yume-utsutsu..*

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次にキスするときは、




次にキスするときは、



木の葉の里にも、冬が訪れた。
服の繊維を通り抜け、肌を刺す風は冷たい。


「あ、カカシ先生っ
 任務終わったんですか?」


淡い桃色の髪を靡かせ、手を振るのは俺の教え子だったサクラ。
今じゃすっかり綱手姫の怪力を…
綱手姫の技術を自分の物にしている。
教え子の成長は、喜ばしいことだ。


「んー、さっきね」
「お疲れ様です、何でそんなに急いでるんですか?」


普段はのんびりと歩いている俺が珍しく走っているもんだから、サクラの目には奇妙に映ったのだろう。
俺はどうしたもんかと言い訳を考える。


「あ、先生今言い訳考えてるでしょ」
「いや、そんなことないよ」


図星をさされ、慌てて取り繕う。
サクラの目はまだ疑っていたけど、さすが女の子と言うかなんというか。


「今日、クリスマスですもんねっ」


そう言われて、俺が急ぐ理由も全部バレバレだということを悟った。


「そゆこと。
 サクラも来年こそは良い人見つけるよーに」


大きなお世話です、という声を背に、俺はまた駆け出した。


( 間に合うと良いんだけど )


俺は走るスピードを上げた。
坂道を駆け上がれば、目的の店。
閉店時間五分前。


シャッターが降りる前に、俺はその店に滑り込んだ。


「う、わっ
 カカシさん!?」
「いやァ…すいませんね、遅くなって」


店主はもう俺は来ないと思っていたのだろう。
其処に俺が現れたんだから、ま、驚くのも仕方ないでしょ。


「で、例のやつもらえますか」
「あ、はいはい」


店主は俺の言葉に頷くと、店の奥から綺麗に包装された小さなプレゼントを取り出した。


「有難うございます」


俺は礼を言って、受け取ったものを胸ポケットに入れ、その場を立ち去った。


「どうにもまずいね…」


木の葉の里の冬は寒い。
今年は大寒波らしく、雪が降りそうな空は、厚い雲で覆われて。
この寒い中、俺はまた同じ過ちを起こす。


約束の時刻は、夜六時。
今の時刻は、夜の八時半。

つまりは、そういうこと。

脳裏に浮かぶのは、二つのパターン。


呆れて帰っているか、


( 般若みたいに怒ってるか… )



木と木を渡り、枝を揺らし。
約束の場所から、十メートル。




『あのモミの木の下でね』





そう言ったのは、あの日モミの木の下で俺の恋人になった名前。
名前は忍者ではない。
団子屋の看板娘で、その愛くるしい姿は普段あまり甘味処に行くことのない俺の耳に入るほどだった。

きっかけは単純だった。


『大変、材料が切れるなんて…っ』


そう独り言をつぶやきながら、急いで俺の真横を通り過ぎて行った女の子が居た。
その子が団子屋の娘だということは、すぐに分かったが、なんとなくその後ろ姿を見ていた。
危なっかしい走り方をしてるもんだから、転ぶだろうな、と予想していると、案の定…


