甘い風船







『おい、タマムシ』
「…なんショ」
『眩しい』


私の前には、タマムシがいる。
しかも喋るし、手足は異様に長い。
ムツゴロウさんでもちょっと引くような、タマムシがいる。

前の席で机に突っ伏すタマムシは、窓から差し込む夏の日差しを反射するから、真後ろにいる私の目を直で攻撃してくる。
これがかなりやっかいで。
出不精な私が夏に顔ばかり日焼けしたのは、絶対にタマムシの所為。


「…不可抗力ショ」


気怠そうに喋るタマムシは、目尻も眉尻もこれでもかと下げる。


『いや、カーテン閉めるとかさー。気遣いってあるじゃん?見て、ほら。私顔ばっかり日焼けしてんの』


そう言って私は全く日焼けしていない真っ白な腕と、赤みの差した頬を指差して見せる。


「あー、本当だな」
『え、それだけ?』


私の顔と腕を見比べて、興味なさそうに口元を歪めるタマムシ。
口角が下がりまくったその表情は、見慣れたとはいえ心の端っこをイラっとさせる。


「いや、みょうじが日焼けしようが俺には関係ないっショ」
『ちょ、酷い。タマムシ酷い』
「俺をタマムシ呼ばわりする方が酷いショ」
『私は良いのよ。棚にあげるのは得意だから』


タマムシは呆れたように、はいはい、と肩を竦めながらもカーテンを物凄く自然に、静かに閉めた。

タマムシはなんだかんだ言って、優しい。
勉強が苦手な私が1番苦手な数学で当てられた時は、私に見えるようにノートに大きく答えを書いて、机の端っこに寄せてくれる。


『なんで見せてくれたの?』
「…みょうじが勝手に見ただけショ」
『…ありがと』



小さな優しさは、ずっと傍にあった。
高校入学して、すぐのこと。
同じ中学から進学している友人が誰もいなかった私。
そんな私の都合なんてお構いなしに、私のクラスは同じ中学から上がってきている人たちばかりで。

