夢見る無防備娘





「なまえちゃん、この書類―…て、あれ?
なまえちゃん?」


イヅルは先刻、副官集令が掛かって出て行った。
三席のなまえちゃんは、今の今まで其処に居た。

…筈。

ほな…なまえちゃんは何処に…



『スー……スー…』
「…ん?」


周囲を見渡すボクの耳に届く、規則正しい呼吸。
ボクは席を立ち、来客用のソファーへと近付いた。
隊首席に背を向けて置いて有るソファー。
背もたれの向こう側を覗けば、黒い髪を広げて眠るなまえちゃんの姿。


「何や、寝てたんか…」


すぅすぅと寝息を立てながら、ソファーの上で眠るなまえちゃん。
髪の隙間から覗く、白い頬。

こないにも安心しきった表情で眠っていると、ボクのこの気持ちがとても汚いものに思えて来る。


「―…好きや…」


囁く様に、夢に落とす様に。
そっと呟いた。

君は知らへん。
ボクのこの気持ちを。

せやから眠る。
ボクの傍で。

こないにも君が好きやのに。
それを知らへん君は、ボクの傍で眠る。

君の夢の中に
ボクが出て来たら良えのに。

そないな事を考えとる事も、君は知らへん。
せやから、こないにも無防備に君は眠る。
ほんま、無防備。

今、ボクがどないな気持ちで君を見ているか。
知りもしないで…


ソファーに体重を掛けると、手を置いた部分が沈んだ。
―キシッとスプリングが軋む音がする。

なまえちゃんの頬を、ボクの銀色の髪が擽る。


『ん…』


小さく漏らした声も、すぐ寝息に変わる。
銀色の前髪と、漆黒の前髪が重なった。

紅い唇まで、あと1ミリ…


「―…お預け…や」


またキシッと音を立てて、ソファーから離れた。
紅い唇に、ボクの唇は乗せれへんかった。

あまりにも無防備に眠る君。

"君が好き"という想いを唇に塗って、君の唇に触れたとして。
君はボクの想いを知る事も無く。
唯、眠る。

どないな想いで。
どないな感情で。

こないにも心臓が煩くても。
こないにも切なくても。

君にキスをしても、君はそれを知る事は無い。
君の唇に触れても、君は何も知らへん。


それやったらいっそ、夢から醒めた君に。
現実を見せ付ける様に、唇を奪いたい。

それまで、お預け。
眠る君に、
無防備に眠る君に、

キスをするのは、また今度。


君の夢の中に、ボクは居てる?




(うぅ〜…ン…バシン!)(痛い!)
夢見る無防備娘
--------------------
夢の中でなら、君にキスできるのに。



(市丸さんは寝相が悪いヒロインの被害者)


11.04.30.09:51


 

[back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -