ハッピークリスマス
『ありがとうございました、またお越しください!』
「おー、今日は店が大繁盛だな結!しかも持ち帰りばっか、けぇきが馬鹿売れだし」
『ふふ、だってクリスマスだもん』
「くりすます?」
小さな子どもを連れた家族が、大きなケーキを手に店を出て行った
それを見送る私の隣で、いつもと違う客層に首を傾げる左近くん。だって今日はクリスマスだから、みんな持ち帰って食べるんだよ
『この町でケーキがあるの、うちの店くらいだから。テイクアウトだけなら一番の稼ぎ時だねっ』
「ふーん…くりすます、は家族でけぇきを食べる祭りなのか?」
『決まり事じゃないけど…誕生日と同じくらい定番かな。あ、でもイエスの誕生を祝う日だから同じ…?』
「え、他人の誕生日祝うの?」
『えっと、あの…い、いいの!理由が何であれ家族や友達…恋人と一緒にすごす素敵な日なんだから』
お店にやってくるお客さんみんなが笑顔な日。もちろん私だって忙しくても幸せな1日だ
ケーキを予約していたお客さんも今ので最後。お店も終わり
『楽しい1日になったらそれで十分!クリスマスってだけで幸せな気持ちにもなって、とにかく素敵な日なのっ』
「ふーん…」
『あれ…左近くんって、クリスマスみたいなお祭り興味ない?』
「いや、例えばさ、結」
彼は豊臣の皆さんの中で一番お祭り好きだと思っていた
けれど想像と違う気のない返事を返し、カウンターに肘をつき、私の顔を覗き込んでくる左近くん
いつもと違う、意地悪な顔。その顔がいっそうニヤリとした笑みに変わり、私に問いかけてきた
「いつもより幸せそうな俺の顔も、見たくない?」
「うっまっ!!やっぱり結のけぇきうまいなっ!!最高っ!!幸せっ!!」
『…あはは、左近くん、ほんと美味しそうに食べてくれるから私も嬉しいよ』
「いやマジうまいから!あー、くりすますが毎日あったらいいのになー」
『もう…』
幸せそうにクリスマスケーキを頬ばる左近くんは、ほんと、おねだりが上手だよね
思わず好きなだけ食べさせてあげたくなるんだ。今も彼の前にはイチゴのホールケーキ…残り物でごめんね
「でもやっぱ結の言う通りだな!くりすますってすっげー幸せ」
『左近くんはお菓子が食べられたら、いつでも幸せなんじゃない?』
「いやいや俺をなめんなよ!そんなガキじゃねーし…ちゃんとくりすますの良さも噛みしめてるっての!」
『クリスマスの良さ…?』
「こうやって結と一緒に過ごせてる幸せってやつ?」
『なっ……!』
「あ、真っ赤。へへっ結、この苺みたいになってる!」
フォークに突き刺した苺を振りながら、そんなことを言う左近くん!
慌てる私を見て更にからかってくるなんて、恨めしげに睨んでも効果はないみたい
『うぅっ…』
「あ゛、ちょ、泣くなって結っ!!俺は別に嘘なんかついてねぇからっ!!」
『だって左近くん、私をからかってる…』
「だからからかってねぇから…あー…ほら、結も笑えって!あーんっ」
『え……』
目尻にジワジワ涙を浮かべた私に焦ったのか、目を泳がせながら慌てだした左近くん
そして私を慰めようと…何故か突き刺していた苺を、私の口元に向けてきた
『え、え、ええっ!!?』
「え、ちょ、なんだよ、どうしたんだ?苺、嫌いだった?」
『そうじゃないけど、こんなのは、そんなに軽くやることじゃ…!』
「んー…結だから、なんだけどな」
『うぅう…!』
…やっぱり、左近くんは、あざとい
さっきまで悲しそうな顔してたのに、私が迷い始めるとここぞとばかりの笑顔を見せてくる
これが母性を擽られる、てやつなのかな
『…一口だけ』
「大丈夫だって結の作ったけぇきだろ?たった一口でも絶対笑顔になれる、な?な?」
『………………』
ゆっくり、できるだけ小さく、左近くんに向かって口を開いてみせた
その隙間に押し込まれる苺、咥え込めばすっと抜き出されるフォーク。口の中に広がる甘酸っぱさとクリームの甘さは、クリスマス効果なのかいつもと違って感じた
『ん……ふふ、うん、左近くんが言う通りやっぱり美味しい』
「………………」
『…左近くん?』
「…やっべぇ、今のかなりヤバい。まじヤバい」
『………へ?』
「結、もう一口!次こっち!」
『ひいっ!!?も、もう無理!一口だけって言ったのに!』
「いやいやいや、なんつーかこう、男心にぐっときた!くりすますってすげぇなっ!!」
『く、クリスマス関係ないよこれっ!!絶対にいやっ!!』
「頼むっ!!!」
『ダメッ!!!』
…こんなやり取りを繰り返しても、結局私は左近くんが満足するまでケーキを食べさせられるんだ
20151224.
投票2位:島左近(運命の輪)
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