メリークリスマス






『あ、ほら足下ちゃんと見てください。すっ転んでも知りませんよ』

「…この程度の石ころで転ぶものか。ぬしはちと、われをなめすぎよ」

『だってこの前、竹千代くんが出しっぱなしにしてたオモチャ踏んで倒れたじゃないっすか』

「……見ておったか」

『そりゃもう必死に平静を装って立ち去るところまでバッチリ……ぶはっ!!』

「・・・・・・・」

『あはー、拗ねない拗ねない。ほら可愛い佐吉くんが待ってますから早く帰りましょ』

「……佐吉には言うでないぞ」

『言わないですってば』




私たちの足元は、昨日の雪のせいで滑りやすくなっていた。見上げた空も再び雪を降らせる気満々で、吐いた息と同じく白掛かっている


そんな中、私と刑部さんは買い物袋を抱えて歩いている。他のみんなには内緒でこっそり出かけた買い物デートだ

けど袋の中身は色気のあるものじゃなく…子どもたちへ贈るクリスマスプレゼント




『そっちの荷物も持ちますよ?歩きにくいでしょ?』

「馬鹿を言うな、仮にも女であるぬしに荷物を持たせては示しがつかぬ」

『えー、変なとこで見栄っ張りですね』

「一応は女であるナキより力もある。かろうじで女なぬしこそわれに荷物を任せ」

『さっきから仮にもとか一応とかかろうじでとか変な強調しますね、正真正銘女ですコノヤロー』

「ヒヒヒッ」




ゆっくり歩幅を合わせて歩く私たち。その片手にはそれぞれ荷物、もう片方は…互いの腕をしっかり絡めていた

足の悪い刑部さんが外を歩く時、私はいつも彼を隣で支えている。普段は子どもたちも一緒だし、こんなの当然のことだと思っていた

…でも今は二人きり。クリスマスだからか周りはカップルや夫婦ばかりで、まるで私たちも…




「ナキ、いかがした?」

『っ、いやいや何も。日も短くて真っ暗ですし、さっさと帰りましょうか』

「ああ、今宵はさんたとやらを演じねばならぬのであろ?」

『刑部さんがやると迫力ありすぎて子どもたち、泣きそうですけどね』

「そこまで恐ろしい顔はしておらぬ」

『え、鏡見たことあります?』

「その台詞、そっくりそのまま返してやろう」

『どういう意味ですかコノヤロー』

「ヒッヒーヒヒッ!!!」

『……………』




ゲラゲラと大爆笑な刑部さんが肩を揺らせば、腕を組んでいる私もそっちに引っ張られる

こんな近い距離は日常で、昨日までと何の違いもないのに…街を彩る明かりがクリスマスカラーになるだけで、何故か気持ちが勘違いしてくる


私と違ってクリスマスを知らない貴方は、なんの変哲もない1日にしか感じていないのでしょうね




















『刑部さん、刑部さん、もう少しこっち歩きましょう危ないです』




そう甲斐甲斐しくわれの腕を引くナキは、昨日と変わらぬ涼しい顔をしている

いつもより人の多い町。そして星よりも眩い光が彩る今宵は、何か特別な日であるらしい




「…ナキよ、さんたとやらは片倉か猿でもよかろ」

『ダメダメ、堅物男子と思春期忍者は羞恥心が勝るんで。やるからには本気じゃなきゃ』

「われもアノ衣装を着るは、抵抗があるのだが…」

『クリスマスについて話を聞いてた佐吉くんのキラキラした目、見ましたよね?』

「…………卑怯な」

『ぶはっ、私もちゃんと着ますから。サンタ衣装、みんなで着れば怖くない』

「………………」




ケラケラと笑うナキが、われの顔を覗き込もうとすれば当然のようにその距離は近くなる

いや、腕を絡めている時点で距離など今更の話。だがナキの視線がいつもと違う気がして顔をそらせば…われらよりも距離の近い男女が視界に映り込んだ




「…………っ、」






今宵の雰囲気は、好かぬ

飲み込まれかけた己の目を覚まさせるため、数度首を横に振った。佐吉らが待つ家へ早く帰ろう