『ッきゃ』


彼女は段差で躓いて、転びそうになった。
俺は手を伸ばして、彼女の細い腕を掴んだ。


「…言わんこっちゃない」
『ッ…え?』


痛みを覚悟してか、固く瞑っていた瞳をゆっくりと開けた彼女。
その大きく、薄茶色の瞳に俺は一瞬、吸いこまれたような錯覚を覚えた。


「…ちゃんと足元見なさいよ」


そう注意して、彼女の腕を離す。
そのままその場を立ち去ろうとしたが、


『…そんな…』


と、落胆した声が聞こえて、振り返った。
どうやら、躓いた拍子に下駄の鼻緒が切れてしまったようだ。


「全く、仕方ないね。
 人助けは趣味じゃないんだけど」


見て見ぬふりは後味が悪い、と言って彼女を抱きあげた。
羞恥心から、下ろしてくれと懇願する彼女を無視して、家まで送り届けた。






面倒くさい輩に絡まれているところを、助けたりもした。


『やめてください』


きっぱりという、凛とした声が俺の鼓膜を揺らす。


「良いじゃねェか、少しくらい」
「団子屋の看板娘だろ、アンタ」
「やっぱり近くで見ても可愛いねぇ」


大の男、三人に囲まれても依然として気丈に振る舞う彼女。


「なんだ、コラ。
 優しくしてれば付け上がりやがって」


そう言って男の腕が彼女の腕を捕えた。


「はい、ストーップ」


俺は男の腕の中から彼女を奪う形で腕の中に収めた。


「あァ?なんだ、お前は」


彼女の腕を掴んでいた男が、今度は俺に掴みかかろうとする。
しかし、一緒にいた男の恐怖に慄いた表情を見て、男は止まった。


「おい、どうした?」
「あ、あんたは…写輪眼の…!」
「写輪眼って、あの…?」


俺に腕を伸ばしかけていた男は、慌てて俺から離れた。


「す、すみませんでしたぁ!」


男たちは慌てて走り去る。
こういうとき、俺の通り名って役に立つねェ。


『あ、あの…』


俺の腕の中で、遠慮がちに聞こえた声に俺は慌てて腕の力を緩めた。


『あ、有難うございました』


彼女はペコリ、と頭を下げた。
重力に従って下がる栗色の髪が、綺麗だと思った。


「ん、いいのいいの。
 もう遅いから、女の子の独り歩きは感心しないよ」


そう言って俺は彼女を家まで送った。


『あの、写輪眼の…はたけカカシさん…ですよね』
「ん?まぁ、そうなるね」
『私、団子屋の…』
「名前ちゃん、でしょ」


彼女は自分の名前を知っていることに驚き、大きな目を更に開いた。


「有名だよ、君の名前」
『そうなんですか?』


他愛のない話をする内に、照れると髪を耳にかける仕草、はにかむ表情、その全てに惹かれていった。





もう四年も前のことだけど、昨日のように思い出せる。
それは、名前の表情や性格が、四年前と何一つ変わっていないからだろう。



『カカシ、知ってる?
 ヤドリギの下ではキスして良いんだって』
「…逆に、何処だとダメなの」


それもそうね、と微笑む彼女のうなじを、春の風が抜けていく。


『この里に、ヤドリギってあるのかしら』


木の葉の里、というだけあって、この里は木々が多い。
俺たちが今いるこの場所も、沢山の木々に囲まれて森のようになっている。


「…探せばあるでしょ」


じゃあ、今度一緒に探そう。そう無邪気に笑った名前は、まるで宝探しをするみたいな笑顔だった。


「…じゃあ、ヤドリギを見つけたら俺は名前にキスしても良い?」
『…え?』


俺は読んでいたイチャイチャパラダイスを閉じ、名前に視線を向けた。


「え、そういうことでしょ?」
『何でそういう流れになったの』


驚きと照れが混ざって、赤面しているくせに少し怒っている口調。
そんな表情もするんだね、なんて笑ったら、バカじゃないの、と怒られた。


「俺は名前にキスしたいよ」


サラッと言うと、名前は一瞬で耳まで赤くした。


『な、何バカなこと言ってるのよ。
 からかうのもいい加減にして』


そう言ってそっぽ向く名前。
赤くなった耳が見えるから、怒っているのではなく照れているだけだと分かっているけど。

俺の気持ちを冗談として流されるのは、面白くない。

俺は静かに音も立てずに立ち上がり、名前の真後ろに立つと、そっと名前を包み込んだ。


『ッカカシ?!』


慌てて俺を振り解こうとする名前。
しかし、俺の腕がそれを許さない。


「俺は真剣に言ってんの」
『カカシ…?』


俺のいつになく真剣な声に、名前は暴れるのをやめた。


「俺は、名前のことが好きだよ。
 ヤドリギの下じゃなくてもキスしたいくらいには、ね」


其処まで言うと、俺は名前を離した。


「で、俺と今ここでキスする気になった?」


おどけた調子で言えば、名前は照れ臭そうに笑った。


『バカ』


俺はその言葉を肯定と受け取り、名前の薄い肩を抱いてそっと唇を重ねた。









あの時のモミの木の下には、寒そうに震える姿。
短い栗色の髪の向こうにある、白い肌。
長い前髪の奥にある、茶色の瞳。

彼女の吐息は白く、ふわふわと宙を漂う。
重たい空を見上げて、溜息を吐くその姿。


( 参ったね… )


俺の悪い癖が、出てきた。
俺が来るのを、今か今かと待ち、俺が来るであろう方向に視線をやる。



『今日の遅刻の理由は?』
「道に迷っー…」
『道に迷った、忘れ物をしたはナシ』
「……寝坊しちゃったんだよネ」


言い訳を並べる俺に、カカシのバカ。と頬を膨らませる。



君を何度、待たせただろう。
何度、君とこのやり取りをしただろう。

麗らかな、春の日差しの中。
夏の照りつける日差しの中。
止む気配のない、雨の中。
木枯らしが首筋を掠める中。


そして、雪の降りそうな寒空の下で。


君は何時も、何時までも。
俺を待ってくれていた。


君を待たせるのが、好きだった。


理由なんか、単純だ。
君が好きだから。


枝の隙間から彼女を見つめていると、不意に彼女が上を向いた。

俺も釣られるように、上を見る。


( あらら、これはいけないね )


ふわり、ふわりと、舞い落ちてくるのは雪。
白い綿。

俺はすぐに他の木へと飛び移った。


『…カカシのバカ…』
「いやァ、ごもっとも」


彼女の後ろからそう答えれば、バッと振り返る。

その、大きな瞳には、光る涙…


「え、名前…?」


般若のように怒るか、呆れられるか、は予想していた。
彼女の涙は、予想していなかった。


「ど、どうしたn―…っと」


俺の言葉を遮る様に、名前は俺の腕の中に飛び込んできた。
それを抱きとめると、腕の中で名前が小さく震えていた。


『カカシのバカ。
 なんで遅刻するのよ』
「…任務が長引いちゃって」


俺の言い訳に、嘘つき。と腕の中で漏らす。


『…心配してたの。
 今日の任務は少し厳しいかもって…火影様から聞いて』
( 全く、綱手姫はまた余計な事を… )


小刻みに震える肩を、俺は優しく抱いた。


「ごめーんね、心配させて」
『…今日くらい、遅刻した本当の理由教えてほしいんだけど』


潤んだ瞳で上目遣い。
それされたら、白状するしかないじゃないの。

俺は名前をぎゅっと抱きしめたまま、渋々白状した。


「実は毎回ね、少し遠くから俺のこと待ってる名前のこと見てるんだよね」


眉間に皺を寄せて、怪訝そうな顔を見せる名前。


『何でそんなこと…』


まぁ、分からないのも無理ない。
俺の行動は何時だって謎だらけだって、前にも言われたし。


「誰か待っている時って、その人のことで頭の中いっぱいでしょ?」


今、どこに居るんだろうか
あとどのくらいで着くのだろうか。
どんな服を着て、どんな髪型で。
自分を見つけたら、何て声をかけてくるだろうか。
姿が見えた時、手を振ったら返してくれるだろうか。


「つまりは、そういうこと」
『? どういうこと?』
「皆まで言わせる気?
 名前って結構鬼畜だね」


クス、と小さく笑えば、名前は尚更不思議そうな顔で俺を見遣る。


「全く、困ったお姫さんだね」


そう言って名前をもう一度強く抱きしめた。


「名前の頭の中、俺一色にしたいの。
 だからつい、待たせちゃうんだよね」


俺の腕の中で、名前が照れているのが分かる。
パッと腕を離せば、ほら。
耳まで赤くした、照れた表情。


「はい、メリークリスマス」


俺は照れている名前にプレゼントを渡した。


『え、これ…』


リボンのついたそれを受けたった名前は、その場で包装を開けた。
中に入っていたのは、鍵。
小さな鍵。


「そゆこと」


名前の瞳は、今にも零れそうなくらいの涙が溜まっていた。


「俺と一緒に暮らそう。
 名前の不安が、一つでもなくなるように。
 俺が帰る場所には、名前に居て欲しいしね」
『カカシ…』


俺はマスクをゆっくりと下げた。


「ヤドリギじゃないけど、良い?」


一応聞けば、照れ臭そうに笑って、


『次は絶対、ヤドリギの下でしてよね』


と言って、俺の首に両腕を巻き付けた。
俺は名前の腰に手を回して、唇を重ねた。


今度こそ、ヤドリギを探しに行こう。
そう約束した俺たちの上から、静かに白い雪が降り注いでいた。




Merry Christmas...



次にキスするときは、
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ヤドリギの下で、ね。


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(カカシさん初めて書いた)

12.12.24.00:00

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