運命の輪

  悪魔と塔


「……遅い!何処で寄り道をしているんだあの狐はっ!!」

「まだ半刻と経っておらぬ、もうしばし待たぬか三成」

「もう半刻だ!まったく、左近はきちんと狐を送れるのか、やはり私があの時…!」

「…やれやれ、」




イライラと床を蹴りながら、店の扉と刻を告げるカラクリを見比べる三成

本多へ料理を届ける、と御狐殿が店を出てからずっとこれよ。遅い、まだ帰らない、何をしている、と苛立っておるわ




「ぬしは日ノ本一、せっかちな男ゆえ。御狐殿とは合わぬであろうな。まぁそう心配するな」

「アレがトロいだけだっ!!そして心配などしていないっ!!」

「そうかそうか、それはすまぬ」




…そう言いつつ、ずいぶんと気が気でない表情をしているではないか

迷子になるような幼子でもあるまいに…そそっかしい女子ではあるがな。おまけに今回は付き添いが左近よ


……確かに、危ういか




「っ、もしや左近とはぐれ、探しているのではないか!それとも本多かっ!?あれに捕まって帰れないのかっ!?」

「左近はあり得るが本多はなかろう。御狐殿を引き留めればぬしだけでなく、徳川も困るゆえ」

「あの狐が長話をすると思うかっ!?何らかの妨害を受けているに違いない…!」

「違いない?ヒヒッ、ずいぶんと御狐殿を解ったように話すな三成。それほど親しい仲となったか?」

「っ!!!!?」

「む……」




瞬間、三成がカッと目を見開きわれを見つめてきた

しまった…思わず口を滑らせ、三成の機嫌を損ねたか。癇癪を起こすまいな、と早急に宥めようとする


しかし、この男は…




「…それもそうだな」

「……は?」

「あの狐が会話を嫌うとは限らない。左近か本多か…柴田勝家の親と話し込んでいるのかもな」

「ああ…そうよな、そうかもしれぬ…が…」

「どうした、刑部」

「いや、存外すんなりと受け入れられたと思うてな」




われながら嫌味を込めてしまったと思う。ずいぶん御狐殿を知った風な口振りよ、とな

しかし三成はそれを聞き、それもそうだと受け入れた。それが不思議だと言えば、今度こそ不快を顔に出しわれを睨む




「私が嘘をついたと言うのか?貴様の言葉に納得したまでだ」

「そうか…」

「私はあの女をよく知らない。さっきまでの話も単なる憶測だった、確かに貴様の言う通りだ」

「…………」




それは…まるで知らねばならぬと言いたげな台詞だと、感じた

この男が他人を理解できていないと実感したのだ。果たしてこれまでに、そんなことがあっただろうか




「何だ刑部、言いたいことがあるならハッキリと言え」

「っ……ヒ、ヒヒッ!いやなに、知りたいと請うほどに御狐殿が気になるかと思うてな」

「っ!!!!?な、何を言う、そんなつもりはないっ!!私を家康や左近と一緒にするな!」

「む、ようやく御狐殿が帰ったか?」

「っ!!!!狐ぇえっ!!!左近っ!!何処で寄り道をしていたっ!!」

『ひぃいっ!!み、三成さんっ!?すみません!すみませんっ!!』

「……ヒッ」




都合よく帰ってきた御狐殿と左近へ、三成が足音を鳴らしながら駆け寄った

その形相に揃って後ずさる。三成め、また御狐殿を怯えさせているではないか




「まったく損な性格よなぁ…心配したとて、これでは意味がなかろ」




まぁしかし、三成は他人にどう思われようと関係ないか。それでも恐怖を与えるだけの人間と、誤解されるだけであろうに

相手を知ったところで…




「っ……これはまた、不可思議なことを考えた」




己が浮かべた考えに首を振り、否定する

その間も三成の説教は続き、御狐殿が半泣きで視線を泳がせればハッと、われのそれと絡まった




「…………」





相手を知ったところで、彼方が己を知らねば意味はない


それはまるで、知ってほしいと言いたげな考えであった





20140713.
悪魔三成と塔刑部

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