女帝と隠者
「あら、浮かない顔ねぇ。せっかく結のお店が新しく開店するのに…お祝いしてあげなきゃ可哀想じゃない」
「…………」
「…義輝があの子の所に戻ったのが不服?それとも、新顔があの子に群がってるのが不満?」
「…………」
「ああ…その両方だったわね、ふふふっ」
「黙れ、我に話しかけるな」
こちらを見ることもなく返事を返したこの男
店のカウンター。その隅。今夜は注文するまでもなく準備された料理に口をつけていた
店に入り義輝を見つけた時からそう…いいえ、
「あの男たちが結の前に現れた日からそんな顔。あの毛利先生であっても気になるのね」
「ふん…我は知らぬ。あの女がどのような輩と付き合おうと関係のない話」
「そう?そのくせ―…」
「それゆえ、」
「…………」
「貴様が奴等をどうしようと、我は興味もない」
「…ほんと、つまらない男」
こちらの魂胆などお見通しだと言うくせに、自分は何も口出ししないのだから
つまらない男、張り合いがいのない男、それでも…この店に通い続ける不思議な男
「んー…妾だって、あの子たちや結をどうにかしようだなんて思ってないわ」
「…………」
「本当よ、何故、義輝があの子を置いて旅に出たのか。そして何故、今戻ったのか…見当がつかないの」
「随分と嘘八百を並べる」
「嘘じゃないわ。これでも、結に何か起こるんじゃないかと心配してるの、貴方もでしょう?だから休業中の店に何度も通って―…」
「喧しい女は好かぬ」
「あら?ごめんなさい、でも妾も女の話を聞かない男は嫌いなの」
「…………」
「…………」
互いに睨み合い沈黙…そしてその視線は、店の真ん中で慌ただしい結の方へ
ニコニコと笑いながら客への挨拶を続けるあの子。その笑顔は、昔から何一つ変わっていない
「そう…昔から変わらないのよ。貴方が何と思っても、見守るしかできないんだから」
「これ以上、その話をするつもりはない…アレに聞かれてはややこしいだけぞ」
「アレ?あ……ふふっ、そうね」
妾たちの様子を窺うように聞き耳をたてる、二人の小さな探偵さん
あの子たちに聞かせるには…まだ早い話だったわね
20140629.
女帝マリアと隠者元就
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