私のアウェー感は増すばかり。





「『…幸先悪いにも程があるッショ』」


全く同じタイミングで一言一句違わずに。
違和感がないほど同じ速さで重なり合った言葉。

誰かと同時に喋っているなんて、気づかないくらいの驚異のシンクロ率で、初々しさの溢れる教室の中で溶けていった。

その声の主は、


「『ん?』」


振り向いた、タマムシ色の髪。


「…あー、その、何だ」


タマムシ色の彼は、面倒くさそうな気怠そうな表情で自身の頭を掻いた。


「よろしくショ」
『はァ…、ども。みょうじッス』


細長い手を私に差し出すタマムシ。
私も釣られるように手を出した。
その手は少しひんやりしていたのを、今でも覚えている。






あの日からタマムシは何故かいつも傍にいる。

どうやら自転車競技部に所属しているらしく、放課後は早々と教室から出て行く。
朝は朝練が終わるとやはり気怠そうに机に突っ伏すタマムシが、誰もいない教室にいる。

まるで私を待っていたかのように、私が教室に入ると起き上がって。
その垂れ下がった目で私を見遣る。



「…おはよう」
『うん、おはよう』



自転車競技部の他のクラスの人たちは、まだ部室にいたり。
あの大きい人とメガネの人は廊下で話してたりするのに。

ねェ、なんで?
その一言は聞けずに、もう三年。

でも、なんとなく分かる。
うすら優しいこのタマムシ男は、教室で私が一人さみしい思いをしないよういに。とか。
そんなくさいコト考えてるんだろうなァ、って。

まァ、それはただの私の妄想でしかないんだけど。


部活中のタマムシを見ていても良いんだけど、



「おま、ぜってぇ見に来るなショ!」



と、物凄い形相で言われたので、バカ正直にそれを守っている。
…本当は、あそこまで必死に隠されると見たくなるのが人間の性だけれど。

好奇心で見に行って、タマムシに嫌われたら…。
そう考えてしまうと、そんなハイリスクなことはしたくなかったのが本音。


何の因果関係か知らないけれど、三年間同じクラスで。
しかも位置関係は違えど、この三年間で行った席替え全て、私はタマムシの後ろの席。

三年間、私はタマムシの後ろ姿を見続けている。
そのタマムシ色の髪はどんどん伸びて、今や腰に届きそうなくらい長い。

…その髪に、触れたい。と思っているのも事実で。
この三年間、タマムシの後ろ姿をしっているのは私だけだということが、嬉しくてたまらないのも事実で。

それを、タマムシに言えずにいる私が、唯の臆病者なのも事実で。

臆病者の私は、タマムシを名前で呼んだことすらない。



『タマムシ』
「…俺の名前はタマムシじゃないショ」
『じゃあ、その髪色変えてきたら名前で呼ぶ』
「本当に変えてきても、どうせ俺をタマムシって呼ぶだろ…」



バカにしたような、見透かしたような。
うすら笑いを浮かべるタマムシを、軽く小突いたのは一年生の夏。



「…怪我。隠しても無駄ショ」
『怪我なんてしてない』
「俺にはお見通しなんだよ」
『ちょ、タマムs―…』
「良いから、黙って掴まっとくッショ」



体育祭の練習で、柄にもなく張り切って捻挫した右足。
庇って歩く私を、軽々抱き抱えた真剣な顔に少しドキッとしたのは一年生の秋。




「またどうして、寒がりなのにそんな薄着してるんショ」
『…寒くなんてないさね』
「嘘」
『う、わ…ッ』



マフラーを忘れて、露わになった私の首に自身のマフラーをかけてくれた。
一瞬でタマムシの匂いに包まれて、自分の気持ちに気づいたのが一年の冬。


そんな何気ない一日一日。
毎日が同じ24時間なのに。

日に日に、私の中で風船みたいに膨らんでいくのはタマムシが好きだって。
甘い甘い気持ち。


甘い気持ちは増えていくばかりで、でも吐き出せなくて。
風船はいつしか割れてしまうというのに。


三年分の想いは、吐き出すには大きすぎて。
きっと、一言じゃ吐き出しきれなくて。

そんな言い訳をしながら、私は甘い風船を大事に抱えている。






『…今年中に、言えるかな』


授業も終わって休み時間。

青い青い夏の空に向かって。
珍しく本人不在の前席のアイツを想ってつぶやいてみた。



「何を?」
『ぅ、ひゃぅ!』
「クハッ、何その変な反応」


独特な笑い方で私を見下ろすタマムシ。
その右手には、私の好きなカルピスと、タマムシの好きなポカリスエット。

タマムシは何も言わずに、当たり前みたいにカルピスを私に差し出す。
そして今日も変わらず、何をするわけでもなく自席に着くと、窓際の壁に背を向けて右肘だけ私の机に乗せる。

私も特に何も言わずに、タマムシに渡された小さいペットボトルの蓋を開けようと試みる。
二、三回力を込めたところで、タマムシの細い指が伸びてきた。


「貸せ」
『…い、や』


いつもなら素直に差し出すペットボトルを、私はタマムシを避けるように自分に引き寄せた。


「あと5秒で開けられなかったら、奪う」
『くっ…!』


タマムシがタイムリミットを告げた瞬間、私の頭の中ではマリオが軽快に走り出してBGMは二倍速になった。


「ニィ…、イチ。ゲームオーバー」
『くそゥ…!』


タマムシが私の手からするりと濡れた缶を取り上げた。
私の手のひらには、缶の水滴と冷たい温度だけが取り残されていた。


「ほらよ」
『ひ、あ…』


ぴと、と冷たい缶を頬に当てられて、ビクッと肩が震える。
そんな私の反応を見て、タマムシは至極楽しそうに笑った。


「クハッ…お前、さっきから反応面白ェ」


垂れた目尻を、くしゃッとさせて笑うその顔が、好きだなぁ…なんて思った夏の日。
不意に、タマムシの携帯が震えた。

その携帯の液晶に映し出された名前を見て、タマムシは小さく舌打ちをした。


( また、トウドウ君かな? )


良く名前を聞く" トウドウ君 "。
タマムシ曰く、永遠のライバルだそうな。

私は一度も運動部に属したことがないからわからないけれど、やっぱり何度も何度も色々な大会で顔を合わせるような人に、変な情が沸くらしい。

いつもなら着席したまま通話を開始し、電話口の向こうから、「巻ちゃ―――ん!」なんて声が聞こえてくる。
けれど、タマムシはなぜか席を立って、電話を耳に当てながら教室の外へと出て行ってしまった。


( 珍しい… )


教室から出て行くタマムシの後ろ姿を何の気なしに見つめていると、その姿が遠くに行ってしまうような気がして。
胸の内に寂しさや不安といった、負の感情がこみ上げてくるのが分かった。


「ふぅむ…、あれは女ですかな」
『ッ…びす汰!』


タマムシの後ろ姿に夢中で、基。ボーッとしていて、びす汰が私の机に顎を乗せているのに全く気がつかなかった。
タマムシと私の席の間にしゃがんだびす汰は、私の角度からだと完全に生首状態。

その顔が、にやり。と意味深に笑うもんだから小気味悪い。


『な、何』
「いやなんの。なまえサンが憂い気な顔で巻島くんの後ろ姿を見つめているもんだから、からかいにきただけさ」
『タチ悪』


私のイヤミも、褒め言葉だと言わんばかりに軽く笑って流すびす汰。



「いつもはなまえの目の前でも電話に出る、或いは出ない。そんな巻島くんが思いつめたような顔で教室から出て行く。…何かありそうですなァ」


人差し指と親指を伸ばしたバキューンポーズを顎の下に添える。
さながら、探偵のようなポーズを取ったびす汰の言葉に、心が震える。


『…考えすぎよ』


自分に言い聞かせたのか、自分の推理に酔いしれているびす汰に言ったのか、自分でも分からない言葉を吐いて、私は席を立った。


「おや、どこへ?」
『もうすぐ授業だから、タマムシ呼んでくる』
「…素直じゃないんだから」


びす汰の言葉に、ぎゅっと自分でも眉間に皺が寄るのを感じた。

そう、予鈴が鳴ればタマムシは自分で戻ってくる。
本当の虫じゃあないんだし、自分の教室も、次が授業だっていうのも分かってる。

なのに私はタマムシを追って教室を出た。
本当はタマムシの電話の相手が気になるとか、何を話しているのか、気になっているのに。
授業を口実にタマムシを追いかけるなんて、私も大概素直じゃないし幼稚だと思う。


廊下を何となく歩いていると、タマムシの声がうっすらと聞こえた。
角を曲がったところにいる、と確信した私は、驚かせてやろうと足音を消した。

いざ、タマムシの声が鮮明になったところで、私は笑みを携えながら角から飛び出した。


『タマ―…』
「あァ、インターハイが終わったらちゃんとイギリスに行く」


私が見たのは、タマムシの後ろ姿だったけれど。
その声は聞いたこともないくらい、真剣で、低くて。

知らない人の声みたいだった。

聞いたことない声だったからか。
タマムシが言った言葉が鮮明に脳裏に焼き付いて、離れない。


私は、タマムシが振り返る前に駆け出していた。



「あァ、インターハイが終わったらちゃんとイギリスに行く」



イギリス?イギリスって何。
フィッシュアンドチップス?
ハリーポッター?

