運命の輪 | ナノ

  恋愛


「っ―……あれは…」

「ん?どうした、て何だ店の前に誰かいるな」

「……………」

「って、おい、伊達っ!!?」




もう店が見える所まで帰りついたオレたち。そこでふと、店の前に誰かが立っていることに気づく

黒く長い髪、俯いた横顔、懐かしいその女がこちらを振り向いた瞬間、オレは荷物をオッサンに押し付け駆け寄っていた







「市っ!!!」

「伊達様…お帰りなさい」

「っ、ああ、アンタとも久々だったな…元気そうじゃねぇか」

「……………」




市、そうオレが呼んだ女はオレたちのもう一人の幼馴染み。昔と変わらないぼんやりとした表情でオレを見上げていた

なんでここに…そう問う前に市は、大事に抱えていた真っ白な花束をオレへ押しつける




「これは…」

「…結に、お店、頑張ってって伝えて欲しいの」

「先輩に?」

「これ、市からのお祝い…じゃあ、市、もう…」

「っ、待て市っ!!!」

「……………」

「…アンタも店に来いよ。先輩も、勝家もいる。皆が喜ぶぜ」





足早に帰ろうとする市をオレは慌てて引き止めた。ここまで来たんだ、この花はアンタが直接渡せばいい

4年間、絶え間なくやり取りしていた先輩との手紙。その話によれば市とも、あの事件から疎遠になっていたはずだ




「戻って来いよ市、アンタが揃えばオレたちはまた―…」

「また…結を傷つける」

「っ―………」

「市が…市がいたら、結がまた怖い思いをする、また悲しい思いをするの、だから…!」

「あれは、アンタのせいじゃねぇだろ。先輩だってアンタを責めたりしない」

「…………」

「…オレが許されたんだ。アンタが責められる理由はねぇよ」





背を向けたままの市に言い聞かせるように、オレは話しかけた。こいつはあの事件を自分のせいだと思っている

ずっとずっと…だが違う、そう伝えようと再び口を開くが―…




「市がいなければ…結は幸せになれるの」

「っ!!!!?」

「そう、でしょう?市がいなくても…結には貴方や柴田様がいるもの」

「っ、馬鹿言うなっ!!!先輩がっ、勝家がっ、アンタをどれだけ待ってるか…!」

「ごめんなさい、」

「市っ!!!」




最後まで振り向かず市は夜道の向こうへ消えていく

追いかけようか、そう思ったが背後からオレを呼ぶオッサンの声に足を止めた




「おいおい今の、魔王の妹じゃなかったかっ!?まさか、お前さんらのもう一人の幼馴染みが…!」

「…アイツだ。大きなホテルを経営する、この町の権力者の妹だぜ」

「そ、そうか…」

「……………」









カランカランッ





『あ、お帰りなさい官兵衛さん、政宗く…って、ど、どうしたのその花束っ!?』

「うわ、流石は伊達男!でもさ、いくら結ちゃんへの贈り物だからってそれはやり過ぎじゃね?」

「……………」




店に帰れば、先輩が驚いたようにオレを出迎える

ちゃかす左近を無視して先輩のもとへ歩み寄るオレ。皆の視線がこちらに集まる中、手元の花束を先輩へ渡した




『これは…?』

「先輩に…市からだ」

『………え?』

「店の前まで、市が来てた」




ガタッ!!!




「お市様がいたのかっ!!?」

「うおっ!!?か、勝家?」




次の瞬間、勝家がらしくない大声と共に椅子から立ち上がる

その表情は驚きと、ほんの少しの期待。そして先輩もまた、声を震わせアイツの名を呼ぶ




『〜〜っ!!お市ちゃんっ!!!』

「って、え、結ちゃんっ!!?」

「先輩っ!!!!」




花束を隣の左近に押し付け、先輩は店の外へと飛び出していった

椅子を蹴飛ばし、それを追うように駆け出す勝家。意味も解らず顔を見合わせる店の奴ら


オレは…ただ二人を見送った






20140719.
恋愛お市

prev / next

[ back ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -