第十八章:居場所









せやから嫌やったんや
お気に入りの玩具より
ずっと、儚いから―…








「ッ射殺せ・神鎗…ッ」


蠢く虚達を切り裂く。
血の匂いを嗅ぎつけてか、巨大虚も、虚も、何処からか集まって来よった。
それ諸共、ボクが切り裂く。

周りに居るのは、敵。
大切な人を奪った、仇。


でも、何よりも許せへんかったのは自分自身。


護れへんかった
大切な人の明日を

大切な人の人生の中に
居たかった。

大切な人の居場所になりたかった


護れへんかった
護れへんかった


悔しい
悔しい。

憎い……


「ッハァ…ハァ…」


何体殺したか。
ボクの体からは、咽返る様な血の匂い。
羽織は完全に紅に染まり、銀色の髪も紅く染まった。

辺り一面、ボクの眼の色。
あの日の情景を思い出す。



月明りに、光る刃。
刃先からは血が滴り落ちる。

飛沫が上がる。
それは他でも無く、彼の。

銀色の輝きと、紅色は
月の光と刃の輝き
飛沫を上げた血の色……



「ぅ、え…ッ」


胃がせり上がる。
生理的に涙が出て来る。


雨よ、降れ。
この匂いを
思い出を

全て、流し去ってくれ。

この惨劇の幕を
雨で濡らして、閉じて―……
雨が降ってきた







「各隊、四番隊要請、残りの虚の討伐、生存者の有無に当たれ」

『はっ!!』


六番隊長さんの、凛とした声が血の海に響く。
ああ、援護や。

そう思うたのは、頭の片隅でだけ。
何処か遠くの国の出来事みたいに、ボクにとったら他人事で。

すっかり冷たくなった大切な人を、ボクの腕に抱え込む。
この人が居た、という事実までも忘れへん様に。
雨に流されてしまわへん様に。

優しい瞳を
優しい声を
優しい
優しい

ボクの大切な人。



―…ザッ…



背後で足音が聞こえた。
この霊圧は……



「―…ボクん事、笑いに来たん?
大切な人…護れへんかったボクを?
なァ……なまえちゃん」


振り向かずとも解る、ずっとこの腕に抱いてきた人やから。
自嘲気味に吐き捨てれば、彼女は一歩、ボクに近付いた。


『…どう?
帰る場所を失った気持ちは』


綺麗な声が、鼓膜を揺らす。


『どう?
大切な人が目の前で消えた気分は』


また一歩、ボクに近付く。



『どう?
大切な人の明日を奪われた気分は』



そして、とうとうボクの真後ろにまでやって来た。
項垂れたままのボク。
彼女の気配が、ボクの背中のすぐ向こうに感じる。


『……どう?

殺されてしまった時の
憎しみは』



彼女はボクの後ろで膝を付き、ボクを優しく包み込んだ。


『……これからは…
あたしが貴方の居場所になってあげる』


背中に温もりを感じた。
それはそれは優しい温もりを。


「ッ……」


ボクは、項垂れ、彼女の細い腕に額を乗せた。
彼女の優しさに顔を埋めて泣いた。

重力に逆らわず、涙は冷たいイヅルの頬に落ちた。

全てを赦された気がした
全てから解放された気がした

優しい腕の中で
ボクは唯、子供の様に泣いた。






第十八章:居場所
--------------------
君の前では、子どもになれた


(全てを受け入れてくれるから)





 

[back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -