運命の輪 | ナノ

  皇帝と世界


「…………」




瓶に描かれた南蛮の文字。部屋を埋め尽くすが如く並ぶカラクリ。夜も更けた、それでも昼間のように照らす灯り

我らの世とはあまりにも違う日ノ本。ここはとても生ぬるく…それでいて、とても穏やかであった







「やぁ朋よ!楽しんでくれているかな?」

「っ………帝か、」

「ん?帝?ははっ、何を言う。予はしがない喫茶のマスターさ、それも今や甘露のもの」




ただの流浪の男にすぎない、そう笑いながら歩み寄ってくる男へと我も視線を向ける


先程まで眺めていたのはこの店の飾り棚。そこにはあらゆる姿形をした人形が並べられていた

あの女が言うには…この男の収集物らしい




「うぬもこの子達に興味があるのか?実に愛らしいだろう」

「…あまり興味もない。傀儡など、どれも精気のない同じ顔をしている」

「いいや、そうでもないぞ!よく見ろ、このほんのり笑んだ顔を」

「…………」

「旅に出ると毎回連れ帰ってしまうのだ。この子達の目に射抜かれてね…時が経とうと朽ちはしない、美しさがあると思わないか?」

「朽ちぬ…か。ただの凡人が帝の興になど付き合いきれぬ、傀儡に囲まれ暮らすのが貴様の幸福らしいな」

「ははっ、そう難しく考えないでくれ。うぬの言う凡人に、予の考えなど解りはしないからな」

「っ…………」

「こうやっていつまでも予の帰りを待ち続け、そして帰りつけば笑って出迎えてくれる…」




うぬにこの素晴らしさは解らないだろう、その言葉に己の顔がしかめられていくのが分かる

この男は…そう疑り始めた頃、だがしかし、と帝が思い出したように話を続けた





「やはり人には笑みだけではない、あらゆる表情や感情が必要だとは思わないか朋よ!」

「………は?」

「まぁ自慢話に付き合ってくれ、例えるなら予の甘露がまさにそれだ!甘露の笑みこそ弥勒菩薩のようだが、怒った顔もなかなかに愛らしくてな…」

「・・・・・」




この男が帰ってからというもの、尽きないものだと呆れるほどにあの女の話を続ける


このような時に限って半兵衛は何か考え事をし、我と帝に気がつかない

三成は伊達政宗と喧嘩を続けていて…狐は、柴田勝家と左近に捕まっている




「それでいて泣き顔さえも可愛らしいというから困る、目に浮かべた涙は甘露と呼ぶに相応しい」

「………そ、そうか」

「もちろん仕草一つとってもだ、はにかむ様など例えられる花が無いほど慎ましくしおらしい」

「……………」

「何を着せても似合ってしまうから、贈り物にはいつも悩むのがたまに傷だな…おお、それも甘露の魅力か!」

「っ…………」

「今も健気に予を待ち続けている、パッと花が咲いたような笑顔で出迎えられるからこそ旅は止められ―…」

「帝、」

「ん?」




この男の自慢話など興味もない

だが、これはまるで―…





「あの女も…貴様の傀儡か」

「……………」




我の言葉に驚いたような顔となる帝、しかし直ぐに人当たりのよい笑みとなり




「はははっおかしなことを言う。甘露とこの子達は違う」

「………そうか」

「ああ、勘違いはよしてくれ。なんせ甘露は…」





予の最も愛しいコだからね





「っ―………」

「どうした?」

「貴様は……!」

「そう恐ろしい顔をするな朋よ。何かおかしなことを言ったか―……ん?」

「?」

「これはまた…嫌な風が吹いたな」




突然、その表情を崩した男が窓を見つめる

外はもう暗い。道を照らす僅かな光のお陰で、店先の木がぼんやりと窓に映り込んでいるのみ


しかしそれは…揺れてなどいない




「…風もない、凪か」

「いいや、よくない風だ」

「……………」

「…甘露とこの町を脅かす風が近づいているようだな」






20140719.
皇帝秀吉と世界義輝

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