ねェ、私の知ってるイギリスって、すごく遠いところにあるんだけど。



―バァン…ッ



屋上の扉を勢いよく開けたところで、予鈴が聞こえた。
よく授業をサボるシーンが漫画やドラマであるけれど、保健室にいたり具合が悪くて早退したりする場合でさえ、担当教師に連絡をしなくちゃいけない。
あんな黙ってサボったら、下手したら警察騒ぎ。

でも、そんなの知ったこっちゃない。
今、教室になんて戻りたくない。

席に着けば、いつもと変わらずに目の前にはタマムシ色が日差しを反射してきて。
黒板には呪文みたいな数式が並んで、教師の声に眠くなって。

あっという間に50分は終わって、タマムシが私の方を振り向いて、今の授業寝てたショ。なんて笑うんだ。


でも、それもこの夏まで。
タマムシっぽくない声の所為で、現実味を帯びない「イギリス」という単語。

でも、鼓動は早鐘を打つし、呼吸がしづらくて頭が痛い。
この恐怖にも似た焦りは、十分現実味を帯びているのに。

どうしてなんで、信じたくないという気持ちが勝って、脳はあの声はタマムシじゃないかもしれない。なんて妄想までし始める。


『…好きって、伝えてもいないのに』


あの時感じた、タマムシが遠くへ行ってしまうかもしれないという予感が、こんな形で的中してしまうなんて。
嬉しくもなんともない。


屋上のフェンスの網目に、申し訳程度に指先を引っ掛ける。
本鈴も鳴って、誰もいないグラウンドを見つめていると、背後で重たい扉が開く音がした。
その音に振り向くと、相変わらず怠そうに猫背で立つタマムシの姿。


「―…授業、休むって言っといたショ」


いつも通りの声に、いささか安堵する。
そして、これで警察沙汰にならないですむ、という安堵も同時にやってきた。


「さっきの話、聞いたのか」


少しだけ低くなったタマムシの声に、嫌でも肩が小さく跳ねる。
タマムシの言葉に、私は誤魔化すように笑った。


『何のこと?』


それだけ搾り出すように言うと、今度は目頭がツンと痛くなった。
あァ…ダメだ。涙が出ちゃう。
慌ててタマムシから視線を外して、再び誰もいないグラウンドを見下ろした。

すると、

カシャン…、と軽い音をたててフェンスが揺れた。
振り向くと、私を後ろから覆うように立つタマムシの姿。

僅か10センチの距離に心臓が抉られたように痛む。
タマムシの匂いが鼻腔を擽り、長い髪から香るシャンプーの匂いに包まれた。

吐息でさえ感じ取れるほどの近すぎる距離に、耳の先まで熱くなるのを感じた。
赤くなっているであろう顔を見られたくなくて、フェンスを握り締めながら目をきつく瞑った。


「―…お前があの話を聞いたと前提して、こうして逃げるように屋上にいるってことは…、」


タマムシは一旦言葉を切ると、私の手首を掴んで無理矢理振り向かされた。
鼻先が触れてしまいそうなくらいの距離。
タマムシの瞳の中に、泣きそうな、でも恥ずかしそうな、随分間抜けな顔をした女の子が映っていた。


「俺に居なくなって欲しくないって、自惚れても良いってことか?」


図星の中の図星、図星 in 図星を刺されて、顔から火が出るくらい恥ずかしくなった。
でも両手首を掴まれてフェンスに体を押し付けられた状態では、この羞恥心から逃れる術が見つからない。


