第十七章:終末の合図


















言葉は取り消す事が出来ひん。
ボクの唇から零れ堕ちて
空気を震わせて、消えて行く。
そう、それが
歪んだ愛の言葉でも。










「主、夕食の準備が……」


田中が何か言うてる。
ボクの言葉を僅かに揺らす。
その声が、脳に届く事は無い。




= 貴方が憎い =




…なして、言うてしもたのか。
彼女のあの言葉が、酷く胸に刺さる。


ボクの愛は
ボクの感情は
何処で間違ォてしもたのか。

疑問は次々と浮かんでは消えて行く。


愛は想い
愛は思い出


愛は―…
























居 場 所
















拒否され、掴み損ねた居場所。
ああ、また。
居場所が出来ひんかった。





「―……では、各自グループに分かれて。
これより、西流魂街での演習を始めます」
「吉良副隊長、市丸隊長は?」
「―……隊長は……
市丸隊長は、病欠だよ…」



空は曇天。
嫌な風が吹く。




( ―……隊長… )







イヅル達が演習しとる西流魂街から、東に70離れた原野。
其処にそびえる、一本の太い幹の根元に腰かける。


= 貴方が憎い =



憎い 憎い
黒い黒い想いと言葉
振り払われた手
君は、もう居てへん。


「―…なまえ…」



見上げた空は灰色の曇天。
それはそれは、ボクの気持ちの様に、重く暗く。




―…ッピーッピーッ!!





「!?」





懐で震えた、伝令神機。
これは、終末の合図……











そう、鳴り響いたのは
終末の合図。


「ハァ…ハァ…ッ」



= 十二番隊より報告!! =



「ッハァ…ッ…ハァ…」



= 西流魂街に
大虚の群れが出現!! =



「…ッ…イヅル…ッハァ…」



= 六番隊が援護に
向かうまで持ち堪えよ =



「イヅル…ッ」




―ザッ…




「ハァ…ハァ…」




瞬歩を乱用し、辿り着いたのは血の海と化した原野。
蠢く二十体もの大虚。
その中に見えたのは、朱色に染まった金色…


「イ……イヅル…!!」


蠢く大虚に弾き飛ばされたのか、イヅルだけ、大虚の群れから離れた場所に倒れとった。
イヅルの傍に駆け寄ると、辛うじて呼吸をしているのが分かった、
しかし、それは最早虫の息やった。


「イヅル…イヅルッ」
「ッヒュー……ヒュー…ッ隊…長…?」
「イヅル!!喋りなや…ッ」


イヅルの瞳は光を失っていて、ボクの声が聞こえているかどうかも、不確かやった。


「隊ちょ……は…
此処に…ッ居…も…良いん…す…よッ…ヒュッ…」
「良えから、喋ったらあかん」


ボクの制止等お構いなしに、イヅルは続ける。
無理矢理言葉を吐き出す姿。
きっとイヅル自身、自分の命が終わる事を解っているんやと思う。
せやからこそ、その言葉を聞きたくない。
イヅルの話しを黙って聞いていたら、イヅルの死を認めてしまったも同然やから。


「ッ僕が…居な…ッても…ッヒュ…
仕事……し…下さ…ね?」
「そないな事言わんといて…
お願いやから…
ボク、イヅルが居てへんとあかんのや。
知っとるやろ?」


イヅルは、ボクの言葉を聞きとったのか。
はたまた、最後の力を振り絞っただけなのか。




































イヅルは
何時もの様に微笑んだ。






















「―……此処が…
隊長の…居場所なんで…すから……」


優しい瞳は
完全に闇に堕ちた。




「イ……イヅル…?
イヅル…イヅル!!!」


ボクの手の中で、冷たくなっていく身体。
昨日まで、笑っていた人。
ボクの隣に居った人。
当たり前の様に、ボクの人生に居った人。


イヅルの明日が
奪われた瞬間。



ボクの腕の中で
イヅルは明日を失った。


「ッわああぁぁああぁああ!!!」








第十七章:終末の合図
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そう、君の明日は呆気なく崩れて消えた。


(そしてボクの明日は何事もなかったように顔を出す)




 

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