yume-utsutsu..*

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『ん…此処は…』


目を覚ますと、其処は知らない場所。
あたしはボヤける視界で部屋を見渡し、靄の掛かった頭をフル回転させて昨日の記憶を手繰り寄せた。

確か、あたしは…

あたしは英国の貿易会社の雑用をしていた。
家が貧しくて、まだ幼い弟や妹を食べさせるためには、心も身体も未発達なあたしまで働かなくてはならない。
昨日も遅くまで掃除をしていて、夜更けに家路に着いた。
…それから?

確か…何時もの路地を曲がって…


…ダメだ。
思い出せない。
記憶の糸が、プッツリと途絶えてしまっている。


( それにしても、此処は何処だろう… )


窓の無いこの部屋では、時間の感覚がズレる。
今は昼なのか、それとも夜なのか。
あたしは丸一日眠っていたのか、それとも数時間だけなのか。

やっと暗闇に目も慣れて来た頃、自分は石造りの部屋の中に居る、という事と、座っているのはベッドだと言う事。
暗闇の中、自分の居るベッドのシーツの白だけがやけに目立つ。
ベッドの隣には小さな棚。
その上にある小さなランプを手探りで点けた。


『…ッ…点いた…』


オレンジの淡い照明が、暗い部屋を照らした。


「おやおや、起きちゃったのかい?」
『!!』


部屋の隅。
丁度影になっている所から声がした。
穏やかそうな、でも何処か恐ろしい声。

目を凝らしてみたけれど、僅かな明かりでは照らす事は出来ず。
影はすっかり声の持ち主を隠してしまっている。


『だ…誰…』
「我かい?
それを聞いて、どうするつもりなんだい?」


見えない人と会話をするのは、こんなにも怖いなんて。
それでもあたしはひるまずに声を出す。


『あ、あたしの知っている人!?』
「さぁ、我は君を知っているけど…
君は我を知っているかな?」


謎かけみたいに曖昧な返答に、あたしは黙り込む。
本当は聞きたい事は沢山ある。

此処は何処か
何故此処に居るのか
何がしたいのか
何を望むのか…

でも、問うた所で流されるか、曖昧な答えしか返ってこないだろう。


『…あたしを…帰して下さい』


唯一言要望を述べる。
どうせ、叶う事のない望みだけれど。
でも、返って来たのは予想外の言葉。


「ああ、用が済んだらね」


一瞬希望が差しこんだけど、誰も生きて帰す、なんて一言も言っていない。
"用"が済んだら、あたしを殺して死体で帰されるのだろうか。
そんな自分でも驚くくらい、狂気的な発想が頭を巡る。


『……用って…』


何、と聞こうとした瞬間。
影の中で何かが動き、一瞬であたしの目の前にまで来た。
そして大きな掌であたしの口を塞ぎ、そのままベッドに押し倒された。


「我の用はね、君にしか出来ない事なんだよ」


明かりの元へと出て来た人物に、目を丸くさせた。
目の前に居る人物は、会社で見た事がある。

確か…貿易会社『崑崙』の英国支店長…


「…その様子だと、我が誰か分かったみたいだね?」


閉じた瞳と、釣り上がった口角。
全く表情を読めない事を、貿易会社の社員達が気味が悪いと言っていたのを聞いた。


『ッハァ…あたしにしか…出来ない…?』


やっと手を離され、酸素を吸いながら途切れ途切れに問い掛ける。
見上げる先には、酷く整った顔立ち。
黒い短髪に白い肌。


「そう…
大丈夫、怖がらなくて良いよ。
君が…名前さえ大人しくしていれば、ね」
『な、何で名前―…』
「言っただろう。
我は君を知っている、と」


其処知れぬ恐怖が取り巻く。
あたしに何をさせるつもりか、薄々分かって来た。

そんなあたしの思考を停止させるように、彼はあたしに覆い被さった。


『ちょ、退いて…ッ
止めてよ!』


怖い、心臓が跳ねる。
指が震える。
恐怖のあまり、体に力が入らない。


「おやおや、悪い子だね。
大人しくしていないと、痛くしちゃうよ」
『ッ…』


ふっと耳に熱い息が吹き掛かり、小さく躯を揺らす。


「おやァ?
随分感度が良いんだね。
我の知る限り、君は処女だと思ってたんだけどな」
『…!』


何でこの人はあたしの事、知っているの。
大体、其処まで知っているなんて…
何で、どうして…


「顔が赤いね。
処女って当てられて、恥ずかしいの?」
『う、るさ…い』


首筋に顔を埋め、其処で吐息を交えて話す。
くすぐったさと、妙な感覚が背筋を駆ける。


「我が想像していた通り、君は清い躯みたいだね」
『ッな、んで…知ってるの?ッハァ…』
「君は英国貿易の雑用をしているだろう?
我は君を何時も見ていたんだよ」


…そういえば、良く見かけたけれど…
何故、あたしを?

次々と浮かび上がる疑問。
全てを投げかけようと、唇を開いた時。


『あの…ッんぅ!?』


温かく、柔らかいモノに唇を塞がれた。
勿論、それが唇だと理解はしたけれど、嫌悪感は無かった。


『ッハァ…ッん、んん!?
ケホッ』


何かが口の中に押し込められて、衝動的にそれを飲み込んでしまった。
それが何かを確かめる前に、また唇が重なる。
息をするために唇を離しても、またすぐに塞がれる。
薄く、柔らかな唇に幾度も囚われ、噛みつく様なキスに必死で応えている自分が居た。


「クス…積極的だね。
我が怖くないのかい?」
『ハァ…べ、つに…積極的なんかじゃ…』


強がっているあたしの唇をまた塞ぐ。
酸素が足りないからか、それともこのキスに魅せられているのか、目の前が潤む。


「涙目だね…
苦しいの?
それとも…気持ち良いのかい?」


気持ち、良い…?
正直、キスすらした事のなかったあたしは、この襲い来る感覚の正体を理解できずにいた。


『わ…分かんない…』


プイ、と視線を背けた。


「ダメだよ、我を見なくちゃ」


顎を掴まれて、無理矢理目を会わせられる。
そこにある、酷く整った顔立ち。
何故こんなに格好良い人が、あたしを組敷いているのだろうか。

潤んだ瞳から、耐え切れずに涙が零れた。
それを、彼の優しい指が拭う。

一つ一つの仕種が、優しい。
不自然な所が多過ぎて、その与えられる優しさに戸惑うあたしの唇に、また温かな唇が重なった。


『ふ…ん…』


震える手で、彼の服の裾を掴む。


「随分可愛い事をするね」


そう囁いたと思ったら、きつく閉じた唇を舌先が割ってくる。
初めての感覚に驚いて、きつく裾を握る。
その手を優しく解かれ、そのまま指を絡められた。
彼の体温が直接伝わる。


『んんー…ッふ』


逃げない様に舌を絡ませられて、歯列をなぞり、時々舌を吸い上げる。
初めてのキスなのに、頭の芯が溶けてしまいそう。


「そろそろ効いてくる頃かな…」
『え…ッ…ハァ…あつ、い』


躯が熱い。
下腹部が疼いて仕方ない。
何、これ。

彼は薄く笑い、あたしの首筋を撫でた。


『んぅ…ッ』


躯が跳ねる。
彼の手はそのまま背中に周り、あたしの下着のホックを外した。
一気に開放的になる胸囲に、羞恥心が込み上げる。

彼はあたしの上着の中に手を入れ、誰にも見せた事ない、誰も触れた事のない胸の膨らみに触れた。


『ッや、やだ!』


羞恥心と、くすぐったさから首を振る。


「そんな抵抗で、我が止めると思うのかい?」


クス、と吐息が耳に吹きかかる。
彼の手を退けようとするが、手に力が入らない。

それを見て彼は口角を上げ、あたしの上着を一気にはぎ取ってしまった。
誰にも見せた事のない肌が露出される。
しかも、こんな赤の他人に。
会話すらした事の無い人に。

知っているとすれば、彼の名前と表情の読めない笑顔だけ。


「我の名前、知っているだろう?」


突然の質問に、あたしは何も言えずに赤い顔のまま彼を見上げた。


「呼んでご覧?
そしたら、早く終わらせてあげるよ」


この変な感覚から早く解放されるなら、それに越したことは無い。
あたしは震える口で彼の名前を呼んだ。


『ら…う…』
「聞こえないなァ」
『ッ劉…ッ』


力が入らない喉に、目一杯力を入れて彼の名前を呼んだ瞬間。
彼の細い指が、聖地とも言えるあたしの秘部に触れた。


『ッあ!やぁあ』


衝撃にも似るこの感覚に足が勝手に跳ねる。


「おやおや、淫乱だね」
『あ、ち、が!』
「でも、此処はこんなに濡れているよ?」


指をあたしの前に持ってきて、親指と人差し指を擦り合わせる。
彼の指に纏わり付く蜜…あたしが溢れさせているモノだと思うと、恥ずかしくてすぐに目を反らしてしまう。


『ッ嘘吐き…
すぐ終わらせてくれるって言ったのに』
「終わらせて良いのかい?
こうした行為は初めてだろう?
我は早いに越した事は無いけどね」
『…どういう…意味…?』


潤んだ瞳で見る彼は少し歪んでいた。


「今、分かるよ」
『え…ッあ、あ゙ああ゙ぁああぁぁ!!』


押し潰される様な圧迫感に、息が詰まる。


「薬のお陰で、痛くはないだろう?」
『く…ッすり…?』
「媚薬みたいなものだよ。
痛みすらも快感に変えてしまう、ね。
だから、ほら」


―バシンッ


『あ゙ッ』
「良い声…」


乾いた音と、衝撃。
覆い被さっている彼が、あたしの腰を叩いた。

彼は妖艶に微笑むと、繋がったままあたしを持ち上げ、反転させた。
その所為で、あたしはお尻を高く突き出した格好になる。


『や、だぁ…恥ずかし…ッ』
「でも、君のナカは我を締め付けているよ?」
『ッあ、動か…なッでぇ』


腰を打ちつけられて、その衝撃に眩暈がする。


「聞こえるかい?
この音」


グチュッズチュッ…パンパンッ


肉と肉がぶつかり合う音以外にも、湿った水音が聞こえる。


「君の蜜が、溢れて止まらないみたいだ」
『ああっ…いや…ああッ』


グッと奥まで腰を進められ、子宮を繋がっているソレの先端でグリグリと抉られる。
初めて受け入れたソレに、息が詰まる。
お腹の中がパンパンに膨らんで、あたしの内臓を突き上げる見たいに。


「ひくひくして、我に吸い付いて来るよ。
初めてなのに、こんなに感じている君は淫乱だね」
『違う…ッもん』
「何が違うんだい?
ほら、動けば君は啼くじゃないか」
『はぁあンッあ!』


再び律動が再開され、快感があたしを襲う。


「ほら、もっとお尻を上げないと叩いてあげないよ?」
『ッあん…た、たかないでぇッハァ…』


そんなあたしの意見等、訊きもせずに彼の手は容赦なくあたしのお尻を叩く。
その度に背中を反らせれば、上から降って来る笑い声とあたしを罵る言葉。


「快感を貪る人形みたいだね。
我のを美味しそうに咥えているよ」
『あ、ああんっ
ハァ…あッやあぁ』


その言葉一つ一つに、躯が敏感に反応する。
もうあたしの躯じゃ無いのではないか、というくらい、神経の全てを彼に支配されている。


「ッ…我はもう限界なんだけど…
君もそろそろ、溺れてみるかい?」
『え…?
ッああ!やあぁああ!!』


ガンガンと突き上げられ、目が霞む。
荒い息遣いと、滴り落ちる汗。


「さァ、#name1#。
快感の波に呑まれてご覧」
『ッああ!
何か、来るよォ…ッッ
やだやだ…ッああぁああ!!』


襲い来る"何か"に恐怖を抱いたけれど、彼があたしに与える"快感"の方が強くて。
彼の与える全ての刺激を受け入れて、あたしは唯啼いた。


「…ハァ…ハァ…ッ出る…ッ」
『ッああ、あぁああぁああ!!』


背中を大きく反らせ、白い首を曝け出した。
躯が大きく痙攣して、真っ白になった頭では幾つもの光が弾けた。

薄れゆく意識の中で見た物は、崩れるあたしをそっと支える大きな腕と、彼の優しい瞳。


この時あたしは自覚した。

ああ、この人が好きだったんだ、と。




我はずっと君を見ていた。
怒られながら、酷い扱いを受けながらも一生懸命に動いている君に、我は惹かれた。

栗色の長い髪、優しげな少し垂れた瞳。
絶えず弧を描く薄い唇に、我が触れたいと思い始めてからはもう遅かった。
彼女を良く見ていたからか、彼女の生活パターンも読めて来た。
そして家路も。
我ながらストーカー染みた行為だとは思ったけれど。
彼女の周囲の人間関係も知り、彼女の名前も家もつきとめた。
そしてついに、彼女の家路で、遭遇した。
彼女の後姿を見つけ、我は声を掛けようとしたけれど。

