乙女の悩み事1







穏やかな休日の午後。
青く澄んだ、晴れ渡る空。


そしてそれを切り裂いたのは―…



『きゃああああぁぁぁあ――ッッ』



愛する人の断末魔。









「な、何やっ!?なまえ、どないした!?」


だだことならぬ声に、家の中とは言え声の元へと瞬歩を使う。
タンッと、乾いた音を立てて、「脱衣所」の襖を開ける。


「どないs―…『きゃあぁっ』へぶぅッ!!!」


しゃがみ込む愛しい人に手を差し伸べようとすると、左頬に衝撃が走り変な声だけが意識と関係なしに飛び出た。


『見ないでよ!来ないでよ!エッチ!!』
「な、ちょッ…痛イッ!!!」


なまえは甲高く叫ぶと、もう一度俺の頬に平手打ちを喰らわせて俺を脱衣所の外へと追い出した。



「な…何やねん、ホンマ」


熱をもって腫れる頬を、自分の冷たい手のひらでさすった。


暫く放けて廊下に座りこんどると、脱衣所から普段着の浴衣を身にまとったなまえが出てきた。


『あれ?真子。何してるの?』


きょとん、ととぼけた顔で俺を見遣るなまえ。
今さっき自分でしたことも忘れ、反省の色皆無なコイツにあきれ果てて何も言えへん。


「――…見張りや」


ポツリ、そう吐き捨てればコイツはケラケラと笑う。


『あははッ 一番覗きそうな人が何言ってんのよ。大体、この家には私と真子しかいないじゃない』
「うっさいわ、阿呆」


大口を開けて笑うなまえを下から見上げていると、ふと違和感を覚えた。


「―…何や、お前…その顎、二重になってへn――ゴペァッ!!!」


言い切る前に、なまえの膝が顔面にめりこんだ。


あァ、こらァあかん。
完全に鼻なあくなってもーた。


『し、しししし…真子のバカ!最低!どチンカス野郎!!!』
「女の子がそんなん言うたらアカン!」


言い逃げるかのように走り去る後ろ姿を見送り、なくなったであろう俺の鼻の存在を確かめる。



「―…辛うじて残っとったわ…ん?」


開け放たれたままの脱衣所の襖。
その隙間から見えたのは、女子が最も嫌いで最も気になる数字を示すもの。


「あー…なるほど」


俺はまだ痛む鼻をさすりながら、腰をあげた。


あァ、あかん。
頭クラックラするわ。


「ほんま、こんなん俺しか相手できへんなァ」


怪力具合に力なく笑い、俺はアイツが走り去った方へ向かった。





『―ッあぁ゛もう!!サイッテー。真子のバカ。アホ。デリカシーないんだから…!!』


気持ちとは裏腹に透き通るように青い空の下、私はただ喚く。
喚きながら、ふと思い出したかのように顎の下をさする。


『ち、ちょっとだもん…』
「何がや」
『ッ!!?』


ハッと振り返ると、そこには気怠そうな顔をした真子がいた。


『な、なんでもないわよ。乙女の事情に口出ししないでよね。デリカシーもなく、いきなり脱衣所に入ってくるなんて、本当に信じられない』


フンッと鼻を鳴らし、真子に背を向ける私は。
なんて可愛らしくない。

そんな私の背後で聞こえた、小さなため息。
ああ。やめて。可愛くないけれど、嫌わないで。


「阿呆」


降ってきたのは、思いのほか優しい声。


「お前が叫びよるから、何事かと思って開けただけやんけ」


ふわり。真子の香りに包まれた。
背中に感じる、真子の体温。


「俺が傍におるのに、お前に何かあったら…俺、絶対俺ンこと許せへん」


甘い甘い言葉。
甘くて胸焼けしてしまいそうな言葉だけれど、真子の気怠い不本意そうな声とブレンドされて程よい甘さで私の耳に残る。



「まァ、今回は力ずくでどうにかなる相手やないしな」
『へ?』


甘く優しい声は不意に終わりを告げ、意地の悪い声が頭上から降ってくる。
怪訝に思い、振り返ると、楽しそうに笑っている顔。


「ダイエットやったら、協力するで」
『!!』


全てを悟った、瞳があった。


『真子なんて、大ッ嫌い!!!』
「痛ァアッッ」



空は快晴、

本日も平穏なり。





(ちなみに今何kgなn―…(うっさい、黙れ粗チン)アカンて!)
  - Shinji -
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私を太らせるのは、


( 貴方がくれる甘い言葉 )

15.03.03.20:48





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