おかっぱ vs 銀きつね 萌え競争
『ねェ、真子』
「何や」
私が名前を呼んでも、ファッション雑誌から視線を外さないまま声だけを私に向けるという、何とも怠惰な私の彼氏サマ。
私は少しだけ唇を尖らせながら、真子ににじり寄る。
ファッション誌を食い入るように見つめる真子の視界に入ろうと、ソファーに座り、足を組む真子の膝に顎を乗せた。
「…何や、構ってチャンか」
私ではなく時計を見遣り、最後に私に構ってから何分経っているかを計算する真子。
『失礼ね、そんなに構ってチャンじゃないわよ』
そう頬を膨らませてみせるけど、そんな私はどこ吹く風。
「何を寝惚けたこと言うてんねん。毎度毎度20分から30分間空けると近寄ってくるやんけ」
『そ、そんなことないもん』
根拠のない否定に、真子は軽く鼻で笑ってまた雑誌に視線を落とす。
やはり視線は私に向かない。
どうやら真子は新しいアウターを購入予定らしい。
アウターのページを捲っては戻し、を繰り返している。
洋服で頭がいっぱいのときに、私が入り込む隙はない。
( ちぇ… )
私はつまらなさそうに読みかけの漫画を手に取って、真子の隣に座り、背もたれに体を預けた。
パラパラと捲る少女漫画は私たちとは裏腹に、幸せいっぱい。
いや、別に私が今幸せじゃないとか言いたいんじゃなくて。
唯、互いの好きって気持ちが溢れすぎちゃってるんですっ
…と、いう感じの雰囲気が、漫画からは溢れている。
( 最早熟年夫婦みたい )
心の中で溜息を付きながら物語の展開を見守る。
肉食系男子が、彼女に
[ もう、我慢できない…!お前がほしい ]
とか言いながら押し倒すシーンに突入し、ふと違和感を覚えた。
私はその違和感を素直に口に出して真子に問いかける。
『…よくさァ、彼氏が我慢できなくなって彼女のこと押し倒すシーンって見かけるけど…実際ないよね』
真子と付き合うようになってもう二年。
二年というのは割と長かったけれど、その長い日々を思い返してみても、真子に押し倒された記憶なんてない。
「何やなまえ、押し倒して欲しいんか」
アウターのページからコラムのページに変わった真子は、私の独り言のような疑問に応えてくれた。
それでもやっぱり、視線は雑誌に向けられたままだけれど。
『ち、違うわ!』
慌てて否定すれば、真子はやっと視線を上げて私を見遣り、可笑しそうに口角を上げた。
「押し倒して良えんやったら、いくらでも押し倒したるわ」
不敵に笑う真子が、妙に男らしく見えた。
『だ、だめに決まってるでしょ!』
今度は私が視線を漫画に戻し、赤くなった顔を見られまいと俯く。
「な?俺はなまえが嫌がることせェへんわ」
紳士やろ?
そう言って得意気に笑った真子に、負けた気分になったから。
少し悔しくて
『やっぱ、押し倒して』
そう囁くように告げれば。
「ッアホか!!」
今度は耳まで赤くしたのは、真子の方だった。
(私の勝ちね)(今夜は寝れへんの、覚悟しとき)
狐vsオカッパ萌競争。
〜平子編
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紳士で照れ屋な、あなたが好きよ。
(照れ屋な平子さんに萌え)
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