性質の悪い君





君は誰にでも…
そう、誰にでも。
ボクだけやない。

これは自惚れ。

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「六番隊から書類―…って、何だ。
なまえじゃねェか」
『何だって、何ですか。
阿散井副隊長?』


隊首室の扉をノックする音。
それに応えて扉を開けたのは、三番隊第三席のみょうじなまえちゃん。
扉から顔を出したのは、六番隊ン所の副隊長サン。

鮮やかな赤い髪。
それに微笑むなまえちゃん。


「そうだ、今夜乱菊さんが呑みに行くってよ」
『またですか?
一昨日も行ったばかりなのに…』
「何だよ、行かねェのか?
行かねェなら、前に酔い潰れた時のお前の写真―…」
『い、行きますッ
行かせて下さいッ』


クスクスと穏やかな笑顔を向ける。
その笑顔は、ボクだけのモンやない。


「じゃあな」


鮮やかな赤が出て行くと、急に隊首室に色が無くなった様な錯覚を起こす。


「何や、また呑みに行くの?」


―…君、お酒弱い癖に。


『はい。
弱味握られちゃってるんで』


照れた様に笑うなまえちゃん。
弱味って、何。
前に呑みに行った時、何が有ったん?

ボクとなまえちゃんで呑みに行った時。
なまえちゃんは日本酒一瓶呑む前に潰れてしもた。
結局ボクがおぶって帰った。

…阿散井君も…彼女をおぶって…?


『隊長?どうかしたんですか?』
「ん?ああ、何でも無い」


ボクの顔を覗き込むなまえちゃんは、ほんまに無防備。
ボクがどないな気持ちで君を見ているか。
君は知らへんくせに。


―コンコン…


其処に転がったノックの音。


「失礼します、九番隊より書類です」
『はーい』


なまえちゃんの可愛らしい声が、扉に向けられた。


「お、なまえじゃねェか」
『わ、檜佐木副隊長。
大丈夫ですか?凄い書類の量…』


書類を両手一杯に抱えた、卑猥な刺青入りの九番隊副隊長。
なまえちゃんはすぐに書類を受け取った。


「ああ。
そう言えば今日、乱菊さんが呑みにって」
『先程阿散井副隊長から訊きましたよ。
檜佐木副隊長も行くんですか?』
「ああ、一応な…と。
此処、訂正が有るんだ。
ちょっと良いか?」
『あ、はい』


前髪と前髪が重なる程、近く、近く。
ああ、そない近付いて。


「―…だ。
宜しくな。
後で迎えに来てやる」
『はい、有難う御座いました』


バタン、と扉が閉まり、音が無くなる。
なまえちゃんは自席に着いて、書類の確認を始めた。



…君はほんまに。
誰にでも…

誰にでも…


「―…ッ」


ガタンッと大きな音を立てて、ボクは床に転がった。
勿論、わざと。


『た、隊長!?
どうかしたんですか?』


慌てて駆け寄って来る。
ボクの隣に膝を付いて、ボクの背中に手を置く。


『市丸隊長?』


ボクの顔を覗き込む。
その距離僅か五センチ。

君の唇を奪うには、充分過ぎる距離。

なまえちゃんの両手首を掴んで、押し倒した。
ほら、誰にでも。
誰にでも


君は無防備。


『た、たた…隊長?』


顔を真っ赤にして、ボクを見つめる。
そない顔も、ボクだけやないねやろ?


「…少し…無防備過ぎるのと違う?」


ボクはなまえちゃんの手首を離し、上体を起こした。


「男と呑みに行くなら、ガード堅くして行かなあかんよ」


そう言って、暑いから、と肌蹴させているなまえちゃんの襟元を直した。


「こないな格好、したらあかん」


そう言って立ち上がってなまえちゃんから離れた。


「阿散井君も檜佐木君も。
どんなに良え人でも、男や。
なまえちゃんは、それを解ってへん」
『市丸隊長…』
「……勿論、ボクもや」


そう呟いて、ボクは隊首室を出た。

なして好きなんやろう。
なして無防備なんやろう。

君のその笑顔をボクに向けるには。
君をボクだけの物にするには。

何が足りひんのやろう。
何が必要なんやろう。

君が無防備。


誰にでも、無防備。
誰にでも…


誰にでも、笑いかける
無防備な君に恋をする。

何の装備も無しに、君に恋をする。

ボクが一番、無防備。





(隊長が女だなんて思ったことありませんよ?)(…このド天然め)
性質の悪い君
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無防備、無意識、天然は性質が悪い。



(三拍子揃っとるやないか)

11.4.29.13:54


 

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