プロローグ

 

この思いをアナタに





『でっきたー!どうどう結ちゃん?プロの目から見ての出来映えはっ』

『えっと…ふふ、はい!満点だと思います雪子先輩っ』

『やった!結ちゃんのもすっごい可愛いっ』




お客さんのいない定休日の喫茶店【運命の輪】

その台所で店のマスター結ちゃんと、最近仲良くなった私雪子は、一緒にたくさんのチョコレート菓子を作っている

もちろん乙女の聖戦!バレンタインに向けた準備ですっ




『そう言う雪子先輩は…すっごく、大きなチョコレートですね』

『もちろん!兄さんは大きいから、チョコレートだってその分ビックサイズじゃないと!』

『や、やっぱり雪子先輩の本命チョコはお兄さんなんですか…』

『まぁねー。あ、結ちゃんはその綺麗なチョコ、従兄弟君にあげるの?』

『ひぃっ!!?ち、ちち違いますっ!!勝家君にはその、えっと…!』




あ、やっぱりそうなんだ

真っ赤になってブンブン首を横に振る結ちゃん。分かりやすいなー、でもすっごく初々しい

私は昔から本命チョコは兄さんって決めてるから。マンネリ気味なバレンタイン、今年は新鮮なことがあるといいな




『でも照れなくていいよ、バレンタインって気持ちが大事なんだから!ねっ、ねっ』

『は、はい!ふふっ、雪子先輩の場合は愛が隠し味になってませんもんね』

『あ、分かるっ!!?兄さんへの愛は隠しきれないもんね!むしろ隠す必要ないよねっ!!他の女に負けないくらい愛は込めないとねっ!!!』

『ひぃいぃいっ!!!?ごめんなさいっ!!ごめんなさいっ!!!』










『いやぁ…若い子はいいですね、なんかめちゃくちゃ女子トークしてる』

『……じゃあナキちゃん、私たちも女子トークする?』

『まじっすかゆのさん。え、ゆのさんって女子トークできます?』

『失礼な』




焦げ付いたチョコをガリガリ剥がしてる私ナキと、ひたすらレシピ本を読みあさるゆのさん

バレンタインは市販のチョコにしか手を出さない私たちが、まさか喫茶店のキッチンでチョコレート作りに励む日がくるとは

乙女な二人を眩しそうに見つめる私の隣で、パタリと本を閉じたゆのさんが呟いた




『私の先輩でマリアさんって受付嬢がいるんだけど…』

『ふむふむ』

『先月、彼女の人気を妬んだ別の受付嬢の先輩が、ロッカーの服をビリビリに裂いちゃったの』

『あれ、私の知ってる女子トークじゃない。確かに女のドロドロした話だけど乙女じゃない』

『そしたらマリアさん、その受付嬢を連れ帰っちゃって…3日後その人、マリアさんの従順な雌猫になって帰ってきた』

『まじか。え、待って気になる。その3日間に何があったのかめっちゃ気になる』

『うん、私も気になる』




乙女って怖いよねーと笑うゆのさん。いや笑い事じゃないっす

織田貿易で働く私が言えたことじゃないけど、彼女の職場は大丈夫なのだろうか




『それよりナキちゃん、私たちコレ作ろう』

『ん?どれですか?』

『フォンダンショコラ』

『いやいやいや無理でしょ。見た目からして無理ですよ、絶対ベチャッてなりますよ』

『んんー…本見てて一番食べたいって思ったから』

『自分が食べる前提な上にゆのさんのモチベーションの持って行き方が分かんないっす…』











『…私はナキさんとゆのさんが誰にチョコを渡すのか、が気になります』

『あ、私も!ナキさんはやっぱりお子さんかなぁ…』

『じゃあゆのさんは…いつも一緒の幼なじみさんでしょうか?』




チョコの焦げた臭いを漂わせながら、料理本を覗き込むナキさんとゆのさん

そろそろ手伝いに行かないとバレンタインに間に合わないかもね


でもせっかくなら、二人が誰に本命チョコを渡すのかも聞いてみたい。そんなことを考えた私は結ちゃんに目配せし、そっと二人に近づいていく




『あのー、ナキさん?ゆのさん?』

『ん?なに雪子ちゃん、私のチョコ味見する?』

『それは遠慮しときますっ!!えっと、二人は誰にチョコを渡すんですか?』

『もちろん可愛い息子たち!だから美味しく作りたいんだけど…私には無理だ』

『だ、大丈夫ですナキ先輩っ!!大事なのは味でも見た目でもなく気持ちですからっ!!』

『ぐはっ…!味と見栄えをディスられた…結ちゃんってたまに鋭く傷を抉るよね…』

『えぇー…えっと、ゆのさんは?』

『んんー…分からないや。今までバレンタインとか参加したこと無かったから』

『そうですか…』

『…だからこそコレ、渡すときはすごい勇気いるんだろうね』




そう言って困ったように笑うゆのさんと、真剣な顔で再びレシピと睨めっこするナキさん

その様子は私から見ると…すっごく女の子だった。そうだよね、バレンタインはワクワクだけじゃない

相手のために真剣になって、ドキドキして、最後の最後まで勇気が試される。それは義理でも友でも本命でも同じはずなんだ




『大丈夫です二人ともっ!!どんな味で、どんな思いが込められてても、相手は受け取ってくれますっ!!』

『…やっぱり私のチョコは味がダメな前提なんだねコノヤロー』

『私はナキちゃんのチョコも好きだよ。あと私、やっぱりフォンダンショコラにする』

『あ、ゆのさん!手伝いますっ』

『ありがと結ちゃん、じゃあ雪子ちゃんはナキちゃんを手伝ってあげて』

『はい!ほらナキさん頑張りましょう!きっと噂のマセガキ君も喜んでくれますよっ』

『はぁあっ!!?べ、別にマセガキだけに渡すわけじゃないしっ!!むしろあの子の分はついでだしっ!!』

『えぇー…』






20160211.
チョコレートは誰の手に

(2/7)
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