運命の輪

  節制と太陽


「あ…結くんが戻ったようだね」




店の扉がカラリと鳴り、留守にしていた結くんが入ってくる

その瞬間、怒ったような足音を鳴らして駆け寄る三成くん。そんな彼に気づき、家康くんも駆け寄ろうとして…躊躇した




「やれやれ、何故、迷う必要があるのかな…当の本人たち以外、皆が気づいているというのにね」




ああ、ほら。君が迷ってる間に官兵衛くんが仲裁に入ったじゃないか。次に政宗くんが喧嘩を売りに行ったね

その間に左近くんが結くんを逃して…ふふっ、行き先は勝家くんの隣かい




「皆、ずいぶんと彼女を気にしているようだ。ね、又兵衛くん?」

「っ―……は、はい?半兵衛さんの仰る通り!」

「…そう、ありがとう」




そんな僕の側では黙々と、何を考えているのかよく解らない彼が食事をしていた

官兵衛くんの部下。そのくせ妙に僕を慕ってくれているようでね。今も話なんか聞いていないのに、僕の言葉を肯定するんだ




「君みたいな従順な子は嫌いじゃないが…ちょっと面倒なとこが厄介だね」

「はい?あの、半兵衛さん…よく聞こえないんですけどぉ…」

「ああ、気にしないでくれ。ところで又兵衛くん、最近あの子とはどうだい?」

「あの子?」

「結くんだよ、また困ったりはしていないかな?」




この子は面倒ながら存外、面白い子だとも思う。それは結くんも同じで、最近の僕は彼を彼女へけしかけ、その様子を眺めることを楽しんでいた

僕の助言通り、困った彼女を助けようとする又兵衛くん。それに対し、怯えてさらに空回る結くん


それを見ることに飽きはしなかった。見知らぬ時代へ飛んだ中で見つけた僕の娯楽だ




「まぁオレ様が…助けてやってんですからぁ?そりゃもう狐も喜んじゃってますよ」

「とてもそうは見えないんだけどね」

「へ?」

「ああ、すまない。近頃独り言が増えたみたいだ。とにかく引き続き気にかけてやってくれ」

「そりゃ半兵衛さんが仰るなら!しかし半兵衛さんこそ、随分あの女を気にしてますねぇ」

「………え?」




彼は何気なくそう呟いて、結くんが昼間から頑張って作っていた料理を口にする

片手には甘い匂いのするお茶。彼のお気に入りらしい。そして…




「僕が…あの子を気にしている、か」

「半兵衛さん?」

「っ……いや、何でもないよ。ところで又兵衛くん、部屋の中で被り物はよくないと思うんだが」

「あ……そう、ですか」




誤魔化すように口にはしたが、最初から気になっていたことを注意する


この宴が始まってからずっと、彼はこの時代の冑を被っていた

僕に指摘されると布で出来たそれをあっさり外す。それは何だい?そう問いかけた僕に彼はああ、と小さく呟いた




「あの狐が…オレ様に寄越したんですよぉ」

「結くんが?」

「あー…なんか、いつものお礼だ、て」

「お礼……」




礼なんかされる筋合いないんですけどねぇ、と間延びした声でぼやきつつ…彼は少しだけ照れたように笑っていた

これは結くんから又兵衛くんへの贈り物らしい。似合ってますよ、彼女のそんな言葉を受けて、お洒落で被っていたのだろうか




「…………」





そりゃもう狐も喜んじゃってますよ、


ついさっきの彼の言葉。結くんは、本当に、彼に感謝して―…





「半兵衛さん?あのぉ…さっきから大丈夫です?」

「っ―……ああ、平気だよ、気にしないでく…れ…」




心配そうな彼に返事を返したその時、奥から料理を運んでくる結くんの姿を見つけた

この人数。政宗くんと彼女二人で回してはいるが、やはり手が足りないらしい。両手でお盆を抱えフラフラと歩く彼女


ああ、危ない、そう思った僕は―…





「…又兵衛くん、あっちなんだけど、」

「はい?……って、おい狐ぇっ!!お前ぇ、なぁに危なっかしいことしてるんですかぁっ!?」

『ひぃっ!!?ま、又兵衛さ―…って、きゃあっ!!?』

「なっ…!?ばっ…か、落としたらどうすんだぁっ!!?」

『ひぃいっ!!?すみません!すみません!すみませんっ!!』

「…………ふぅ、」




又兵衛くんが怒鳴った瞬間、いつものように怯えて飛び上がり…手元の料理を落としかける

それを間一髪掬い上げた又兵衛くんがまた怒鳴るものだから、結くんも再び震え上がる。いつものことだ


そして彼は文句を言いながらも、受け取った料理を彼女の代わりに運んでいく

この距離からでも解ったのは、結くんが、又兵衛くんにありがとうございますと言ったこと




「うーん…解らないなぁ」





僕は何故、こんなことをするのだろう





20140716.
節制半兵衛と太陽又兵衛

prev / next

[ back ]


- ナノ -