学校の近場のコンビニ、スーパー、デパート、雑貨屋、駄菓子屋は全て回った。効率が悪いことは重々承知している。昨年は楽々手には入ったのに、今年は見かけることすらない、なんて。数日前からコマーシャルが流れてはいたけれど、それにしたってこの品薄状態は納得がいかない。解せぬ。


「苗字っちーー!」

 階段の踊り場で名を呼ばれ振り向くと、声の主はどーん!と効果音でもつきそうな勢いでタックルをかましてきた。不意打ち且つ体格差もあるため受け止められるはずもなくそのまま倒れこんだ。タックルというよりダイブだな、跳び込んできたもんこいつ。

「……黄瀬」
「スンマセンっス」
「悪いと思ってないでしょ、慣れたけど」

 そう言うと黄瀬は、「俺のこと何だと思ってるんスか…確かに思ってないっスけど」とかぶつくさ言っている。思ってないのかよ。何だと思ってるかって、黄瀬は黄瀬以外の何者でもないと思う。謝っておいて私の上から退かないあたりなんて、なんていうかもう、超黄瀬。ていうかこいついつまで乗ってるつもりなの。

「退いてよ重い」
「スンマセ…て、なんで涙目。そんな痛かった?超そそるんスけど」
「は」

 さらりと何言ってんだこいつ。ほんとヘンタイだな。知ってたけど。色々と残念なイケメンである。ぶっちゃけ私の好きな顔ではないのだけれども。
 今のこの状況にその台詞は、完全にアブナい。遅いだろうと思いながらも、捲れかけていた自身のスカートを押さえた。身の危険を感じたからだ。けれど逆効果だったらしい。視線が絡む。吸い込まれそうな、瞳。

「っそ、そういえば、黄瀬」
「なんスか」
「何か私に用があったんじゃないの?」
「用?…ああ、苗字っちに渡す物があったんスよ!」

 コレっス!そう言った黄瀬の手には、私が探し求めていた、某お菓子メーカーの季節限定スイーツアソートの、パッケージ。なんで黄瀬が、これを私に?

「俺も食べたいから全部はあげないっスけど」
「じゃあ箱さら出すなよ変に期待しちゃったじゃん」
「ふーん、いらないんスか」
「……いる」
「じゃあ口、開けて」

 言われたとおり口を開けると黄瀬は、こういう時はイイコっスね、とか言いながら、私にチョコレートを食べさせてくれた。おいしい。自然と顔が綻ぶのが分かる。
 どうして黄瀬は、私がこれをさがしていたのを知っていたんだろう。どこで手に入れたの。聞きたいことはたくさんあるけれど、まずはやはりお礼から伝えた方が、と考えていると。

「…俺にも分けて、苗字っち」
「なん、んぅ」

 ぱくり、と私のくちびるごと食べてしまうかのように黄瀬のくちびるが重なった。言いかけたことばも、口内に残ったチョコレートも、思考回路も、どろどろに蕩けてしまった。

20121122
え?キスって口閉じてするもんなの?
食べて仕舞おう:企画提出
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