でなければ…煩わしい光に飲み込まれてしまう





『ほら、行きますよ刑部さん。段差、気をつけてくださいね』





ナキが腕を絡めるのは、われの足を憐れんでのこと

われらの間には憐れみしかないと、そう言い聞かせて再び歩き出す




















『あ』

「む……ほう、ここは先程までより灯りが少ないのだな」

『暗いんじゃないです、もうすぐなんです』

「はて、」




もうすぐ家が見える、そんな中、私たちが足を止めたのは近所の公園の前だった

昼間は梵や弁丸くんたちが元気よく遊んでいる場所。でも夜である今は、街灯の拙い灯りでしか照らされていない


…でも、昼間の明るい時間帯より、人は多く集まっていた





『今年から始まったらしいですよ。私もどんな規模かは分からないっすけど』

「…何が始まるのだ」

『何て言えばいいのか…ほら、公園の真ん中に大きな木があるじゃないっすか、あれに、あ』

「っ…………」




刑部さんに説明しようとしていた最中、パチッという何かのスイッチが入る音が響いた

次の瞬間−…





『刑部さんっ』

「これは…」






ぱあっと広がった光の世界が、真っ暗な公園を彩り私たちを包み込んだ

光の点滅。赤、青、黄、緑、様々な色が踊るクリスマス。そう、この公園でも大規模なイルミネーションが見られるんだ


昼間、遊び疲れた子どもたちがその下で休憩する大きな木も、今夜は綺麗なクリスマスツリーに変わる





『綺麗…』

「…昼間とは、違う場所のようだ」

『ですね…すごいキラキラしてて、ほんと、別の世界みたい』

「っ………」

『あ…すんません』




はっと我に返った時、私は、知らないうちに刑部さんの腕を引き寄せてしまっていた。肩に頭をあずけるという、恥ずかしいオプションと共に

刑部さんが息をのむ音で気づいて離れるけど…私たちの間に微妙な空気が流れる


イルミネーションに集まる人たちから少し離れた場所で、じっと見つめ合った




『え、と…』

「…ヒッ、まさか、そうくるとは思わなんだ」

『はい?』

「いや、これはまた盛大な祭りよな。こちらの世の光は眩すぎるが」

『あ…そうですね。でも私は嫌いじゃないです』

「左様か、」

『それに…クリスマスに、誰かとイルミネーションを見るなんて。私には縁遠いと思ってたのに』

「………………」




別に合わせたわけじゃないけれど、同時に視線をイルミネーションへ向ける

キラキラ綺麗なそれは、刑部さんの好きな星とはまた違う輝き。でも、目を細めて見つめる様子からして存外嫌いなわけじゃなさそうだ




「…ヒッ、さてさて家で皆が待っているわけだが」

『あ…そうですね、サンタさんの準備もしないとっ』

「ああ…帰るか、」

『はーいっ』




イルミネーションを横目に、私たちは家に向かって再び歩き出す

もちろん腕は絡めたままで。互いの体温をすぐ隣に感じながら




『…ぶはっ、刑部さんのサンタコス、一枚くらい写真撮らせてくださいね』

「断ろう」

『ええー、そこは乗りましょうよ。後日それ見て笑いたいっす。ネタにしたいっす』

「…ヒヒッ、ぬしの写真もわれに寄越せ。ならば考えてやろう」

『私の写真、どうするつもりです?』

「部長殿に売る。高値になるであろうなぁ」

『ど突き倒しますよ、ちょ、売るな。部長にだけは売るな』

「ヒーヒッヒッヒッヒッ!!!」




さっきまでの雰囲気はどこに行ったのか、いつもと変わらないやりとりを繰り広げる私たち


でもその歩みは心なしか、さっきよりもゆっくりになっていた





20151223.
投票1位:刑部(Σ-シグマ-)



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