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02:君がいんだ


逢えない夜を数えてみる。
その間も君と執事君は一緒に居ると
考えれば考える程

小生は―…



『こんにちは』


扉が開き、暗い室内に光が差し込む。
その光と共に、君の愛くるしい笑顔も…

そして


「失礼致します」


真っ黒な執事君も。


「ヒッヒ……よく来たねぇ」


小生は笑顔で出迎える。
何時も通りに。


「今日は例の件で来たんだろう?
小生はちゃぁんと知っているよ…」


例の件、というのは先日の手紙の事。
例のリストにあった人が小生のお客として来たものだから、わざわざ連絡してあげたんだよ。


「さぁ、小生に極上の『笑い』をおくれ…ッ」


執事君の漫才は完璧だからねぇ。
彼女との事に嫉妬はするけれど、何よりも愛して止まないお笑いのセンスは認めているのさ


一時間…


「うひゃひゃひゃひゃッ
ブフォ…も、辞め…ッ」


看板がずれる程の笑い声を出し、小生は理想郷を見た気がしたねぇ…


「ハァ…良い物を見せてもらったよ…
では、小生も約束を果たすとするよ」


小生は執事君にお客の情報を渡し、カウンターに戻った。


「有難う御座います」
『ねぇ、セバスチャン、見せて!』
「いけません。
これは貴方には関係ありませんので」
『そんな事言わずに、ね?』


背の低い彼女が、一生懸命執事君の手元を覗こうとしてもそれは困難。
目一杯背伸びして、執事君の表情を伺う。

……小生はね

もう、我慢の限界なんだ。


君の事を考えれば考える程
小生は―…



































恋焦がれて
気が狂ってしまいそうだよ









「失礼します」
『お邪魔しました、葬儀屋さん』
「…ヒッヒ…またおいで」


勿論、次に来る時に
執事君は居ない。

そろそろ、閉じ込めてあげよう。
嫉妬して欲しかったんだろう?

でもね、小生にも限界というモノがあるんだよ…

嫉妬させるよりも、ずっと簡単に
小生が愛しているという事を教えてあげよう。



「―…さて。
あのファントムハイヴ邸の事だ。
心して準備しないとねぇ」


取り返しのつかない事になる前に。
早く彼女を閉じ込め無くては。

小生の前でなければ
息をする事さえも許さない。



「…今日は嫌な空だ」
「ああ、美し過ぎる満月ですね」
「…そうだな」
「クス…では、おやすみなさいませ。
坊ちゃん」


夜の闇を身に纏い
月の明かりを背中に貼り付けて

君を攫いにやってきたよ


( 厄介なのは執事君だねぇ… )


でもね、小生は気味の弱点も知っている。


「―…このような時間に、何か御用ですか。
葬儀屋さん」


闇の中から現れたのは、


「やぁ…執事君。
来ると思っていたよ」


不気味に笑えば、執事君は呆れた顔で溜息を吐く。


「隠れようともせず、堂々としすぎです」
「悪い事をしないのに、何故こそこそ隠れる必要があるんだい?」
「全く…貴方は毎回毎回。
よく飽きませんね」
「飽きる訳ないさ…
熟した魂程、魅力的な物は見た事がないねぇ」


小生が出入りしている事を、執事君は知っていたんだね。
まぁそれも小生の予想範囲内さ。


「…その意見には、同感ですね」
「ヒッヒ……満月の夜に見る百合は何よりも美しいからねぇ」


互いに貼り付けた笑みの裏、何を考えているかは分かっている筈だ。
手の内を明かす前に、探り合う。

二人の影を照らすのは、満ち足りた夜空の光のみ…


「…小生はね、君に渡したいものがあるんだよ」
「…渡したいもの?」


ヒッヒ…と何時もの不気味な笑い声を出し、先に切りだしたのは小生。
懐から取り出したものは…


《にゃーン》

「Σ!!!」


白い子猫。


「この子には母親が居なくてねぇ。
確かこの屋敷には猫が何匹も居ただろう?
この子を預かってくれないかい?」


震える手を小生の差し出す子猫に伸ばす。


「執事君は、伯爵の命令が無い限り動かないだろう?
小生はね、この猫よりもずっと、欲しいモノがあるんだ」


執事君の震える手が、猫を捕えた。


「…こんなにも愛くるしい仔よりも欲しいモノがあるなんて…
貴方は貪欲な方ですね」
「そう、小生は貪欲なのさ…
視線も香りも、呼吸すらも小生のモノにしたいんだよ」
「…貪欲ですね」


クス、と薄い笑いを漏らす執事君は、恐ろしい程美しい。


「良いですか。
私は何も知りませんよ」


闇に紛れて行くその姿は、正に―…


「悪魔、だねぇ…」


小生が何を、誰を求めているか分かっていながら、君はそうやって知らないふりをする。
自分の欲する魂以外は、要らないというのかい…?

奇遇だねぇ





小生もだよ





さぁ、眠れる姫の元へ
盾も剣も持っていないけれど。

龍は倒した

あとは君に
目覚めのキスを。


永遠に閉じ込めてあげるよ
茨も呪いもないけれど
腐るほどの歪んだ愛に包まれて

小生はね
君の呼吸すらも
奪ってしまいたいんだよ


『スー……』


規則正しい呼吸が響く、薄暗い部屋。
月明りだけが頼り。


「…やぁ、姫君。
今夜も美しいねぇ」


満月に見る百合は、何よりも美しい。
薔薇は刺々しくて、触れやしない
アイリスは夜に取り込まれ、闇に溶けてしまう
牡丹は闇に浮かぶ毒々しい色に

百合は違う

ドロドロと、全てを取り込まんとする闇に抗う様に。
その白さと気高さを貫き通す。
何にも染まらない白。


小生はね、その純白にたった一滴の黒を垂らしたいんだ。
本当は君を小生の色に染めてしまいたいけれど。

それじゃあつまらない。

もう決して白には戻れない。
けれど、完全な黒にもなれない。

そんな曖昧な色に、君を染め上げてしまいたい。


『―…ッだ、だれ―…』


小生の気配に気づき、飛び起きる彼女の口を塞ぐ。


「お〜〜…っと…
大声出しても無駄だよ…」


口角を上げて彼女を見下ろす。


「君が悪いんだよ…」



―…小生にだって
我慢の限界が有るんだよ



『ッ…』
「さぁ、お望み通り。
君を閉じ込めてあげるよ」


酷く美しい花には棘があるように
酷く甘い蜜は苦味もあるように
酷く真っ直ぐな愛は時には歪むものなんだよ…


君が悪いんだよ
小生は君だけを愛しているのに
君が小生を試す様な真似をするから。
仕方ないから
小生の真っ直ぐ過ぎる愛を、そのままぶつけてあげるよ

君が悪いんだ

小生の愛を、疑うから。

棘に刺された方が、余程マシなのにねぇ。







02:君がいんだ
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(血が出る事で、生を確認しているのに)



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