白いベンチに座って一息。背凭れに腕を掛けて、あー、と小さく唸れば目の前は青い空がいっぱいに広がる。ただボーッとしていると隣でコソッと何かが揺れた。不意な気配に顔を傾けると、跳ねる髪の毛に今にもウズウズするような待っていられないとそんな顔がこっちを見ていた。
「姉御っ!ちわーす」
「…オウ」
ちいせぇ、から気付くのが遅れた。視界にも入らないから突拍子に現れた、コイツ。あー、名前で呼んだ事ないんだよな。神門の奴が良く呼んでる…クソチビ。
「姉御…」
「ねー」
「姉御ったら」
「何してんの?」
ねー、ねー、と雛鳥のようにピーチクパーチク、、鬱陶しい半面見覚えある感じがしたらそいつもピンク色の髪の毛だった。ピンクの奴は煩い奴が多いらしい。
「姉御、良い天気だね」
「…オウ」
揺れる髪が目障りだ。視界に入らなくてもぴょこぴょこしてんのがわかる。そーいや、ちゃんと話した事あったけな、なんてボンヤリしていて暫く。やっぱりうるせぇーから少し構ってやろうと思ったのはただの気紛れだ。
「そっちこそ、ナニしてンの?動きてぇーなら身体動かせ」
「んー、動かしたいんすけどね。綾那待ってるからー。そしたら手合わせすんの」
「そーかよ」
待ち人はまだ来ない。あれだ、眼鏡か。と決して口には出さず、風を浴びていた。あたしも、コイツも。落ち着けるベンチが今日は落ち着けないようだ。しっかり、お留守番をするピンクチビは案外難儀だった。
「姉御は?姉御も待ってるん?」
「ん?あー、そうそう。まぁ、待たされてんの」
待ってると言うコイツ。待たされてるというあたし。きっと、コイツは気付いてないだろうけど、人の意識は隔たる。決してあたしは難儀ぢゃねぇー。変な拘りも馬鹿げた笑顔にゆるゆると吹き飛んで行く。
そーなんだ、かわいそー。
その笑顔のまま零したピンクチビの急所っぽい所。触覚みてぇーな跳ねる髪を鷲塚んだ。
案外良い手触り。
「ちょ、いたい、いたいっ!姉御っ、そこ繊細なの。優しくシて?」
「優しく引っこ抜いてやんよ」
ぎゃぁぁああ。叫び声が一つ。それに誘われるように右から眼鏡登場。助けてと、救助の以来は冷たい視線で呆気なくスルーされてあたしに会釈。かわいそうー、だと言ったコイツがかわいそうーだから慈悲を捧げて握っていた髪をポイっと投げれば虐められて泣き喚く子供のように眼鏡に飛び付いた。
ぎゃぁぁぁあ!
また絶叫。いつもこんなんなのかと目を疑う程の全力ストレートパンチ。あ、懐かしい。思い返せば地味にこちはも日常茶飯事ではないか。光景が光景なだけに頬は緩む。笑っていたに違いない、ピンクチビは地面とお友達になりながらも顔を上げた。
「あ、笑った!」
「…ンだよ」
笑っちゃいけねーのかよ。不服にも出た言葉にコイツは無邪気に笑う。
「いやー、いのりんとししょーと戦った時しか笑った顔見たことなかったから」
眼鏡は最早、早くしろと促す。そーかい、そーかい。と軽くあしらっていればこちらも待ち人来たり。あら、楽しそうね。肩を叩いて以外そうな顔を向けた祈は面白がっていた。殴ってやろーか。
「姉御の待ち人はいのりんだったんだー」
「そーよ。良い子に待ってた?しゅーちゃん」
「しゅーちゃんって呼ぶな!」
「しゅーちゃん?なんで?」
「斗南さんは柊って名前なのよ」
「へー、かっくいいっ!しゅーちゃん、しゅーちゃん。はい。綾那リピートアフタミー」
「しゅーちゃん…」
「おいっ!眼鏡っ!そーいうとこだけノッてんぢゃねーよっ」
立場が悪い。分が悪い。
なんだ、これ。あたしが虐められてねーか?
「待たされてたって言ってたよ?ね、綾那」
「知るか!!わたしにふるな」
「待たされてたなんて言ってたの?悪い子ね」
「あってんだろーがっ」
「しゅーちゃんが最近冷たいのよー、黒鉄さん。無道さんとあなたみたいにイチャイチャしたいのにー」
「しゅーちゃん、そりゃダメだよ!!綾那とあたしなんて激アツなっぶしぇっ!!」
「激アツな鉄拳か?それとも撃圧な釘バットか?」
うるせぇーのが何人も何人も。一人でうるせぇーのが余計にうるせぇ。
収集つかなくなる前に眼鏡がお辞儀して、荷物をズルズルと擦りながら持っていく。
ばいばーい。またね。姉御、いのりん。すいません。迷惑かけました。
ほんと正反対な人間共。
嵐が去り、溜息を付きながら頭を掻いた。含み笑いをする祈に気付きながらも何も言わずに立ち上がる。
「さーて、どこいく?」
「どーせ、部屋だろ?」
「あら、今日はお外でもいい気分ぢゃない?」
「あたしはどっちでもいいっすよ」
ふーん、そう。
うぜーな。
「楽しかった?」
「…ナニがよ」
「別に」
足取りで祈の気分が良いのがわかった、、から今日はお外でアソビますか。
誤魔化した言葉で消せない気分はいつだって正直だってことで……
ーー本当、今日穏やかね
うるせぇーって、知ってるつーの。