運命の輪 | ナノ

  愚者と吊るされた男


「おーい、結、酒がきれたんだがあるか?」

『お、お酒ですかっ!?準備してなかったので、長曾我部さんが持ってきた分しか…』

「喫茶店で酒はねぇよな…ったく、仕方ねぇ。先輩、オレが買ってくる」

『あ、うん、よろしく…って、ダメだよ!政宗くんまだ未成年っ!!』

「Ah?ああ、そうか。じゃあオッサン、面貸せ。アンタなら間違いなく買えるだろ」

「オッサン言うなっ!!相変わらず失礼なガキだな…!だが、御狐様が困ってんなら仕方ない、行ってやる」

『す、すみません官兵衛さん…』

「ははっ、気にするな!」




ペコペコと頭をさげる結に笑って、急かす伊達男と共に買い出しへ向かう

夜だが家の灯りに照らされた道。外は風なんか吹いていなかった












「こんな時間でも酒屋は開いてんだな、しかも近い」

「何言ってんだ、酒屋じゃなくコンビニだろ。それに小さい町だからな、店なんかだいたい隣り合ってる」

「…小さい町か、」




酒を大量に詰めた袋を片手に、伊達と共に結の店まで帰る

さっきの言葉は嫌味だな。その証拠に、こいつの表情はほんの少しだが笑っていた




「小さくてしけた町だ。観光になる物も遊ぶ場所もねぇ、つまらねぇとアンタは思わないのか?」

「さぁてなぁ…小生は来たばかりだから解らん。お前さんはこの町が嫌いか?」

「ああ、嫌いだ。だから昔から、いつか必ず先輩や勝家、アイツも連れてここを出ようと決めてた」

「……………」

「…ここにマスターがいる限り、叶わねぇ夢だけどな」




今度は、嘲笑

それはこの町でもあの帝でも、結へでもなく、自分へ向けたもののようだ


ここでふと思い出したのは、こいつら幼馴染みの話。伊達がここを去る前に、コイツらには何かがあった





「…何があったんだ?」

「……………」




ほんの興味で口から出た言葉。それに伊達の肩が跳ね、チラリとこちらを見上げてくる

細められた左目、次にクッとこいつは笑った




「そうだな…オッサン、誰にも言うんじゃねぇぞ」

「おう、小生は約束は守る男だからな!あとちゃんと官兵衛さん、と呼べっ」

「オッサンで十分だろ。ああ、4年前…この小さな町で、大きな事件があった」

「っ…………」

「それに巻き込まれたのが先輩だ。その先輩を勝家は助けられなかった。助けたのはマスターだ」




淡々と語る伊達だが、事件とはいったい何だろうか

4年前となればコイツらは今よりもっとガキじゃあないか。その事件に巻き込まれた、それがこのギクシャクとした関係の理由か?




「あの日からマスターは先輩の恩人だ。先輩の世界の中心はマスターになって、これから先もアイツのために生きる」

「……………」

「オレや、勝家は、マスターには逆らえねぇよ…4年前からずっと先輩を奪われたままだ」

「取り返そうとは思わないのか?」

「…取り返すさ、だが正直、無理だと思ってるオレもいる。勝家とアイツもいれば、勝ち戦も望めるけどな」

「アイツ…か」

「ああ、オレらは四人でずっと一緒だと約束していた」




約束していた、過去形か。つまりはもう破棄されちまったんだろう

こちらを見ずに語ったのはほんの少しの弱音混じり。きっとこんな話、結の前じゃ話せない




「まぁそう言うな伊達男!御狐様が大事ってんなら、何処でもいいだろう?この町でいいじゃあないか」

「……………」

「それに帝だけじゃない、お前さんのことだって御狐様は大事にしてるぞ。お前さんの帰りをあんなに喜んでただろ」

「……ああ、そうだな。まさかオレをまた、受け入れてくれるとは思わなかった」

「っ―………」

「オレは、嫌われちまっても仕方ないってのに」





4年前、大きな事件があった


巻き込まれたのが結で、

結を助けられなかったのが勝家、

結と勝家を助けたのが帝、


そして―……






「何もしなかったのがオレだ」






20140719.
愚者政宗と吊るされた男官兵衛

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