「志摩」

 机に突っ伏してすやすやと寝息をたて、午後の授業を丸々寝過ごしていた男の名を呼んでみた。返事はない。もはや意地すら感じるこの寝付きの良さ。こいつ一回寝たら暫く起きないタイプだな絶対。面倒な事この上ない、というかいい加減起きろよほんと何時まで寝てる気だこいつ。あれだけ先生に頭バシバシ叩かれても起きないって相当じゃないの。

「しーま」

 まじこれ何。何て言う役回り?私が志摩と付き合ってるとか、そういうことならまだ話は分かるけどさ、いや私ただ級長ってだけなんですけど。こういうのはあの鶏冠頭の幼馴染み君が適役だと思うわけで。私だって暇じゃないんだからそこんとこ分かってほしかったっていうか、かれこれ1時間は経ってるからね、起こしはじめてから。ふざけるなよほんと。

「志摩ーいい加減起きてー」

 起きなきゃ頭をかち割るぞー、なんてね。今の私じゃほんとにやりかねない。だから志摩早く起きろってば。

「おいこら、志摩。志摩廉造」

 8割くらい本気で志摩の頭にチョップを食らわせてみる。起きない。こいつまじか。腕の隙間から見える気持ちよさそうな寝顔がなんか…なんか、アホっぽい。いや実際アホなんだけど、多分。加えて頭ピンクだから余計に。髪くしゃくしゃにするぞ。もうしてるけど。
 こんな明るい色にしてるから、きっと痛んでるんだろうなと思っていた志摩の髪。ふわふわとつんつんが混じった、何ていうか、男の子ーってかんじの髪。ちょっとかわいいかも。うん、ん?かわいいって何だ?

「、ん」
「!」

 志摩の体が大きく揺れる。反射的に手を退けようとしたのだけれど、できなかった。志摩が、私の触れている手を、掴んだから。

「…苗字さん、何してはんの」
「…何って中々起きない志摩を起こすよう担任に言われたから起こそうとしてたんですけどそれ以上でも以下でもないし起きる気配なかったから髪毟ってやろうかと思い立ったところでちょうど志摩が起きたんだけどいい加減手離してくんないかな」
「嘘はあかんえ」
「…嘘?」

 まだ少し寝ぼけた鷲色に捉えられて、逃げられない。ていうか嘘って何。本当のことしか言ってないんだけど。よく分かんないけど、何かを見透かしたように私を見上げる視線から逃れたくて仕方ない。

「…ま、お互い様やけど」
「え、っ」

 掴まれたままの手を軽く引かれ、顔がくっつきそうなくらい、近くなる。息遣いがわかる。多分この距離は、私と志摩のとっていいものじゃない、と思うのに、判るのに。私の苦手な笑みを浮かべる志摩から目が離せない。

「最初から起きとった、て言うたらどないします?」

 気付いてしまったから、もう。


20120809
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