閉じた瞳









『ねえ、ウルキオラ様』
「……何だ」


従属官等連れない俺が、唯一共に連れて歩く女、なまえ。
従属官…では無い。
だが、勝手に俺に付き纏う様になってからもう既に三年程の月日を過ごした。

最初こそ、無視していたが三年も共に居ると…
虚無である俺にも何か芽生え始めた。

お陰でこうして女の声にいちいち反応を示してしまう。


『もし…もしも。
貴方が私を好きになるとしたら…どの位の確立?』


その言葉に、俺は足を止めた。
すると、後を歩いていた女も、俺に習って立ち止まる。


「…解せんな…
好き、という言葉など人間達の戯言だ。
一人で生きる事を異様に怖がり、どうにか自分の元に繋ぎとめておきたいと願う下種共の戯言を、お前の口から聞くとはな」


ゆっくりと振り向けば、其処にあったのは今にも泣きだしそうな、寂しげな表情。
…何故、その様な顔をする?

そして、更に俺を混乱させるのが、この胸の内に広がる"焦燥感"。
俺は一体何に焦っている?

その時、女の白い頬を一粒の涙が転げ落ちた。

ドキンッと、自分の心臓が跳ねるのが分かった。
鼓動が早まり、焦り出す俺は…

一体、何だ…この感情は


『…ッ…すみません…
下らない事を聞いて、時間を無駄にさせてしまいまして…』


女は涙を手の甲でさっと拭い、何事も無かったかのように無表情で俯いた。
俺はどうして良いか分からずに、固まったまま。


焦りは、消えない。







この焦燥感と、何とも言えないこの空気をどうにかすべく、俺の唇から漏れた言葉は、俺を更なる混乱に突き落とした。


「…確立で言えば…ゼロでは無い」


…俺は…何を言っているんだ…
女は驚愕の表情と共に俺に向き直った。


『それって……』
「ッ…二度は言わん。
さっさと行くぞ」
『でも、ゼロじゃないんですね!?』
「……あくまで計算上の話だ」


俺は女に背を向けてさっさと歩きだす。
慌てて追いかけて来る女の足音。

それが、先程よりもずっと鮮明に。
何処か、愛おしい様な…

そんな感覚を引き起こす。
それは錯覚だろう、と言い聞かせて、俺は無機質な白い廊下に足音を響かせた。
もう一つの足音と、まだ堅く閉じたままの蕾を携えて。


その蕾が開くのは、もう少し先の話。


「…ニヤニヤするな、なまえ。
気持ち悪いぞ」
『ッはい…!』


初めてウルキオラに名前を呼ばれた事に、笑みを深めてその後ろを行く。




閉じた蕾
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咲かない花など、ありはしない


(可愛いウルキオラさんが書きたくて)

11.08.06.19:03



 

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