何て声を掛ければ良い?
どうしたら、彼女が手に入る?

どうしても、彼女を手に入れたかった。

我は彼女の背後に気配を消して忍び寄り、人間の意識のツボを手持ちの針で突いた。
一瞬で意識を失い、崩れ落ちた彼女を抱きとめて我は彼女を連れ去った。

犯罪だ、と責められても良い。
彼女が手に入るならば。

でも、彼女をこの腕に抱いて、彼女の温もりを知り、更にのめり込んでしまった。
本当は手放したくない。

しかし、約束は約束。
我の用が済んだら帰す、という。

だから我は、彼女を家にまで送り届けた。


我を見ない、我を嫌う彼女を一番近くに置くよりも。
我を見ない、我を嫌う彼女を一番遠くに置く方が。
ずっと近いような気がして。


だって、そうだろう?


手に入らないモノを傍に置くよりも。
手が届かないと知りながら、星に手を伸ばす方がよっぽど夢がある。

何時か、この手に掴んでやる、と。

傍にあったら、その夢すら朽ちてしまう。


我は、君を諦めない。
でもね、君が好きだからこそ、愛しているからこそ。

君との約束を果たすんだ。


…こんな気持ち、初めてだよ。
人を想うと、胸が苦しい。
初めての感触をくれた君に、今日は夢の中でお別れを。



さようなら。





『―…ッ』


ガバッと起き上れば、いきなり起きた反動で頭がクラクラする。
次第に目のピントが合い、周りの状況が見える。


『こ、此処は…』


あたしの家。
兄弟達は外に居るのか、家の中からは物音等一切しない。


さようなら。


あの言葉は何だったのか。
もう、あたしには会わない、というの。

あたしの体も…心も。
弄んで、それで終わり?


…でも、最後に見たあの人の顔…
あたしを呼ぶ声。
触れる指先、重なる唇。


あたしは痛む身体など気にもせず、走って会社にまで向かった。


「どうした、名前。
今日は休みじゃ無かったのか?」


何時もは遅刻や休んだりすると酷く怒る男が、今日は何時になく優しい。


『少し、忘れ物があって…』


それだけ言うと、そうか。とだけ呟いて去って行った。
機嫌が悪い時なんか、あたしの事を殴ったりするのに。
どうしたんだろう、と不思議に思いながらもあたしは"忘れ物"を捜す。


「―…です…
これが―…で、…なんですけど…」


少し先から声が聞こえる。


「―…ですから、これを今インド間での貿易に使っておりまして」


近付けば鮮明になる声。
そして―…


「我の会社でも、取り入れるとするよ」


あの人の声―…


『劉!』


あたしは廊下を走り、角から飛び出した。
目の前には、驚いた顔をした劉の姿。

この会社のお偉いさんは、あたしが無礼をした、と顔を顰めながら彼の様子を伺う。

でも、彼は―…




「おいで、名前」




優しげな微笑みを浮かべ、大きな両腕を広げて、あたしを誘う。
泣きそうな感情を抱きながら、あたしはその腕の中に飛び込んだ。



優しい瞳。
あたしを呼ぶ声。
触れる指先、重なる唇。


その全てが語っていたのは


「愛しているよ」


零れ落ちそうな程の愛。


『あたしも―…』


愛される、という初めての感触に包まれながら、あたしも生まれて初めて愛の言葉を口にする。


『愛してます』


抱かれた躯も
愛する心も
包まれた気持ちも


全部全部、初めての感触。






愛の感触を確かめて
--------------------
抱きしめて、温もりを感じて。


(劉においで、と言わせたかっただけ。)

11.08.29.11:25

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