星と戦車
「…………」
『お口に合いますか、忠勝さん?出来立てなら良かったんですけど…すみません』
「…………!!」
『…さ、左近くん、今のは文句を言われちゃったのかな?』
「いやいや、美味いぞーって感想じゃね?そうっすよね!」
「…………!」
「あ、ほら頷いた!」
『あ、ありがとうございます!よかった…』
「……………」
勝家んちの蔵の中。良好な感想にほっと胸を撫で下ろす結ちゃんがいた
誰かに見せるわけでもない、それでもほんのりと浮かんだ笑み。そんな横顔を見つめていたら、ぱっとこっちを見上げてきたから慌てて視線をそらした
『左近くん、私、おじさんたちにお祝いのお礼言ってくるね。忠勝さんをよろしく』
「ああ、任せとけ…って、え?」
『行ってきますっ』
「え、ちょ、待ってくれよ結ちゃん!俺ら二人きりっ!?気まずいって俺も行く!」
『ちょっとだけだから、ごめんね直ぐに戻るよ』
「いや、待って結ちゃ―…って、うわっ!!?」
「―……!!!!!」
ガッシャーン、と突如動いた戦国最強さまに遮られ、結ちゃんを追いかけることは叶わなかった
薄暗い蔵に二人きり、見上げれば確実に俺を睨んでるし。まじ帰りたいっす三成様
「……………」
「し、視線だけで射殺される…!いやいや睨まないでくださいよ!俺に何の恨みがっ!?」
「!!!!!」
「あ、も、もしかして…!こっちに来ちまったこと、俺を疑ってるんすかっ!?そりゃ確かに、あれは俺が…」
俺たちを未来へ、結ちゃんのもとへと吹き飛ばした強い風
あれは確かに結ちゃんが、俺に触れた瞬間に起こったもの。家康にしか見えなかった結ちゃんが俺にも見えたその時に吹いた
あの子の手が俺に伸びて、俺の指先に触れて、俺たちを引き込んだ
「俺が…結ちゃんの…」
「!!!!!!」
「うぉおっ!!?え、怒った?怒られたっ!?すんません!よく分かんないけどすんませんっ!!」
「…………!!!!」
「え、えっと、そうじゃない?もしかして、家康の邪魔をするなとか言ってます?」
「っ―………!!!」
「いやぁ邪魔すんなって言われても、それははい了解って言えないって」
最強さまの目がいっそう怖さを増していく。この人は俺が家康を差し置いて、結ちゃんとここに来たことにご立腹らしい
いや、俺に言われても困るわけだ。なんせ俺は、家康を応援してるわけじゃないんだから
「だいたいアイツ、あんな見え見えなのに…結ちゃんのことどう思ってるのか、認めてないっしょ」
「!!!!!?」
「家康は必ず、いつか絶対に結ちゃんを泣かせる。賭けていい、だから俺は…」
「…………!!」
「ん?そんなことないって?ハハッ!よしきた、じゃあ俺とアンタで賭けといきましょうか!」
相棒の賽子を握り締め、目の前の男に拳を突き出した
さぁ、伸るか反るか
「もし、俺が―……」
『…左近くん、いつも賽子を弄ってるよね?』
「んー?なんか、手遊びが抜けないガキみたいな扱いだな。違うから!いつでも勝負できるようにってこと!」
『ふぅん…』
「あと触ってると落ち着くんだよな」
『あは、根っからの博打好きなんだね。マスターと一緒だ』
「ハハッ、さっき賭けてきたばっかりだしな!」
『え?』
店への帰り道。隣に並んだ結ちゃんが手元を覗き込んできたので、手のひらの賽子をコロリと転がしてみせる
不思議そうな顔の結ちゃんに笑いかけたら、首を傾げながらもヘラっと笑いかえしてくれる
「へへっ、よし!俺が一歩抜けたっ」
『抜けた、てどこへ?』
「んー?さぁどこだろうなっ」
俺と家康、どっちが結ちゃんを笑顔にできるだろう
20140710.
星左近と戦車忠勝
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