Une larme et pluie





こない雨の日は、君のことを思い出す。
あの愛の言葉は、雨と一緒に溶けて。


どうせなら、何も。
そう、何も。

ボクに言わへん方が良かった。

いっそ沈黙を守って、あない偽物の溶ける愛の言葉なんや吐かへん方が良かったんや。



「なァ、なまえちゃん」
『…なぁに?』


窓の外で泣いている、雨の如く穏やかな声。
いつもはその声に安堵を覚えるのやけど。

今日は胸の内側がそわそわと騒ぐ。
いつも通りの声色が、怖かった。
ぎくり、と、ボクの心が怯える。


「キス、してや」


ねだるように、縋るように。
静かに本を読む君の頬に擦り寄った。

温もりに飢えた子猫のように、
愛に飢えた花のように、

君の温もりに、擦り寄った。

せやけど君は、本から視線を上げると少し困ったように笑った。


『どうしたの、急に』


眉尻を下げて無理やり口角をあげた寂しい微笑み。

ああ、嫌や

そない顔、せんといて。
何も言わんと、ボクにキスして。

君の温もりに触れて、君の温もりを感じて。

その唇に、ボクの唇を重ねたいだけやのに。

理由なんて、要らんはずやろ?

今更、君の愛に触れるのに、

どないな理由が要んねやろ。

君を好きだと、

君の温もりが欲しいのだと、

それだけでは、足りひんのやろうか。



「ええから…」


そう、絞り出す声が震えていた。
君にすがる、ボクの睫毛が震える。


何も言わんと、ボクにキスして。



なまえちゃんの唇から漏れたのは、僅かなため息。
ボクの心臓が、跳ねる。


『ギン』


なまえちゃんの穏やかな声がボクを呼ぶ。
それに応えるように、僅かに首の角度を変えて、君の唇を求める。


おざなりなキスが、降ってくる。

外で泣く雨よりもずっと、柔らかくて、か細くて、冷たくて、寂しい。


君の今の感情が流れ込む。
君の温もりに触れた途端、全てがわかった。


ああ、ボクの頬に雨が伝う。
窓に伝う雨と同じく。

緩やかに曲線を描きながら、落ちていく。
つるつると、何かを溶かすかのように。


君の、語るような声が好きやった。
物語を紡ぐような所作が好きやった。
子守唄のような微笑みが好きやった。

もう少し、君の温もりに、愛に。

抱かれていたかった。


最後に聞いた。

ボク等の関係の終わりに、




「愛してる?」





なんて愚かな言葉やろう。
君の愛は、雨と一緒に排水溝へ、流れていってしまったというのに。


君の口先に、愛の言葉は見えない。



ボクの愛も、どれだけ素敵な歌にのせたって

君にはもう、届かへんねや。



『……うん、勿論』


それが、君の精一杯の嘘やと、気づいていた。





きっと、空が泣き止んでしまったら。

陽が木々の隙間から溢れても、
空が茜色に染まっても、
白い綿雪が降り注いでも、



君はもう、隣にいない。



ボクの代わりに、ひたすらに泣く空。


あと、もう少しだけ泣いていて。



もう少しだけ、君が好きだと叫んでいたい。


空が子どものように泣きじゃくる。
君は、宥めるようにボクの傍に居て。


空が泣き止めば、雲の合間に目を疑うほど澄んだ蒼が広がっていて。


もう二度と、君の温もりは得られへんねやと、

悟ったボクが泣いた。






溶け出したのは、ボクの恋
Une larme et pluie
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流れたのは、君の愛


( 涙と雨、そして僅かな愛がそこにはあった )

14.7.31.20:41











 

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