の手ごと携帯を包み込み、耳元で囁いた。何時もよりも少し低く、艶を帯びたその声は誘う時のそれのようで無道は一瞬ぞくっと肩を震わす。思わず空いている方の手で耳を塞ぎ、大きく仰け反った。

「な、な、なな…」
「動揺しすぎよ、まだお昼。しかも此処学校」
「この間学校でしましたよ」
「さっきの動揺はどこにいったのよ…」

無道は火照る頬を隠すように腕で頬を擦り、暴れる心臓を落ち着かせた。すれば次にジワジワと占領したのはただ、一つ悔しいという気持ちである。(ヤッてるときはあんななのに)潤む瞳は無邪気なそれではなくて濡れる唇はこんな強気ではなくて弱々しい嬌声と吐息。しなやかな腰は誘い、きめ細かい肌もピンクに染まって、
ーーーあや、な
祈は何時も呼ばない無道の名を戯言のように呟く。何度も何度も…
無道は昨夜を思い出し、また熱が逆流した。
そんな無道に祈はどうしたのかと顔を覗き込む。その瞬間、間が詰められた。呆気に取られたように大きく見開かれた瞳いっぱいに紫の瞳。腕を掴まれ引き寄せられたと思えば唇をさらわれた。

「むど、ーーんっ」

一回離れた唇を再度閉じる。後頭部を持たれ角度を変える口付けは決して深いものではないけれど祈の期待を揺さぶるには十分すぎた。

「どこがいい?屋上がいいんだけど」
「え?え?なにいって…」
「わかってますよね?」

ーーー誰があたしに火を付けたと思ってるんですか?

耳元に吐息が掛かる。今度は祈が頬を赤らめる番であった。

「まって、」
「待てない」

無理、早く。と半ば引きづるように祈の腕を引っ張る。急かす足はもう止まらない。冗談をとっくにこえてしまったようだ。

「わたし生徒会っ」
「関係ないです」
「聞きなさいって」
「紗枝」

ーーっ、
祈の瞳が揺らぐ。止まった無道が真っ直ぐ祈を見たからだ。(ずるい、こんなときに名前を呼ぶなんて…)いつもは事情の時しか呼ばない癖に、と祈は溜息を吐く。それが熱いものだと一瞬でわかり、そして諦めたように笑った。(あーぁ、)

「満足させなかったら怒るわよ」
「あたしが紗枝を満足できないときなんてない」

はやる鼓動は待ち侘びるようだった。多分…否、絶対だ。わたしは彼女のあの視線に弱くて、彼女の熱を貰いたくて、そのあと無防備な彼女を見たくて何時だって、彼女のことばかり。飽きずにずっと、ずっと。祈は期待する。その全てが自分のモノだと。
自分が夢中になる人が夢中になる、その人が自分であることを。
無道の赤く染まる耳を見て祈はその後ろをだんまりとついて行った。





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