運命の輪 | ナノ

  死神


『お市ちゃんっ!!!!』




飛び出した外に風は無く、真っ暗なそこは人一人いない。外灯が照らす、夜の町

急いで周りを見渡した私の視界に飛び込んできたのは、道路にぽつりと落ちた真っ白な花弁


私はそっちの道へ駆け出す




『お市ちゃんっ!!どこっ…お市ちゃんっ!!』




私の記憶の中ではまだあどけない少女。大切な親友、家族のように育った幼馴染み

彼女の名前を叫びながら必死に走る。まだ遠くには行ってないはず、間に合うかもしれないんだ




『っ、待って、お市ちゃんっ、私、貴女に、謝らなきゃ…!』





ずっとずっと皆で一緒にいたい、そう言った貴女に私は力強く頷いた

それなのに、





『私がっ……!』





前の四人を、壊したんだ


貴女が自分を責める必要はないんだと、そう伝えなきゃいけないと思い続けた四年間


私は…昔から憧れていた綺麗な黒髪を探す。すると―…





『っ、あ、きゃあっ!!!?』




突然、ゴオッと強い風が吹き抜け地面の土埃を巻き上げる!咄嗟に身構えた私にもそれは擦り、チクチクとした痛みを伴った

その風は直ぐに治まったんだけど、同時に現れた誰かの気配。恐る恐る目を開けば…闇夜に浮かぶ、彼女とは正反対な、美しい白





『っ―……ぁ…!』

「……………」

『ぁ、あ、…あなた、は…!』

「…………ふふふっ」




ニンマリと歪んでいく口角が、ゆっくり細められる切れ長の目が、病的に真っ白な肌が私の視界の中で動く

その度に息を飲み、呼吸が苦しくなっていくのを感じた。一歩また一歩、後ろへ退けば彼が近づいてくる


ついに近くの家の塀まで追い込まれ…彼のゆったりとした声が言葉を紡いだ





「お久しぶりですね、結さん…ずいぶん成長されたようだ」

『ぁ、み、つ、ひで…さ…!』

「おや…私を、覚えていてくれたのですね」

『っ―………』





嬉しいですよ、そう続いた瞬間、私は足の力が抜けズルズルと塀に沿ってへたり込んでしまう

そんな私を真っ直ぐに見下ろす光秀さんは、お市ちゃんのお兄さんの部下で、彼女のボディーガード。ただ、それだけじゃない




『っ…ぁ、あ……!』

「……………」

『ぃ、や…やだっ…ぅ……!』




息を乱しながら震える手で自分の顔を覆う。それでも、真っ黒なその視界は白く染め変えられる

彼が動くたびに、揺れる白。私の記憶にこびりつく白、蘇る白、白、白…!


恐怖と痛みを伴うこれは、彼とはじめて出会った日から私を襲って逃がさない




「……………」

『やっ…!っ、はっ……!』

「……………」

『ぅ、っ―…!いやっ、や、やだっ…!』




両手が涙で濡れていく。しを感じる程の恐怖の合間で、何故だろう、この人の髪が記憶として浮かんでは消える


助けて、助けなきゃ、

苦しい、苦しいの、

私は、貴方が―…




「……………」

『っ、ぁ……!』




次に指の隙間から見えたのは、私と同じように座り込んだ彼が伸ばしてきた手

その手が私に、触れる、その瞬間―…!




「結っ!!!!」

『っ!!!!?』





私を覆う真っ白は、綺麗な真っ黒へと変わっていた






20140722.
死神光秀

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