月
「結っ…大丈夫か?」
『っ…か、ついえ、くん…!』
「どうした、何があった」
『あ、れ…?』
震える私の肩を押さえ、顔を覗き込む勝家くん。心配そうな彼の表情、そこに…あの人の姿はない
キョロキョロと周りを見渡してもあの白は見えない、まるで消えてしまったかのように
『っ…ぁ…だ、大丈夫!私は、大丈夫、だから…』
「そう、か…」
『う、うん』
「ならばいい、だが、急に飛び出すな。左近や皆がお前を心配しているはずだ」
『…うん、ごめんなさい』
彼が立ち上がるのにつられ、私もフラフラと壁に手をつきバランスをとる
そして勝家くんは…私たちが来た道の反対側。誰の姿も見えない暗闇の先を見つめる
その目が探しているのは、
「ところで…」
『あ……ごめん、お市ちゃんは、見つけられてないの』
「……………」
『……………』
勝家くんだって、彼女を追いかけるために店を飛び出した
私たちがずっとずっと、また会いたいと願うあの子。それを拒むあの子。勝家くんの表情がぐっと歪む
私はずっと昔から、彼のこんな表情を見続けていた。一番近くにいたのに、何もしてあげられなかった
それどころか…
『…ごめんなさい、勝家くん、』
「っ……何故、お前が謝罪を口にする」
『だって、私が…』
「あの日の私たちを責められる人間なんて、この世の何処を探そうといはしない」
『……………』
「結が、伊達氏が……お市様が、己を責めるのは全くの筋違い。それはマスターも再三お前に言い聞かせているはずだ」
『………うん、』
「……………」
勝家くんはもう一度だけ、真っ暗な道の先へ視線を向ける
そしてふうっと息を吐き、今度は、私を見つめて
「…店へ帰ろう、皆が結を待っている」
『………うんっ』
「主役の結が働いてばかりもおかしな話…片付けは伊達氏に押し付ければいい、こき使え」
『あは、片付けは明日にするよ。だから、うん、戻ろっか』
「ああ」
『……………』
スッと歩きだした勝家くんの背中を見つめる
細身だけど、広い背中。昔は私の方が背も高くて、ちゃんとお姉ちゃんをできていたのに
『お姉ちゃん、か…』
ねぇ、勝家くん
もしも戻れるのなら貴方はいつに戻りたい?
20140724.
月勝家
prev /
next