運命の輪

  教皇と魔術師


「ん?結、どこへ行くんだ?」

『あ、家康くん…あのね、忠勝さんが一人で留守番でしょ?だから料理、届けようと思って』

「そうか、忠勝も喜ぶよ!じゃあワシも―…」

「あ、結ちゃん!それ重そうじゃん、俺が運ぶから貸してっ」

「っ―……!」

『あ…ありがとう左近くん、ごめんね』



いつの間にか近くにいた左近が、料理の入った袋を結から奪い取る

そして至極当然だという流れで店の出口へと向かっていった。ワシが踏み出そうとしていた一歩は動かぬままに




「じゃ、三成様ー!ちょっくら結ちゃんと散歩…って、冗談ですっ!!お使い行ってきますっ!!」

『政宗くん、お店お願いね。左近くん、料理傾けちゃダメだよ』

「解ってるって!結ちゃん心配しすぎ」

『あは、うん、ごめんね』




仲良く出かけるその姿を、ワシはただ眺めるだけだった









「おう若いの、ずいぶん不貞腐れてるじゃねぇかっ」

「うわっ!!?おい、元親、酒臭いぞっ」

「ハハハッ!!せっかくのパーティーなんだ、かたいこと言うんじゃねぇっ」




一人座っていたワシの肩へ、笑いながら腕を回し迫る元親。もう片方の手には酒があり、開始早々から酔っ払いか

そんな彼から見ても、今のワシはずいぶん落ち込んでいるらしい




「あの若い兄ちゃんに結を取られちまったもんな、解るぜその気持ちっ」

「え……ま、まさか元親も…!」

「いつもサヤカや鶴の字に結取られちまってよ、いや、むしろ女連中が揃って俺を馬鹿にしやがる」

「そ、そういう話か…」

「…で?俺がまさか何だって?」

「っ―……!」




ニヤリと笑った元親は、周りを気にするようにコソコソと話しかけてきた

豊臣軍の皆はそれぞれで集まっている。常連客だという面々もしかり。今のワシらの会話を聞いている者はいない





「…俺の助言は役に立たなかったってことか?」

「っ!!!!!?」

「…………」






何があっても…結だけには、惚れるんじゃねぇぞ


それはいつかのある日、元親がワシに向けて言った言葉だった。ワシが結を見るたび、心の何処かで引っ掛かっている




「それは…どういう意味なんだ?」

「あ?」

「っ……何故、」




結に……


その続きを口にする前に、元親は困ったように頭を掻いた




「…まぁ、仕方ねぇ。アンタには教えといてやるか」

「っ………!」

「いいか、結にはな―…」









惚れた男がいるんだよ、






「……え?」

「前に一緒に飲んだ時にな、チラッと結から聞いたんだ!アイツは昔からある男に惚れてるってな」

「結、に…」





好きな男が、いるのか


いや、至極当然じゃあないか。結だって年頃の女子で、たくさんの人に囲まれ人並みに恋だってする

ただそんなはずはない、そう思っていたかったワシに彼の言葉はあまりにも衝撃で





「家康?大丈夫か?」

「っ―…あ、ああ!そ、そうなのか、やっぱり、そうか…」

「あ…いやいや!けどな、結は思いを告げる気なんざねぇって言ってたぜ!惚れたもんは仕方ねぇだろっ」

「わ、ワシは結にっ、そんな…」

「……………」

「…参考程度に問うが、それは、ここにいる誰か、だろうか?」

「いや、誰かとは言ってくれなかったが…俺は、マスターだと思ってる」

「帝…」

「あの気の弱い結が家族や勝家の反対を押し切って、高校卒業と同時にこの店で働き始めたんだ。マスターのためにってな」

「……………」




まだワシらが此方へ来る前の話。結と二人きり、神社で会う約束を繰り返していた日々

あの頃から知っていた。結にとって主が…帝がどれほど大切な者かということを、そして今日、それを目の当たりにした




「あ゛ー…悪いな、こんな話しちまって、酔いすぎたかっ」

「……………」

「あ、結、いつ戻ってくるんだろうな!アイツが主役なんだからな!は、ははっ」

「ははっ」





ワシは結を―…





20140704.
教皇家康と魔術師元親

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