弱い陽射しと涼しい風。温度も良好で、机の上には数十枚の書類が散乱中。コツコツ、とボールペンを打ち付けて欠伸がてら壁にくっ付いている時計を見れば既に四時を過ぎていた。ひっきりなしに人がいる生徒会室には私以外誰もいなくて、良くも悪くも静かな部屋とこの状況下で眠気は増すばかり。動力が有り余る人たちは総出で体力仕事に精を出していた。


寝たい。眠い。寝てしまおうか。でも膨大な書類と格闘中。寝れない。うー、んー。コツコツ。眠気を覚ますために動かしている手が音を鳴らす。半ば意識外になってしまっている行為が困った事に微睡みへ誘い込む。あ、ヤバイ。そう思った時にはボールペンの音が無くなっていた。戸が開く音が鳴った、気がする。ぱさっと、何かが背中に置かれ、其れを確かめるのも億劫になってしまった私は睡魔に敗北。脳は何もかも思考を中断し、意識は遠退いた。





「あ、、」

身体の側面で柔らかな衝撃に、はっとした。その反動で何かが背中から落ちるものだから咄嗟に見れば膝掛けに使う羽毛の布が落ちていた。あれ、と広い上げて辺りを見渡してもやっぱり寝落ちする前となんら変わらない風景。ひとりぼっちの生徒会室は静かにも私を包んでいる。時計を見れば四時四十五分ぐらい。一時間は寝ていなくとも仮眠ぐらいの時間は寝てしまっていたんだと、無駄に気落ちし溜息が出た。


「これって…」

握る膝掛け。キャラクター物でも単色でもなく、白と青のコントラスト。混じり合う二色の布にはワンポイントが付いていた。そして
この膝掛けには少なからず見覚えがあり、一人の人物が脳内に浮かび上がる。まさか、いやでもまさか、という事態が起きているではないか。と怪訝にも似た感情を抱き、唇は勝手に動いていた。

「斗南、さんの??」

首を傾けながら出た名前に、またーーまさか、と疑う。彼女が優しい一面を見せる事があるのか。と、何気に失礼な事を思いつつも確かに今自分が持っている膝掛けは彼女ものだと理解している。接点はあるにせよ関与はお互い全くないわけで、そこまで気にする事でもないというのに、それが彼女の物だという事実がどうにも驚きを孕んでしまう。

「ま、いいか」

後でお礼でもしよう。そう思っていた矢先、遠慮がちに開いた戸から覗いた顔に、「あ、」っと声が漏れる。


「ン?」
「…」

何故か沈黙。あれ、気まずい。空気が一瞬で変わった。斗南さんは気にする様子もなく「オハヨーサン」と手に持つ書類を、束の書類の隣に置く。

「げっ。増えた…」
「呑気に寝てたらそーなるっしょ」
「う、煩いわねっ」

皮肉に皮肉。あぁ、こんなはずではなかったのに。いざ本人を目の前にすると中々出てこない言葉にさえうんざりする。そして、それは拍車をかける憎まれ口と、増えた書類に悪化する一方で尚且つ言うタイミングさえ逃してしまったから最悪の事態。

「コッチはもー、終わンぞ」
「こ、こっちも、もう少しよ」
「へー、そー」
「くっ…!」

苦渋にも奥歯を噛み締める。結局こういった会話しかできない。一言がどうも歯痒い。玲だったら、紗枝だったら、みのりだったら、多分こんなに苦戦はしてはいなかった。多分、相手が相手だから。私は、膝元にある膝掛けをギュッと握り締めた。


「早くやっちまえよ」
「わ、わかってるわよ!」

催促に少し逆ギレ。あー、悪循環と思いつつ、膝掛けから手を離しそのまま膝に置く。転がったボールペンを握り直して、気付いた。書き終えた書類が物の見事に無くなっている。あれ、と小首を傾げて手は動かせぬまま対面するように座っている人物を見遣る。

「あー、終わった奴配った」
「そ、そう」

そう言えば眈々と自分の分の書類を書いていく。あー、なによ。どーしてくれんの。醜いではないか。真顔にもスラスラとボールペンを進めていく斗南さんは至って平然としているからグルグルと難しく考えている私がバカみたいで、泣けてくる。

割り切ってしまえば簡単だった。というより変なプライドとかもーいらない。邪魔なもんは全部捨ててやる。きっとこれは人間的に最低だと思うから。

「ねー、」と呼び掛けた。「ンー?」なんて間抜けな声と共に顔が上がる。ボールペンを捨て去り、膝掛けを出して、ーーこれ、ありがと。あと書類も、、そうお礼を言えば「オウ!気にすンな」と滅多に見せない顔で笑った。なんだ、コイツ。めっちゃいい奴ぢゃん。





送信者:祈紗枝

「紅愛が寝てるから、生徒会室に入るなら静かに入れって斗南さん真顔で言っててちょっと面白かったわよ」


ちなみに安眠を掻っ攫っていったメールを後から見て顔が赤くなったのは仕事を終えてばったり会ったニヤニヤする紗枝に指摘されてすぐだった。




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