大事に大事にしてきたの。
この甘い甘い風船が。

割れてしまわないように、萎んでしまわないように。
それでも、あんたには気付かれてしまわないように。

でも、気付かれずに三年間膨らみ続けた風船は大きくなりすぎて。
その表面はこれでもかというくらい伸びきってしまっていて。

いつ割れてもおかしくないくらい、大きくなってしまった。


タマムシのイギリス行きという名の針でつつかれたら、ひとたまりもないくらい。

膨らみきってしまった風船の、仕舞い方を忘れてしまったの。
だから、そうね。

私にできるのはこの風船を、空に放ってあげることくらい。


『―…、一年の時。やっぱりアンタは私の前に座っていて。私によろしくって笑ったの』


私が話し始めると、タマムシはゆっくりと私の手首を解放した。


『アンタをタマムシって呼ぶ私を、バカにしたように笑ったのは一年の夏。捻挫した私を抱き抱えたのはその年の秋』


いつの間にか瞳には涙の膜が張られていて。
今にも溢れそうな涙を堪えると、必然的に声が震えてしまう。

私はぎゅっと強く拳を握り締めて、タマムシを見上げた。
瞳に溜まった涙は完全にキャパオーバーで、呆気なく頬を転がった。


『アンタが好きだって、気づいたのはマフラーを貸してくれたあの冬の日!』


私の涙は予想外だったらしく、目を見開いて私を見つめるタマムシ。
その視線から逃れるべく、私は視線を斜め下に落とした。


『アンタのことが好きすぎて、名前ですら呼べないのよ。笑っちゃうでしょ』


自嘲気味に笑うと、私の強ばった体はタマムシの腕の中に仕舞われた。
細い体。下手したら…いや、下手しなくても私なんかよりも細い腰。

でも、薄い夏服の下に感じるのは、鍛えられた筋肉の感触。
三年間、知ることもなかったタマムシの体温は、夏の炎天下だと暑すぎる。


「笑わない…笑う訳ないショ」


心なしか、タマムシの声も震えているような気がした。


「授業中、後ろから聞こえるみょうじの寝息も、授業が終わって寝ぼけ眼擦る表情も、」


寝息って、おい嘘だろ。と三年間知らされなかった事実が違う意味で心を抉る。


「捻挫を隠す負けず嫌いなところも、寒がりなところも全部、俺しか知らないことが嬉しくて」


ぎゅっと、私を抱きしめる力を強くなった。
私の肩に額を乗せると、より一層タマムシの香りが強くなった。


「俺以外に見せたくなって思ってる俺の方がよっぽど、格好悪いッショ」


はぁ、と溜息を吐いて漸くタマムシから解放された。
すぐにタマムシの顔を見上げると、首まで赤くしたタマムシが気まずそうに笑っていた。


「…残念ながら、イギリスに行くのは本当だ」
『…ッ』


タマムシはゆっくりと説明してくれた。
私の頭が混乱しないよう、丁寧に。

単位を前倒しして9月から向こうの大学に通うこと、
向こうにいるお兄さんを手伝うこと、

タマムシが丁寧に説明すればするほど、イギリス行きに現実という色がついて鮮明になっていく。
あァ、もう決まったことなんだって。
私が何を言っても無駄なんだって悟った。


「…一生会えない訳じゃない」
『…え?』
「俺だってこっちにはちょいちょい帰ってくるつもりだし、一生イギリスに住むつもりもない」


タマムシは私の顎を掴んで強制的に上を向かせると、人の意思も確認せずに私の唇を当たり前にように奪っていった。


「ここで俺らが付き合っても、何の問題もないショ」


ふふん、と不敵に笑ったタマムシに、なんだか呆れて笑ってしまった。


『そうだね。私だって英語は得意なの。高校を普通に卒業してからアンタを追いかけて、イギリスに行くことだってできるんだから』


負けじと不敵に笑えば、クハッとタマムシらしい笑い声が返ってくる。


「やっぱお前には敵わねぇショ」


この夏が終わったら、私の焼けた肌は白く戻る。
私の前の席には日差しを反射するタマムシはいなくなって、カルピスを買ってきてくれることもなくなる。
黒板に並ぶ数式は変わらず私を眠りに誘い、アンタと喋って過ごした休み時間は、私は英和辞書と睨めっこする。


『すぐ、追いかけるから』
「追われるのなんて、自転車乗りには日常茶飯事ショ」


みょうじのことなら、いくらでも待つショ。なんて笑うもんだから、私はアンタに敵わない。って心の中で呟いた。


私の中の甘い風船は、割ることも萎むこともなく。
大空を漂って、好きな人の元に届いた。

それを奇跡って人は言うけれど、一歩踏み出す勇気を持って。
風船を放った人の元にしか、結果はやってこないだけだと思う。


なんて。
やっぱりまだ、タマムシを名前で呼べない世界で一番の臆病者が語ってみる。





甘い風船


16 09/13






 

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