純白が染まる瞬間





届かないと分かってて
月に手を伸ばすより

儚いと分かってて
蝶に手を伸ばすより

想いを秘めた指先を
君に伸ばす事の方が

神に背いている気がして。

それだけが
唯一の躊躇い。




「なまえ三席、この書類頼むよ」
『はい、吉良副隊長』
「ほな、イヅルお茶淹れてやァ」
「はい、只今」


ありきたりな仕事場での会話。
その中で、唯一場違いな想いを抱えるボク。


『じゃあ、隊長はこれに判子くーださい』
「えー…」
『ほら、早く』


そう急かしたかと思うと、ボクの手を取って勝手に書類に判子を押すなまえちゃん。
君はそうやって。
いとも簡単にボクに触れる。

君に触れられた所が、熱を持つ。


「そんなん、ボクが押す意味無いやん」
『つべこべ言わず、はい、こっちにも』


そう言ってまた、君がボクに触れる。

…熱い。
じんじんと、確かに其処に残る熱。
君が触れた証拠。

ボクから君に触れるのは
何故か、汚ない様な気がして。

何にも穢されない純白の君。
ボクのどす黒い物が触れたら
君の純白が穢れてしまいそうで。

伸ばしかけては
手は宙を掻く。

触れてはいけない
触れてみたい

もどかしい。

君はこないにも
近くに居るのに。


『隊長、顔色悪いですよ?』
「ッ!」


白い手が、ボクの額に触れた。


『んー…熱は無いみたいですけど…
一応四番隊に行ってみます?』


ボクの顔を覗き込む。

そない見つめたら、君は穢れてしまう。

いや、いっそボク色に染めてしまおうか。
穢して、汚して。


「……大丈夫や」


ボクは仮面を貼り付けた。
君を穢したら、もう元に戻せない様な気がして。
怖なったから。

君に触れるには。
どないしたら良えねやろう。

そう考えた所で
今日もまた
この穢れた手は宙を掻く。


『隊長?』


きょとん、とした瞳が、ボクを捕えた。

離して
離さんといて

ああ、ダメや。

もう少し、捕まっとりたい。

もどかしい。

こないにも、君は近くに居るのに。

気持ちが遠い。
気持ちが…

心が…

君の心に
触れたい

君はこないにも近くに居るのに。

君の心は遙か彼方。

触れたい
触れたい

穢したい。








ああ、あかん。








「好きや」


ボクの手は宙を掻く事なく
君に触れた。

君の細い手首を
君の白い手首を


『―…あたしもですよ』


言葉を失う君。
そして笑う君。

その笑顔は何処も穢れてへんで。
純白の笑顔が、ボクに向けられた。


『好きです』


純白が、淡い桃色に変わった。
その瞬間








ああ、あかん。








ボクが染められてしもた。






(執務中に何仰ってるんですか、隊長、みょうじ三席)(ッわ、忘れてください///)
純白が染まる瞬間
--------------------
純白ほど、染まりやすいものはなくて。


(染まったら、もう二度と抜け出せない)

11.05.04.20:42



 

[back]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -