「お腹すいた」
「ボクもー」
「何か食べたいねー…」

 何か、と考えて数日前、学校帰りに最近駅前に出来た噂のドーナツ屋さんにカルタちゃん、凜々蝶、卍里とそれからわたしの4人で行ったのを思いだす。うわさになっているだけあってほんとうに美味しゅうございました。カルタちゃんは詰め合わせを何箱か買ってお店を出たあとも食べてたっけ。わたしも買えばよかったなあ。その日は帰りが遅くなって、わたし達が門をくぐると野ばらさんが飛び付いて来た。妖館の住人総出でわたし達の捜索に出るところだったらしい。遅くなったと言ってもまだ陽がある時間帯だから大丈夫だろうと思っていたのだけれど、何かあってからじゃ遅いの、と野ばらさんに叱られてしまった。
 わたし達に易しい世界とは決して言えない。いつ、何が起こるかわからない。だから、自分の気持ちに嘘はつかない。後悔のない¨今¨にしたい。

「ホント、欲求に正直に生きてるねー、名前は」
「なんにでも正直だよ、わたし。何でも言うから嫌われるけど」
「名前はもう少し言葉を選ばなきゃね」
「…残夏さんがそう言うなら努力する」

 正直に、なりきれてるとは思えないけれど。実際、わたしは目の前にいるこの人に、自分の気持ちを伝えたことはないもの。残夏さんならわたしがこの口で言わなくともその眼で視えていて、それでも何も言わずに、何も訊かずに傍にいてくれているのかもしれない、と。そんな考えが浮かんでしまえば、伝えるなんてこわくて出来なくなった。だってそれは即ち、このままの関係でいよう、と言われているのと同じ。この心地良い関係をわざわざ壊すことなんて、わたしに出来るはずがない。

「名前今、何考えてた?」
「……シュークリーム食べたいな、とか?」

 やめてよ、ばれてしまったかと思った。わたしが隠したいこの気持ちを、ぜんぶ見透かしてしまいそうな視線が、その眼が、どうしようもなくきらいで、好き。


120311
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